例会部会
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「第147回例会」報告

PMAJ例会部会 丸山 敦司:5月号

【データ】
開催日: 2011年2月25日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「人が,ビジネスが育つ収益改善への道」
  ~本当は簡単だった工程管理の問題
講師: 株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス 堀内 政信 氏

 今回の例会では、日立グループにおいて事業の構造改革に実績を上げて来られた堀内先生より具体的な事例を交えて工程管理の課題・原因・解決策をご教授いただきましたので、概要をご紹介致します。

1 課題
工程管理においては、様々な要因で変化するプロジェクトの工程をリアルタイムに管理する「動態管理」が必要となります。動態管理は、プロジェクトが混乱した際に計画と実態が乖離しているのではないかとの懸念から発生し、以下の5点が要求として挙げられます。
他プロジェクトの影響のシミュレーション
進捗と問題発生箇所の迅速かつ正確な把握
問題の兆候の発見および予防策の実施
工程長の短縮に繋がる分析や抽出を可能とする工程関連データの蓄積
工程長短縮効果の長期に渡る定量的な測定・評価

2 原因
  2.1 動態は何故見えないのか
 動態が見えなくなる要因には、「設計変更の対応を特急で実施することはやむを得ないが常態化されては堪らない」と言った感情的な理由や、システムへの入力タイミングが現場に一任されていると言った運用ルールの理由があることを事例に基づいて説明しています。
  2.2 計画は何故変更しなければならなくなるのか
 計画変更が発生する原因や計画変更による影響を例示し、原因については以下のような組織の問題と個人の問題として解説しています。
  計画が疎漏 : メトリクス基準がない(組織の問題)ため、参考としたプロジェクトとの差を見誤っている。経験がない(個人の問題)ため、必要な作業が計画から漏れてしまう。
  怠慢 : 実効性のない工程を作り自分も含めて欺いてしまう(個人の問題)。
  責任感が過ぎ無責任になる : やらねばならない工程を可能な工程と錯覚する(個人の問題)。問題があると言えない雰囲気に飲まれ事実から目を背ける(組織の問題)。
  進め方 : 管理制度の不適合や作業単位と組織能力の不一致(組織の問題)。監視周期が不適切なことにより、トラブルの発見が遅れ、問題が発生することをグラフにより解説。

3 解決への取り組み
 上記の分析に基づいた解決への取り組みは以下の流れとなっています。
  事実を認める勇気を持つ : 「者に聞かず物に聴く」、「事実が上司を説得する」姿勢で事実を明らかにし、解決策を現場から見出した。
  建設計画システムの構築 : 書き込みをその処理に必要であって帳票に不足している情報と捉え、書き込みがある帳票を重視して同一帳票を100枚以上実際に点検し、改善要求が実際の改善に繋がるよう、ワークフローに反映するシステムを構築した。
  結果 : 現場に影響するトラブルが発生の3ヶ月前に補足されるようになった。作業が整流化され、現場に歩行者がいなくなった。職場が整然としており、事故が減少した。
   作業状況をリアルタイムに入力するツールを使うことにより、自ずから「着手期限管理」となり目標に向かって工夫・挑戦し、成功する社員・組織が育ちました。逆に「完了期限管理」は「また駄目だった」となり敗北感が積み重なる結果、ダメ社員をつくってしまいます。

4 まとめ
 以上の考察を踏まえ、以下の4点をまとめとします。
  事実(現場)が問題を解決する。
  工程システムは事実を移すメトリクス鏡である。鏡なしは、コンパスなくして飛ぶ旅客機の如きである。
  人が生き生きと働くためには、問題が事前に察知できることがとても大切である(突然起きると不愉快で犯人探しに陥り、建設的に成り難い)。
  工程は、自らの工夫と覚悟を具体化し、自己表現するツールである。一人一人が毎日自らを改善・訓練できる組織と、そうでない組織の差は日毎に大きくなり、数年後には競争にならないほどに拡大する。

 今回のご講演はプロジェクトマネジメントが単にプロジェクトを上手く遂行するためのものに留まらず、個人の創意工夫を引き出し、個人・組織を継続的に訓練する方法であり、またそのような管理手法・ツールを採用すべきであるとのお考えが、これまで漠然と感じていたプロジェクトマネジメントの可能性を端的に表現するものとして非常に感銘を受けました。また、具体的な固有名詞や数値は当然ありませんが、組織としての失敗事例を含めてご紹介いただいたことは、現場主義・事実主義のご講演の内容を裏付ける貴重なものと感謝しております。
 アンケートの結果はプレゼンテーションではほぼ全員が満足以上との回答でしたが、資料については4割の方がやや不満以下との回答でした。これは、配布資料と講演の内容の関連が判りにくいことが原因のようです。配布資料との関連については、司会としてご講演を伺っていて感じていたことですので、主催者側として補足をお願いすべきだったと反省しております。
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