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「私たちのP2M (Project & Program Management )」とは何か、考えてみませんか
-発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (7)-

渡辺 貢成:7月号

P2Mとお付き合い頂き、15回目になりました。
(1)経営を俯瞰すると自社の特徴が見えてくる
経営を俯瞰するOWモデルの話しをしてきました。経営を俯瞰するということは経営者にとって最も大切なことです。自社の経営を俯瞰し、競合者の経営を俯瞰し、対比することで相手に勝つことができます。
 ここで再度P2Mをおさらいしましょう。
1) P2Mは発注者のために効果的なPMです。何故でしょうか。解りますか?
P2Mは「スキームモデル(構想計画)」で自社の事業の投資計画を考えます。これは発注者の仕事です。
「システムモデル(システムの構築)」は構想計画で決定した要求仕様をベンダーに提供し、委託します。
「サービスモデル(運用)」は事業者が収益を上げるところです。既に構想計画で収益最大化の設計済みですが、運用では担当者があらゆる工夫で意図した以上の成果をだす工夫をします。発注者が構想計画から一貫して責任を持って実施するから効果を出せます。

2) 構想計画で最も大切なことは何だったでしょうか?
「ありのままの姿」を俯瞰する
ミッション・プロファイリングで経営を俯瞰し、現在の「ありのままの姿」から問題点を突き止めます。この道具がOWモデルです。
図5.1 プロファイリングマネジメント策定図
左図で現状の「ありのままの姿」を俯瞰するのがOWモデルです。
OWモデルは8つの視点と中央の経営力(価値創出力)で経営を眺め問題点を摘出します。
OWモデルの使い方は2011年1月号から6月号までかけて説明しました。
PMAJのライブラリから再度見ることができます。


洞察力で「あるべき姿」を洞察する!
次は「あるべき姿」をどう捉えるかを決めます。上図では洞察力によって「あるべき姿」を描くとなっています。しかし、多くの人は洞察力を発揮することが難しいのではないでしょうか、そこでBM(ビジネスモデル)を考えることで目的を達成することを考えました。
ビジネススクールに入りますとは過去の経営事例をBMとして整理し、それを参考に新しいBMを創出することを学びます。BMの事例のお話しは後半にします。
プログラムの使命・目的・目標を決める
ミッション・プロファイリングで使命・目的・目標を決めましょう。
図1では俯瞰力で「ありのままの姿」の問題点をいくつか発見します。競合者が実行しているBMがわかれば、それを「あるべき姿」としてそのギャップを認識し、それを課題とします。その課題をプロジェクトに置き換えると、課題1プロジェクトの使命・目的・目標を決めることができます。課題2のプロジェクトも同様にして課題2プロジェクトの使命・目的・目標を決めることができます。仮に課題が9つあったとすると、9つの課題を解決するプロジェクトと夫々の使命・目的・目標を持ったプログラムになります。

複雑なプログラムマネジメントも9つのプロジェクトの連合体となりますが、個々のプロジェクトのマネジャーに権限と責任を委譲すれば容易に管理できます。

(2) 他社を俯瞰する:サムスンのBMと日本企業のBM
   -OWモデルを活用した「ありのままの姿」の比較-

サ ム ス ン
Ⅰ. 顧客関係性構築力 新興国へ人材を派遣し、数年間各地に滞在させ、文化、価値観、人脈構築、庶民の潜在ニーズの収集
Ⅱ. 販売開発力 現地のニーズ合った商品提供
Ⅲ. マーケット開発力 新興国に焦点を絞る
Ⅳ. 商品、
サービス提供力
中・低レベル商品、低価格戦略、
日本製品から不要機能の削除、必要機能追加
Ⅴ. 経営資源蓄積力
 知的資源の蓄積
 人的資源
全社データベース化の徹底
日本からCAD/CAM導入、製造ノウハウ退職日本人から収集
高レベル人的資源の活用(成果主義、プロジェクトを任せるが失敗すれば退職と厳しい)
Ⅵ. 業務プロセス 製図設計以降のスピード化
Ⅶ. 組織 人材の徹底した意識改革
サムスン改革は1993年から5カ年計画でこの間に技術を除いて日本に追いつきました。
サムスンは創業者経営で、決断が早く的確で、いち早く世界戦略でDRAMの量産でコスト低減に成功しました。この間日本企業はMETI指導でDRAMの生産の棲み分けを行い、サムスンにコスト競争力で差別化されました。また、韓国内での独占を利用し、国内では十分な利益を獲得し、このゆとりを足場に海外では安値攻勢が可能となり、商売を有利に展開した。一方日本企業は10社で足の引っ張り合いを行い、収益のない競争で疲弊していきました。日本企業は技術が良ければ売れるという傲慢さが、サムスンの努力とマネジメント力の高さを見逃し、電機産業で活きる道が薄くなっています。下図を比較検討されたい。

図2. 経営解析型俯瞰図 サムスンの戦略を俯瞰する

図3. 経営解析型俯瞰図 日本企業の電気産業戦略を俯瞰する

(3) 「あるべき姿」を洞察できなかった事例
    -アナログ時代からデジタル時代への推移を洞察できなかった日本-
1) 製造業の急激な変化への洞察:垂直分業から水平分業への転換
 1990年は日本が製造業で世界一になった年です。米国は1987年にマルコム・ボルトリッジ賞を設定して、米国製造業のリベンジの高い決意を示しました。
コンピュータはメインフレームの時代からPCの時代へと変わりました。日本のPCは競争力があり、ある期間高値で推移していました。PCの中心はMS(マイクロソフト)のOSとインテルのMPUです。この高値ではPCの普及が先進国にどまりで、新興国に普及しません。そこでインテルは図4に示すように、MUPをブラックボックス化し、それ以外の部品を標準化しました。そして組み立てノウハウを台湾の企業に提供し、部品はどこからでも購入
図4 イノベーションのからくり「三位一体型戦略」
できる、水平分業方式というBM(ビジネスモデル)を確立しました。これはデジタル技術を最高に取り入れた方式で、2つの大きな決定的な社会変化をもたらしました。
グローバル型大量生産方式の確立で、新興国でPC普及が急速に拡大した
新興国等の人件費の安く、消費の大きい国での生産が主流となった
これと付随して起きた問題は、このBMが家電製品にも適用され、先進国特に日本の製造業(典型的な垂直統合型)は決定的なダメージを受けました。先進国でPCをつくっていたIBMはPC製造を放棄しました。他方インテルとMSはPCの世界的市場の拡大で、急激な時価総額の高騰という結果を獲得しました。


(4) 電子ネットワーク活用偽装垂直統合型製造BM
 世の中はスパイラルに発展するといわれています。アップルはマッキントッシュンの時代PCとOSの組み合わせで使い勝手のよい製品を提供していましたが、MSがハードとソフトを分離し、ハードを標準化し、低コスト生産体制を整えて、PC普及をつとめたため、アップルはたそがれの時代を迎えました。しかしマッキントッシュの生みの親ステーブ・ジョブスの復帰で、iPod、iPhone、iPadの生産で時価総額27兆円でMSの20兆円を超えるまでになりました。
図5 システムレイヤーにおける競争(アップルのBM)
図5はウォークマンのソニーとiPodの対決です。ソニーは自社に多くの音楽コンテンツを持っていたことを有利に感じていました。しかしアップルは使用権を持つ音楽事務所と契約し、i-Tunes 経由で低料金で音楽をダウンロードできるサービスとハードの販売という2重のBMをつくりました。ものづくりに関してはWINTEL(MS/INTEL)の水平分業方式ではなく、アップルの目利きで決めた業者を使って製造させる偽装垂直統合型モデル(日本の垂直統合の良さを取り入れた方式)を採用し、極めの細かな商品を提供しています。

日本は「ものづくり=技術、ハードの提供」と正解は一つしかない政策を官民こぞって推進しています。頭の切り替えで、アップルはライバルのMSを再度凌駕しました。日本人が頭を切り替えて、日本人の持つ有利さを何故発揮できないのでしょうか。

次回は「あるべき姿」を求めるBMのつくり方を勉強しましょう。
以上
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