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「私たちのP2M (Project & Program Management )」とは何か、考えてみませんか
-発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (6)-

渡辺 貢成:6月号

―原発事故にどう向き合うか-
今日本は東日本大震災という過去にない災害にあい、この問題解決を国民全員で行おうとしています。この問題をPM的に考えて見ましょう。
Step1: 震災が発生した後の被災者の行動
これは世界の賞賛を受けました
Step2: 原発問題が発生しました
ここで大混乱が起きました。PM的に見ますと緊急時の対応です。40年間無事故で過ごした組織に想定外の事故に対する訓練ができていませんでした。
(因みに原発では常に事故対策訓練が行われています。通常のプラントですと小さな事故は常にあり、訓練が出来ていますが、原発は非常によく完成されたプラントのため、大きな問題もなく経過するため、訓練はシミュレーター上で行われます。残念ながらシミュレーターには想定外事故は組み込まれていませんでした。

捕虜のサバイバル訓練
米国軍隊は危機に強いので有名です。
昔の日本軍は捕虜になったときの対策は「死ね!」でした。
米国軍隊は「如何に生き延びるか」という訓練をしています。ここではあらゆる状況を想定して、サバイバル訓練をして戦場に送り出しています。
ここで米軍の素晴らしさをお話しします。自分達の訓練が正しかったかどうかを検証していることです。
結果は捕虜が遭遇した現実は想定外のほうが多いという事実でした。
これは人の生死に関する訓練の問題です。自分達の訓練が至らなかったと日本では発表するでしょうか。
米国軍隊は発表します。想定外でも生き延びた捕虜が何人もいました。彼らの報告では、活きるためにあらゆる可能性を考え創意工夫したということでした。
この教訓は2つあります。
教訓1: 「各個人はどのような事態になっても、人の責任にしないで、自分の置かれた状況を判断し、最善の努力をしなさい」というものです。自分のことは自分で責任を取れという教訓です
教訓2: 「新しい事実が発見されたら、次に如何に有効にその事実を取り入れるか」という組織と個人の行動認識です。発表することでそれ以降の人々の幸せが多くなるという発想で、国民も想定外の過ちを非難せずに、これを経験として今後に活かすことを考えます。

では日本ではどうでしょうか、日本国は昔から「国は過ちを犯さないという原理で、誤りはないという姿勢を貫く」政策で今日まで来ています。米国と日本の相違は何かわかりますか。米国は国民から見た解決策は何かという立場をとっていますが、日本は国という指導者はどうあらねばならないかという立場で政策が貫かれている点です。

◎では、原発事故で米国の発想は 5月22日(日)朝日新聞の記事によると「原発爆発後大量汚染を想定」米軍、全面支援リストが提案されています。
原発推進国の米国は最悪事態発生で政府は何をするべきかを考えて、原発推進に踏み切っていることです。

◎では日本政府も原発推進に当たっては同様なことを考えるべきだと誰もが想定します。しかし、当時は日本人のメンタリティからみて「起こりもしない最悪の事態を想定した対策を国民に知らせたら原発推進はできない」という発想でした。日本人には「リスクを考えるとリスクが実現するという言霊という深層心理があり」米国的発想を取り入れていないと想定します。
◎実は原発だけでなく、通常のPMでリスクマネジメントを実施することを今でも嫌う風習が残されています。

第12回 6月号はここから始まる
 原発事故からの組織のあり方についての日米の相違を理解していただいた上でOWモデルの「Ⅷ.組織の市場対応力」の説明に入ります。
 (1) 組織とは何か
 ドラッカーの言う組織とマネジメントを示します。
 ・組織はその成果を通じて、社会に貢献します
 ・組織は、存在そのものに価値があるのではなく、その成果に価値があります。
 ・組織は「目的」ではなく、「手段」です
 ・マネジメントは組織に成果をあげさせるための機関です

 (2) 組織の形態は外部環境に応じて変わる
 OWモデルは時代と共に外部環境によって変わってきた組織の形態と夫々の機能とその効果について整理しました。これを図1に示します。
 1) 階層組織
 個人企業から規模が大きくなると、階層化した組織が必要となります。多重階層になります。組織が安定化すると、「手段」である組織が「目的」化して組織存続が目的となり、成果の出ない組織となります。組織は活性化する努力を怠ると確実に破綻します。ただ、親方日の丸の組織はつぶれないので、その場合は国家が破綻します。あなたの身の回りを眺めてください。
図1 エレメント OWモデル曼荼羅  2) 戦略情報事業単位
企業は戦略を中心に動きます。戦略が組織の末端まで届き、戦略が徹底できる組織の大きさを単位としたものです。
 3) コアコンピタンス+BPO
自社のビジネスプロセスの中で付加価値の高い業務をコアコンピタンスといい、付加価値の高い業務部署です。この強みのあるところは自社で行い、他社で安くできるところをアウトソースする方式です。米国ではかなりの範囲までアウトソースしています。

 4) PM+PMO
インターネット普及以降社会の変化が早く、階層組織だけで組織運営すると意思決定が遅く、競争に負けます。そこで現在は業務の30%程度はプロジェクトを立ち上げ、業務を処理しています。多くのプロジェクトが立ち上がりますと、バランスよく人材を配布し、どのプロジェクトも成功させる必要があり、これらを調整するPMO(Project Management Office)の存在が重視されています。
 ◎ P2M
PMの中でP2Mはユニークで、事業者のために創られたPMです。もちろんベンダーにも利用されます。P2Mは現代の持つ複雑なもの、不確実なもの、多義性のあるものを捉え、これをプログラムとプロジェクトの統合で新しい価値を提供するもので、環境は常に変化するので、変化を考慮した中で価値の目減りをコントロールするPMです。
 ◎ アジャイルPM
卓越したビジョナリーカンパニーの特徴は「企業は時代を超えた中核価値と永続的な目的という絶対に変わらない部分と、慣行やビジネス戦略といった変貌する環境の中で常に変わらなければならないものとがあり、これを効果的に運営している」点です。アジャイルは情報の洪水の中から関連する情報を選ぶより、4つの中核価値を打ち立て対応してます。
①プロセスやツールよりも 個人との対話を優先する
②包括的なドキュメントよりも、 動作する製品を優先する
③契約の交渉よりも、 顧客との交渉を優先する
④計画に従うよりも、 変化への対応を優先する
ここで「アジャイル」を定義します。
アジャイルとは激変するビジネス環境から利益を生み出すために、変化に適応すると同時に、変化を作り出す能力を指す。
アジャイルとは柔軟性と安定性のバランスを取る能力である

 5) 市場変化ダイナミック対応型
 ①組織IQ導入型:
図2:組織IQ

日本企業の常識として「企業は人なり」という標語で人材育成に投資してきたした。長年ボトムアップ的教育を受けた人材は終身雇用の中で経験を積み、階層を駆け上っていきました。これは図2の中の左上組織IQ図のY軸組織成員の資質の向上に貢献しました。しかし、市場の変化が早くなった今日では組織のIQ(X軸)となる組織IQを高くし、Y軸、X軸共に伸びることで組織のダイナミックな市場対応力が構築されるとしたのが図中図組織IQ能力です。
 ここで組織IQとは何か説明します。組織IQを高めるには「環境変化を素早く感知し、戦略をオペレーションにつなげ、正確なフィードバックが得られるような知的組織をつくる」経営者の覚悟とリーダーシップが必要です。図では組織IQの指標を5つの視点で捉えています。
②SCMフレキシブル提携型、③ネットワーク提携型
他社と組むことによって、スピーディーな経営活動をはかる経営組織です。②はバリューチェインの縦型提携であり、③はネットワークによる水平提携です。
④ホロニック型、⑤アメーバー型
組織の中のローカルな部分が、ある一定のルールの中で市場変化のにあわせた活動をしても結果的に全体も最適化するという共に似た経営組織です。

 6) 組織成熟度
 製造業は製品の品質とコストで勝負しますが、製品の質は手にとって見ることができます。ところがITシステムや大型プラントは出来上がるまで手にとって見ることができません。これらは多くの人手を掛けて製品が出来上がるため、人も組織も未熟ではよい製品ができません。そこで組織の業務を遂行する成熟の程度を適切な基準でレベル1~5段階にわけます。組織は事前にレベルを査定してもらいます。発注者は要求に合ったレベルの企業群から契約者を決めます。
原子力発電所関連の企業はその成熟度をQAレベルA,B,Cとし、原子炉周りの工事はQAレベルAで、それ以外の企業は受注できないようになっています。

 (3) 組織一般論
 欧米の企業は「企業は組織なり」といって、経営者の役割は自社の業務をシステム化して、誰が仕事をしても同じものがつく入れる仕組をつくります。これに反し日本では「企業は人なり」を貫いてきました。当然どちらが優れているか誰もが興味を持ちますが、結論を出す前に双方の相違を理解しましょう。
図3 日米組織の相違点 日米企業組織の大きな相違は
 ① 労働組合:
米国は労働者が社外組織のユニオンに所属し、ユニオンからの紹介で企業で雇われる。そのため解雇が容易で労働流動性がある。
日本は企業内労働組合であるため、会社を辞めると、職を自分で探す必要があり、逆に企業は容易に解雇できない。労働流動性が低い
 ② スタンダード:
 米国は国家スタンダード、業界スタンダードが整備されており、スタンダードには資格制度があり、個人は自費で資格を取ります。企業は業界スタンダードを採用しているため、資格者を採用すると即日戦力として使うことができる利点があります。また、米国の利点はスタンダードを業界等が常時アップデートしているので企業に負担が掛からず、常に最新のものが整備されている。
 日本は業界スタンダードより企業内スタンダードが多く、資格制度がなく、終身雇用の中で企業スタンダードや業務をOJTで学んでいます。終身雇用のため一度スタンダードを憶えるとスタンダードを読まなくても仕事ができるので、自社スタンダードの整備が疎かになりやすい。しかし、新人や転職者はスタンダードや企業文化を理解するのに文書化されていないので苦労します。
 ③優劣比較:
 米国は社内で実績のあるものは、ナレッジが整理されているので、そのナッレジのレベルから上位の仕事をさせられる。しかし、命令された以上を実行しない傾向がある。
 日本は新しい職場に入ると一から学んでスタートするから、転職者には厳しい組織である。ナレッジが整備されていないので、前任者の経験が活かされない。変化のスピードが速くない時代は日本人の創意工夫で有利さを出していましたが、近年はグローバル化の流れに反して内向き姿勢が目立ち、組織の活性化も後れを取っています。特にIT化に関しては、デジタル技術の経営への取入れが貧弱で、経営にIT化のメリットを活かしきれていなません。

 (4) まとめ
日本企業の組織が近年特に停滞しています。経営者が無理をせず、内向き思考となり、官僚並みに意思決定の先送りが多く、韓国企業に後塵を拝しています。
 OWモデルを眺めながら自社の組織の活性化をどうしたらよいか、考えて見てください。
大変役に立ちます。
以上
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