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「私たちのP2M (Project & Program Management )」とは何か、考えてみませんか
-発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (5)-

渡辺 貢成:5月号

連載1年でP2Mに対する期待はどのように変わってきたでしょうか!
  「私たちのP2Mとは何か、考えて見ませんか」を書き始めて1年たちます。この1年で日本人の発想が、内向きから外向きになろうとしています。また、PMAJ理事長の精力的なグローバル化戦略の実施で、P2Mを実施する国が増えてきました。この内容はPMAJジャーナル40号で詳しく報告されています。ここでの出色はウクライナ政府が同国の財政再建と新経済成長戦略策定に向けたイノベーション推進のために公式スタンダードとしてP2Mを採用したことです。

また、通商産業省もグローバル市場開発の戦略5分野で今後140兆円以上の市場創出を狙っています。これらは広い分野にわたり、ビジネス機会の多い分野ですが、複雑で、不確実性の高い分野でもあります。P2Mは10年以上前にこの世界「多義性、拡張性、複雑性、不確実性」のPMを目指して開発したものです。

今日本は東日本大震災という過去にない災害にあい、この問題解決を国民全員で行おうとしています。前例のない、複雑で、多様で、不確実な問題を抱えています。しかし、見方をマイナス面だけで捉えず、東北は新たな更地が出現したと考えると、新しい理想の地域を出現させるまたとない機会と言えます。世界中が日本を助けようと考えてくれています。世界中の知恵を借りて新しい世界遺産をつくることも可能です。世界中の好意を形に表すことができれば、将来の観光資源とすることにもなります。

この震災の発生で世界中の人々が日本を評価したことがあります。震災後の日本人の行動です。『①被害地で泥棒、強奪、暴動が全く発生しなかった。②便乗値上げがなかった、③商品の買占めをせず、秩序よく、皆で分け合っていた』というものです。ニューヨーク・タイムスがこのような国が世界中のどこにあるかと絶賛しています。「正義」の講義で有名な、ハーバード大学のサンデル教授が日本の大震災を取り上げて、ハーバード大学生、上海の大学生、日本の大学生と一般人を交えたテレビ講座をNHKテレビ上で開催しました。最後にハーバード大学の女子学生が云った言葉が心に残りました。「日本人の災害後の行動は、どのような状況でも、すべての人々が周囲の人々を視野に入れた考えを持って行動している。このような人々が同じ地球上にいることを私は誇りに思いました」というものです。
これら世界中の好意に対し、今度は日本人が誇りを持って世界に発信したいものです。私はP2Mが将にこの問題解決に最もふさわしいものと考えて今このエッセイを書いています。大切なことは経営をやさしく理解し、先送りせずに実行することです。

第12回 5月号はここから始まる
4) 発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (5)
 前回までに「ミッション・プロファイリング策定図」でⅡ.「販売開発力」モデル展開図から Ⅲ.「マーケット開発力」、Ⅳ.「商品・サービス提供力」、Ⅴ.「研究開発力」を飛ばして、Ⅵ.「経営資源蓄積力」展開図の説明をしました。
今回はⅦ.「業務プロセス活性化力」の話をします。

 Ⅶ. 業務プロセス活性化力:
  通常、業務の流れとは、現在仕事をしている手順のことをいいます。P2Mでは業務プロセスを6つの流れに分類し下図に示します。あなたは現状の業務プロセスの夫々がどの程度活性化しているかを分析できます。
Ⅶ.業務プロセスの活性化的展開 主要な流れを示します。
①モノの流れのプロセス化、
②金の流れのプロセス化、
③情報の流れのプロセス化、
④ナレッジの流れのプロセス化、
⑤意思決定の流れのプロセス化、
⑥意識改革のプロセス化
です。
そして丸数字が高いほど、経営のレベルが高く、業績を上げています。そこで皆さん方は自社が丸数字のどこで、どのようなプロセス化ができているか分析してください。次に米国の有力企業やサムスンがどこで、どのように強いのかを知ることも大切です。会社を強くしようと言う人が、実は何を分析するべきか知らない人が多いのです。そこで順次説明します。
(1)モノの流れのプロセス化
業務は先ほど6つの流れがあるといいました。その中で確実に捉えやすいのがモノの流れです。製造業でいいますと原料からはじまり生産ラインに移り、製品は販売ルートを通って、利用者に到達する流れで、一般に物流といわれているものです。モノの流れを整理しますと
① 社内の部門内の流れ
② 社内の部門を越えたモノの流れ
③ 企業を越えたモノの流れ
があります。①で止まっている会社は社内で統一されたデータベース化がなく、効率の悪い業務をおこなっています。グローバル企業として活躍するためには③の状態にまで達成している必要があります。ユニクロは③の流れがあり、利益の上がるBM(ビジネスモデル)になっています。

(2)カネの流れのプロセス化
モノの流れにはカネの裏づけが付いてきます。カネの流れを大きく捉えますと、企業の収入の流れと捉えることができます。カネの流れは人体でいえば血流です。すべての栄養はカネで補足できます。カネの流れが不足したり、滞ると、収益の見通しがあっても企業は破産します。ここでの分析は
  有望な収入源の流れの数
企業には有望な収入源と凋落した収入源があります。経営的にはその事業を早く廃棄し、新しい収入源を確保すべきです。GEは業界で1、2位以外の事業はM&Aで整理します
  収入の流れと物流の落差(キャッシュフロー経営という)
売掛金の回収状況の確認、在庫の多さの確認、出荷後の製品の在庫の増大の確認
  カネがカネを生む流れをつくるBM
資本主義の真髄ですが、能力と大きな危険を伴う流れです。

  (3)情報の流れのプロセス化
モノの流れも、カネの流れも自然には起こりません。本当に指揮をしているのは人間ですが、現在はITが指揮しているのが実情です。情報も人間の指揮と同様に、まずは大きな指揮(社長)から次第に小さな指揮を部下に、また、その部下に委ねていきます。組織が小さいと人間任せでいいのですが、組織が大きくなると、筋の通った命令の流れができなくなります。そこでモノの流れ、カネの流れ、企業戦略から来る大きな指令とそれに基づく指令という情報の流れの一体化がITシステムとして今活躍しているわけです。人体で云うと脳からの指令を伝える神経の流れといえます。これらを支えているのがシステムです。人体のシステムはすべてトップ(脳)からの命令で組織全体が動き、変化にスピードを持たせます。しかし、人体もモジュール化された臓器によって構成されています。そこでモジュール内では自主管理が行われ、ローカルの仕事を確実に実行し、異常時だけ、危険信号を脳におくり、モジュール緊急時の役目を果しています。この二つの立場の矛盾を処理するのが全体システムとローカルシステム(モジュール)です。全社全体のデータベースができると経営が効果的になります。
 情報の流れでチェックするポイントは
  データベースが部門単位か、全社単位か、グローバル単位か
  システムのアーキテクチャー(設計思想)が整理されているか、その程度は
全体システムとローカルシステムの構造化に組織全体の活動のスピード化、変化への対応の容易性を考慮した、設計思想の下でつくられているかがIT化の鍵となります。
  システムの緊急時対応能力の程度
現状の日本企業のIT化は①で既に遅れを取っています。次に欧米でグローバル化で活躍できるソリューションパッケージを導入しながら、企業の現状システムとの整合性を採用してカストマイズしています。大きな投資をして、時代遅れを尊重する文化が心配です。

  (4)ナレッジの流れのプロセス化
企画、設計、エンジニアリング等は脳内の働きによって成果物が生まれます。モノつくりは昔、手作業でしていました。それが機械化され、ロボットがモノつくりをしてくれます。手作業の時代は人が口頭で命令していました。今はデジタル化技術のお陰でITがしてくれるようになりました。企画、設計、エンジニアリングもかなりの部分をデジタル化できるようになりましたが、まだ全体的には小さな部分です。
ここでお話ししたいのは企画、設計、エンジニアリングをデジタル化する話も重要ですが、それ以上に重要なのが私達の発想を変える問題です。

日本の新聞を見ていますと、未だに「ものづくり日本、技術立国」を標榜しています。それは正しいでしょうか。今は「ものづくりではなく、顧客に対する価値づくり」の時代です。この価値をつくるのがナレッジマネジメントなのです。現実は素晴らしい家電製品をつくってもスムスンにしてやられています。この問題は次回以降にお話しします。

さて、その反省を取り入れるならばナレッジマネジメントとは何かを再考する必要があります。手近かなものからナレッジマネジメントを列記します。
  繰り返し使われるナレッジの標準化、マニュアル化
標準化は重要ですが、常に最新化する組織的努力が求められます。欧米の標準化は社会または業界が行っております。したがって業界は常に標準のグレードアップを図っています。企業はその標準を採用しているため、常に最新の標準を活用できます。また、標準化にはそれを使える人材の開発として資格制度があり、資格を持つ人が社会に大勢存在します。欧米社会は標準化と資格者の育成に企業はカネを掛ける必要がない便利な社会システムを持っています。
日本は企業内標準が主体で、外国からの参入障壁として機能していましたが、グローバル化時代はこれがグローバル進出障壁となって、現在競争力低下の大きな原因となっています。しかし、残念なことにこの基本的問題点を理解しないでモノつくりのみに専念しているところに、日本企業の経営者を含む社会全体のグローバル音痴があり、下々の努力を活かせない結果となっています。
  過去資料のシステム的整理と検索システム
類似の業務の生産性の向上が図れます
  個別設計のデジタル化とプロセス全体のデジタル化
ナレッジの流れのプロセス化 設計はできるだけコンピュータの活用が求められますが、人間の頭脳に依存する部分が存在します。人間の頭脳に依存する部分がデジタル化できると、プロセス全体がデジタル化でき、生産性の向上が飛躍的に高まります。



ベテランの暗黙知の形式知化プロセス ここで大きなネックは設計や製造でもベテランの暗黙知をどのようにデジタル化できるかという問題があります。図はベテランの暗黙知のデジタル化を示しています。まず、入力a,b,c,dとします。暗黙知によって出力はx、y、zです。暗黙知の中身を解析したのが図の中の四角い点線の部分です。


熟練の技のBM化 M-9型 左図はインクスという金型製造会社です。42日掛かっていた金型の製作を48時間にすることを研究しました。種々の工夫で、6日間で製作できるところまで来ました。社長は48時間を主張しましたが、「乾いたタオルを絞ってももう一滴の水も出ない」と研究グループは断りました。社長は次に若手に研究を続行させました。若手はベテランの暗黙知をデジタル化できることに努め、ベテランを再雇用し、1年間掛けてデジタル化に成功し、48時間目標を達成しました。左図は設計・製造でCAD/CAMを採用し、すべて無人で金型を製作します。インクスは携帯電話の小型部品の金型で世界の80%を受注できるようになりました。
  プロジェクト全体のナレッジマネジメント化
プロジェクト業務の始まる前に、過去のプロジェクトナレッジマネジメントの資料から事前チェックを行い、途中で事中チェックを進めると、類似のプロジェクトでは25%時間の節減がはかれるというデータがあります。重要なことはプロジェクトの成功率が高まることです。
  価値の提供
この項が最も大切です。モノを売る時代から、価値を売る時代に変わりました。この変化を多くの日本人はまだわかっていません。その上価値そのものが変わってきています。通常は価値を提供することで収益を得ると考えています。ところが現在は価値を無料で提供し、大きな収益を得ているBM(ビジネス・モデル)が種々出現しています。
その事例はグーグル、スカイプなどがあります。

  新しいBM(ビジネスモデル)
鹿児島建設市場BM  価値の提供をパターン化したものがビジネス・モデルです。これからの企業競争は新規ビジネス・モデルの開発といえます。
 BMに関してはミッション・プロファイリングで将来をみた「あるべき姿」を洞察するプロセスがあります。 ナレッジマネジメントの優れた企業は卓越した企業として評価されます。その一例を示します。鹿児島建設市場という企業は個人対象の住宅を4つの標準型と内装で四つのパターンを設計し、坪当たり単価を31万円として発売しました。市場価格は48万円です。この会社は大工に3次元CAD搭載のPCを持たせて販売します。顧客は16パターンから1つを選択すると、即座に工程表を施主に提供し、発注伝票をメールします。工程表は会社のウェブに公表されます。大工以外は登録者が早いもの順でウェブに登録すると工程表は関係者の名前が掲載されます。工程の進行に伴い、関係者が自分の業務の進捗を工程表に記入します。関係者は全員ウェブ上で進捗を知ります。このプロジェクトのプロジェクトマネジャーはウェブです。この面白いシステムは省力化の徹底したプロジェクトで安い単価で家が立つモデルです。鹿児島で大成功で、今全国制覇に向けて活躍の場を広げています。

  (5)意思決定のプロセス化
 人は多かれ少なかれ、与えられた責任に対し、意思決定を行っています。欧米では「企業は組織なり」という発想で、個人に依存することではなく、誰でもが実施できる体制をつくることが経営者の役割と考えて組織つくりをします。組織では、その職務を担当した人が責任を果せるように、意思決定を行えるように組織として意思決定のためのクライテリア(決定基準)が予め定めてあります。
 日本企業は責任が緩やかな組織で、意思決定も柔軟性に富むため、意思決定基準をつくる代わりに、稟議制、合議制が求められています。ただ、スピード時代には決定が遅れがちとなるか、前例のないものを先送りすることがよく見かけられます。
 ここではグローバル社会を考慮した意思決定プロセスを持った企業が、グローバル社会で活躍することになります。
 IBMのハード開発研究プロジェクトの意思決定プロセスはよく整備されており、感心するものがあります。資料を添付するとわかりやすいのでスが、紙面の都合で省略します。意思決定のプロセス化ができている企業は卓越した企業以上として評価さえます。

  (6)組織のダイナミズムと意識改革のプロセス化
これは理想的な組織といえます。市場変化の速い時代に、変化に追従できる企業は市場の情報を社員に素早く徹底させる仕組のある企業で、超卓越した企業となります。グローバル社会では現在のビジネスモデルは容易に陳腐化し、気がつくと競争力が落ちています。そのために現代は常時、経営者から社員まで意識改革が求められています。日本で言えばトヨタはこの典型で、社員に「なぜ、なぜ、5回それからどうする」というのは継続的な意識改革の手法といえます。
最近のサムスンもこの種の企業レベルに達しています。

今回は業務プロセスの活性化力の説明をしました。企業の競争潜在力を高めるセクションです。よく理解してください。
以上
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