PMRクラブコーナー
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「プロジェクトとゴーイングコンサーン」

(株)スペースクリエイション 代表取締役 青木 邦章 [プロフィール] :7月号

 プロジェクトというカタカナ言葉との出会い、それは今から35年前、開発エンジニアとしてある大企業に入社した時に始まります。新人研修が終わり配属された先が“第二プロジェクト開発室”という怪しげな部署。配属先でプロジェクトとは何かと説明されることもなく、また自ら「そもそもプロジェクトとは何ぞや?」と疑問を持つこともなく、いきなりその渦中に身を投じたことから始まってしまいました。
 もともと関連の商品開発に趣味的魅力を感じ、自ら希望しての配属ではありましたが、今思うと、その部署でおこなっていた商品開発業務は果たして本当にプロジェクトであったのだろうか?ひとつの事業として継続すべきものが、プロジェクト組織としておこなわれてよいのでろうか?そもそもゴーイングコンサーンとして存在すべき事業を、まだよちよち歩きの新規開発事業であるからといえども、プロジェクトと名づけられスタートしてよいのだろうか?この歳になってから振り返ってみると、いろいろと素朴な疑問が浮かび上がってきます。
 その事業は数年後めでたく事業部となり、それなりに継続的に収益を創出するところとなりましたが、この10年厳しい経営環境におかれ、一昨年ついに事業撤退となってしまいました。選択と集中の時代、スクラップ・アンド・ビルトの時代、このような厳しい経済環境の中、事業の盛衰はいたしかたないことであり、また複雑な事情もあるのでしょうが、出自においてプロジェクトと命名された事業の行く末、なにか象徴的な出生の秘密を感じ、心の中のもやもやが晴れません。
 そもそもプロジェクトという言葉が持つ響き、華々しく何か新しい時代を切り拓く予感を感じさせ、若さに満ち溢れている印象。その反面、ちょっと隠微でアウトロー、かつパイクな不良的印象。まさに青春そのものではありませんか?もっとも、たかがビジネスのひとつの手法ごときに、そんな風に頭の中で妄想を繰り広げていくのは、現実の青春からは程遠いところに追いやられたおじさんのはかない幻想、つきあっていられないとあきれられる読者も多くおられることと思います。
 しかしながら、人生の大半をこのわけもわからない厄介者とつきあってきた当事者としては、愛憎なかばにしながらも、この偉大なる存在を無視しては自己の存在理由さえもおぼろげになってしまいます。公式に任命されたか否かを問わず、プロジェクトマネージャは常に他のオペレーション業務担当の一般社員と自分は違うのだという誇らしげな自負心を持っていると思います。それがなければ、ハードなわりに対価報酬が低いPMなんて誰がやっていられるか!(思わず長年のうらみつらみが出てしまいます。)
 さて、与太話はともかくとして、前述のようにプロジェクトの本質・存在そのものと企業経営・永続性というものは相互補完するものの、相容れない側面もあるように感じる今日この頃です。読者の皆様はそんなことはないでしょうが、直情的で短絡的なPMはともすると目先のプロジェクトの完遂に全力を投ずるあまり、長期的なスパンでの事業経営的視点をないがしろにしてしまう傾向にあるように思います。たしかに的確に設定されたプロジェクトは有期的であり、目標も無理して努力すれば手の届く近くに存在するため、それだけに狙いを定めてひたすら馬車馬のように走りたくなる存在です。プロジェクトとはそれだけ怪しげな蜜の味、ジャコウジカの香りがするものなのです。
 しかしながら、それが所属企業にとって、また所属スタッフあるいはPMそのものに幸せをもたらすかどうかというと、はなはだ疑問に思えるのも事実。甲子園を目指し連日連投で肩を壊し、一生をそのひと夏で燃え尽きる存在。マンガやドラマの世界としては絵になりますが、現実の世界としては悲しすぎる存在です。
 そこまで思いを巡らして、ようやくふと目の前に現れるのがプログラムマネジメントの世界。個別プロジェクトの目標達成に燃え上がりつつも、同時にその先に広がるアルプスの峰々にも思いを馳せる。先ほどの青春と比べると、もうすこし穏やかな燃え方ではありますが、どんな強風でも吹き消されない壮年の志の世界。それがプログラムマネジメントの世界であるように思います。
 さて、現在も現役バリバリ企業競争の最前線で戦っているPMRの諸兄、会社人生の中では比較的陽の当たる道を走り続け、今なお輝かしくスポットライトを浴びている存在であろうかとは思いますが、このような視点で振り返ってみると、その向こうにはどのような視界が広がっていくのでしょうか?ほぼ同年代と推察すると、定年もそう遠くない世界。この辺で自分自身を振り返って、プロジェクトマネジメントからプログラムマネジメントという一段高い視点で俯瞰してみてはいかがでしょうか?会社生活というひとつのプロジェクトだけでなく、自分自身の人生を総合的にプログラムマネジメントする意識を持つと、違った世界が拓けていくようにも思えてきます。
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