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社内プロジェクト推進困難の回想録

白井 久美子 [プロフィール] :6月号

社内の業務改善プロジェクトのリーダーを担当している人からこんな相談を受けたことがある。
「プロジェクトのメンバーはいくつかの関連部署から選出されていて、自分より年齢が上の人もいる。年配の人は新規提案や改革案について協議する際に、過去の事例や経験から否定的な発言ばかりする。建設的な意見もあまりなくなかなかプロジェクトを前に進められない。どうしたらいいものか。」

プロジェクトで何が難しい?!って、それはお客さまでなくて“社内の人”を相手どって業務改革等を進める類のプロジェクトの運営が一番難しいと思う。
・社内が相手だとわがままを言いやすい
・口だけだして手をださなくても(協力しなくても)とがめられない
・お金を払って仕事してもらっているという感覚がないので問題先送りを問題と思わない
・できない理由ばかりを口にし、どうすればできるかを考えない
・プロジェクト側に権威(権力)がないとなめてかかり、言うことをきかない

私は、社内プロジェクトの運営で大失敗した経験がある。失敗経験をふまえ、対策と留意点を記したいと思う。

●対策と留意点●
社内の声にふりまわされない
社内のステークホルダからの指摘や要望を全部取り込もうとすると、問題解決の優先順位がわからなくなり、何に重点をおいた改善、改革だかがわからなくなる。
【対策】
識者の声はひととおり聞くが、その場は聞くだけにして、「貴重なコメントをありがとうございました」と言い記録に残し受け止めるようにする。その場で即対応します、と軽はずみに受けてしまわないことが大事。
必ず持ち帰って、自分を含む中核メンバで問題の分析と整理、分類を行う。その後、当該プロジェクトのミッション(使命)に照らし、指摘事項への対応優先順位を決定する。 問題の分析・整理にはKJ法や特性要因図を使うとよい。

プロジェクトで対応できる事項には、時間とコストの制約上限りがある。したがって、優先順位順に並べた上からいくつかの最重要事項にのみ第1次フェーズで対応するように考える。
その他は2次フェーズ以降での対応になります、とステークホルダへ説明できれば、本当に全部対応するかどうかは別として、忘れられてないんだなということで、ステークホルダからの不満が爆発したりプロジェクトに対する風邪あたりが強くなったりはしないものである。

ネガティブな人への対応
評論家的なコメントが多く、できない理由ばかりを述べ、具体的協力が得られない人からの意見を会議の空中戦でいくら聞いていてもムダに時間がすぎていくだけである。
【対策】
ネガティブコメンターには、会議の場ではすきに言わせておく。会議の最後に、「本日は非常に多くのコメントやご示唆をありがとうございました。つきましては、あとで、各種問題に対する具体的解決にむけたアイディアを記載していただくフォーマットの紙を配信させていただきますので、○×日までにご返送のことよろしく御願いいたします。」などと言い、あらかじめ用意しておいた、プロジェクトとして捉えている検討課題や、対策原案が書かれたシートを配布する。
シートには、必ず、検討課題、プロジェクトの対策原案、指摘事項、記載案NGの場合の代替策を記入する欄、記入者氏名を表のスタイルで書ける形式にしておく。

こうしたシートを用意しておき、配布や回収督促時には電子メールで出席者およびその上司にも写しをいれて出す。もらったほうは、上司に写しがはいっているとグチだけ書いて終わらせるわけにはいかなくなる。シートを書いて提出してくれない場合は、正式意見としてプロジェクトのほうでは受け付けかねるというルールにしておけば、うるさい外野の声をいちいち気にする必要はなくなる。

ダメだしコメントばかり書いて、前向きな打開策やアイディアを書けない人は、シートを目の前にして、あらためて自分は文句ばっかり言っていたけれど、当事者として結局自分は何も打開する力がないんだな、ということに気づく。そういう人たちは、一度自分の愚かさに気がつけば、次回の会議からは解決策のアイディアも言えないようなことについて軽率にグチやダメだしをすることはしなくなっていく。

ネガティブコメンターたちは、社内で感じている不満をここぞとばかりにぶちまけるかもしれないが、その場では言わせておけばよい。会議では皆さんの様々な声を聞き、どうすれば解決できるかをともに考え、前向きな議論の場にしていきたいと思います、と開き直ってじゃんじゃん言ってもらう。でも、あとでちゃんと打開策案も書き添えて送ってね、と付け加えるのがポイントである。

それを検討するのがプロジェクトだろ!?と言われたら、もちろん、こちらだって考えていますよ、でも諸先輩が考えてもわからないことを、私たち若輩者に考えられるわけないじゃないですかぁ?!と笑顔で開き直るのも手である。

先輩や上司を味方につける作戦
プロジェクトで行われる各種の決定会議の前に、味方になってくれそうな先輩や上司のところに「根回し」に行き、次回の会議ではこういう事を決めるので、そのときにご意見を求めますので、こういうコメントを是非お願いします、とあらかじめ頼んでおく。
味方についてほしい先輩、上司には普段からコミュニケーションを密にし、事前の根回し、うまくいった後は必ずお礼参り、プロジェクトの状況をこまめに報告、相談していれば、必ず困ったときに助け舟をだしてくれる。日本の会社体質はまだまだ古く、根回しが有効な会社は沢山ある。

【対策】
いろいろなことを言う先輩や上司がいるとは思うが、プロジェクト側でもっていきたい方向や自分の考えに近い先輩や上司の人、つまり味方についてくれそうな人をチェックしておく。そして、まずは、プロジェクトとしての検討や意思決定をすることが大事。人になにか御願いするには考えなしの丸腰で聞きに行ってはいけない。きちんと現状認識し、プロジェクト(自分)としてはこうしたい、という意思をかためた上で、その方向性についてまずはどう思うか指導・示唆をもらうようにする。そして、いくつかコメントは留意点、指摘をもらうとは思うが、それらを加味したプロジェクト案に修正した上で、味方についてほしい先輩や上司に会議で味方発言、つまり賛成意見を言ってもらえるよう根回しする。

できれば味方についてもらう先輩、上司の役職が高いほうが、より効果がある。役職権限のある人に異を唱えられてしまった場合は、そのまた上の役職者に同意を求めにいくとか、異を唱えた役職者に耳を貸してもらうにはどうしたらいいか、良い関係性構築の手段を考える。

敵方に次のように接近していき、最初は反対派であっても相談して困っていることを訴求しつづけているといつの間にか味方側に翻っている・・という、抵抗勢力攻略法もある。
「△△課長、この間頂戴したご意見ですが、もう少し詳しくお聞きしてもよろしいですか?プロジェクト側では××という点についてどうしても打開策が見いだせなくて困っているのですが、課長にご指摘を受けた点について理解はできるのですが、具体的にやろうとすると××や××などの障害もあってなかなかうまくいかないのです・・。なにか良い方法はないものでしょうか?是非、ご経験豊富な△△課長にご指導いただきたくて・・・。」

抵抗勢力に対して真っ向から立ち向かってもたいていの場合うまくいかない。あなたのご指摘はごもっとも、と一度肯定して受け止めてから、でもそれってとても難しくて自分たちの力ではできなさそう→どうしたら打開できるか力を貸してほしい、自分たちのよい指南役になってほしい・・と懐にもぐりこむような関係構築をはかっていくと、抵抗勢力と理解しあえるようになる。

プロジェクトリーダに求められる人間力はいろいろあるが、社内業務改革など複雑な組織/人間関係で苦労しそうなプロジェクトでは
・ コミュニケーション力
・ 関係性構築力
・ 交渉力
・ 決断力 ・ 粘り強さと忍耐力
などが重要だと言える。
はじめから、万能なプロジェクトリーダなどいないので、プロジェクト運営の様々な局面で人間性を鍛えていかねばならない・・・。

昔の失敗社内プロジェクトをもう一度今の自分が担当したら、もっとうまくやれるんんじゃないかな?!と今思う・・・。
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