「原発と地震」
(新潟日報社特別取材班著、講談社、2011年4月15日発行、第3刷、278ページ、1,500円+税)
デニマルさん:7月号
今年3月11日の東日本大震は、観測史上最大のマグニチュード9.0で東日本の太平洋岸を襲い、死者・行方不明者22,900人余、被害総額約25兆円(内閣府発表)の大被害となった。福島原発の原子炉メルトダウン事故は、現在も収束していない。今回紹介の本は、2007年7月に発生した新潟県中越沖地震(震度6強)で、原発事故を経験した経緯を地元新聞社が纏めている。新潟県中越には、日本最大規模の柏崎刈羽原子力発電所(7基の原子炉)がある。その原子炉が地震で緊急停止したが、冷却用の復水器が損傷して火災が発生。更に使用済み核燃料プールの水が原子炉建屋から溢れ出て放射能洩れが発生した。幸い被害は拡大しなかったが、柏崎刈羽原発は今現在も停止状態にある。この問題で政府や東京電力がもっと安全性を追及していれば、福島原発の事故は未然に防げたと言われている。この本から原発の安全性と今後の問題に関して参考になる点が多々あるので採り上げてみた。
原子力発電の安全神話(その1) ―― 原子力発電の安全性? ――
原子力発電の安全は、いかなる事態をも想定した運転であるべきであると多くの専門家が言っている。しかし現実は自然相手であり、想定外で事故が起きている。今回の福島原発も柏崎刈羽原発の事故も根本原因は地震である。この日本で地震は回避出来ないが、原子力発電を商用運転するなら完璧に近い安全性の担保は必須である。この本では原発事故を想定した原子炉内の放射能発生を「止める」「冷やす」「閉じ込める」必要性を書いている。
原子力発電の安全神話(その2) ―― 地震(震度7)にも耐えられる? ――
この本は柏崎刈羽原発の事故を発生から現在に到る過程を克明に調べて検証している。そこから判明したことは、原発を運営している会社とそれを監視している原子力安全・保安院の体質にあることを指摘している。原子炉と原発建屋の耐震構造は、震度7にも耐えられるものであった。しかし、原子炉から排水溝に到る配管が地震に耐えられなかったので、放射能漏れが生じた。原発の安全性は、運営だけでなく安全監視をする側にも責任がある。
原子力発電の安全神話(その3) ―― 必要性が安全性を隠す? ――
柏崎刈羽原発の地震は、発電所のある地層に活断層があることが事故後判明した。この本は活断層の有無を論じているのではなく、その事実を地元住民を含めた関係者に情報開示したのかを書いている。原発事故後の関係機関の調査でも、事実を「言わず」「隠す」「知らせない」ことが指摘されている。原発の必要性があるなら事実を隠さず、安全性を高める意味で情報開示は必須である。福島原発の事故収束の過程でもその必要性が痛感される。
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