リレー随想
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環境ビジネスの大規模開発プロジェクトにおけるP2M活用モデルの調査研究

清水 基夫: [プロフィール] :6月号

 平成23年度に日本機械工業連合会からの委託を受けて実施した「環境ビジネスの大規模開発プロジェクトにおけるP2M活用モデルの調査研究(環境ビジネスのP2M活用研究)」では、総勢13名の委員・研究員の協力で、環境ビジネスに関する様々な側面からP2Mの活用について調査・研究が行われ、3月には約300ページに及ぶ報告書を作成し、提出することが出来ました。

 日本の産業界は、グローバル競争、少子高齢化と人口減少、そして円高と言う厳しい事業環境の中で経営に苦しんでいます。少子高齢化・人口減少は、自動車産業に典型的に見られるように、確実な内需減少をもたらします。政府は、いわゆるインフラ輸出促進により国内に蓄積された知的資産を活用して産業活性化を目指しています。環境ビジネスはインフラ事業とは必ずしも同一ではありませんが、目的とするところはかなり重なるところがあります。

 今日、環境問題というと、大気汚染、騒音、都市廃棄物などの都市環境、鉱山、化学工場、産業廃棄物などによる公害問題などから地球温暖化、持続可能性や生物多様性まで、幅広い課題があります。この分野を事業の立場からみれば、世界人口の増大と開発途上国の急速な産業化の進展に伴い、今後とも確実に需要拡大が見込まれます。日本は、現在のところ生活水準に比較して一人あたりのエネルギー消費の効率等では優れた国です。しかし、国土面積や国内の資源量に比較すれば、過剰な消費と排出を行い、祖先から受け継いできた豊かな自然環境を消耗しつつ、今日の繁栄を獲得してきました。その過程で省エネルギー、安全な水や食糧の確保、魅力的な都市環境などの様々な改良・工夫の知識を蓄積してきたと言えるでしょう。こうした環境ビジネスには、今後の更新需要を考えれば、国内にもかなりの規模の市場があるものの、長期的にはその成長性は余り高くないと予測されます。他方、海外に目を向ければ、例えば生活環境の質が不十分で、本質的な改革を必要とする国も少なくありませんし、それらの国は日本では当たり前の技術についてのニーズが存在します。一方、現代においては、21世紀型の都市開発そしてITネットワーク技術の活用による包括的・効率的なソリューションが求められます。競争力は、個々の要素技術のレベルではなく、それらを組み合わせた統合的なシステム技術力や戦略の構築能力に大きく依存します。

 この研究報告書のまとめが終わった直後に東日本大震災が発生しました。ここで明らかになったことは、この厳しい被災状況の中で、地域社会や個別企業の草の根的なボトムアップの力については海外でも驚愕する高い賞賛の報道がされた程ですが、原発事故の処理に代表されるように、トップダウンの大局的な戦略眼や指導力の不足は否定できないものがあります。
 環境ビジネスもインフラ輸出も、その事業は大都市あるいは一国の基幹施設とその運用に直接関わるもので、多くの場合、対象の国や地域ごとにそれぞれ異なる戦略のもとに異なる目的・目標を設定して実行する必要があります。例えば、日本では官公主導の相対的に低いコスト制約の中で、ハイクオリティ、ハイコストの環境施設が多く建設されてきましたが、国情の違う多くの国では、より経済的で実質的な環境投資が必要とされるのは当然で、必ずしもその答えは日本の経験の延長線上にはないでしょう。そこでは、日本での経験を活かしつつも、未来志向の中で対象とする環境ビジネスの本質は何か、創造すべき顧客価値とは何かなど、事業の立ち上げに先立って相手の立場に立って、その本質を明確にする必要があります。要するに、環境ビジネスは要素技術を核とした高品質なシステムの実現の前に、まず事業が意図する戦略は何か、事業ミッションは何かを明らかにするところから始まるのです。これは、原発事故の処理に限らず、日本の組織が必ずしも得意ではない種類の課題です。これに対処するものが、P2Mプログラムマネジメントで説く、多義的で曖昧なミッションをプログラムが明らかにしていくミッションプロファイリングであり、その考え方の習熟が重要です。
 グローバルに見れば、地球の大地が供給可能な資源量に対し、人口の過剰、資源消費の過剰、排出物の量の過剰は今世紀を通じてさらに進展が予測され、これに対応するための環境ビジネスは、今後とも質・量ともに重要性を増すことでしょう。そこに、日本の経験にプラスしてP2Mの知恵を活かして創造性を育んでいくことは、我が国の国際貢献と産業活性化の両面から重要な課題であると言えるでしょう。
(以上)
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