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世界で通用するプレ-ヤ

向後 忠明 [プロフィール] :5月号

 グローバル社会、グローバルスタンダード、そしてグローバルPM等々、グローバルと言った用語があちらこちらに散見します。
 この用語が日本でよく使われるようになってから久しく、ずいぶん前から言われていたような気がします。
 日本はこれまで自国内に閉じこもった社会活動や事業活動を行ってきて十分それで成り立ってきていました。もちろん、資源小国であることから外国から原材料を輸入し、それを製品化し輸出することで日本も豊かになって、それなりの豊かな生活をすることができていました。
 当初は海外との取引の先陣となって活躍した日本独特の商社と言った企業の活躍が非常に大きかったと思います。ここで働く人たちの中にも多くの世界で通用するプレイヤーが実在していました。

 筆者も今から40年以上前(1975年頃)になりますが、プラントエンジニアリング会社に働いていた頃、海外で商社の人に大変お世話になりました。
 この頃は海外に出る日本のビジネスマンも珍しく、彼らは羽田空港で会社の同僚たちにバンザイを言われながら飛行機に乗って行ったのを記憶しています。筆者も同様に若いころから海外に出されました。最初に出された国はアルジェリアでした。
 訳も分からずアンカラ、フランス経由でアルジェリアについたのですが英語が通じません。まず困ったのは通関手続きの際に荷物検査でした。言葉がフランス語でありチンプンカンプンでした。その後、現場に入ってからも大変で、そこには日本人は誰もいませでしたし、対応してくれる人もアルジェリア人で英語を片言話すだけでした。その上、現場の作業員もほとんど現地人で、専門家はフランス人でした。
 この経験から筆者は英語の“読み,書き、話”の上達そして海外ビジネスでの常識を独学でしたが業務を通して実践的に勉強することになりました。

 このような滅茶苦茶な海外出張を命じるような時代もありました。そして、この会社も多くの失敗を重ね一時期は会社の危機が騒がれた時期もありました。
 今では人材も育ち、一流のグローバルエンジニアリング会社として頑張っていますが、これまでになるには決して平坦な道ではありませんでした。

 ここからは筆者がITC関連の会社に移籍してからの話をします。
 この会社もグローバル化の波にさらされ、国際化と言うミッションのもと、国際人の育成と国際ビジネスのあり方を模索するようになり、その目的のための戦略的組織を立ち上げました。
 筆者もこの組織の一員となったわけです。化学プラントエンジニアリング会社出身の人が全く分野の異なるITC関連の仕事ができるのかどうかの疑問を持ちながら・・・・・。

 この会社でも、筆者が海外のPJ実施経験があるという理由で、海外顧客を対象としたシステム開発のPMや海外投資先企業の役員として“困った時の筆者頼み”のような感覚で業務の依頼が多く舞い込みました。それらの役割も運よく“昔取った杵柄“で無事に終えることができました。

 この時、感じたこととして、システム開発プロジェクトでは顧客の要件や考え方、そして思いを英語で表現すること、そしてそれを的確に日本語でプログラマーに伝えると言うことでした。
 これは一種の英語と日本語での伝言ゲームと同じです。
 その上、相手の文化や習慣に起因する思考回路の違いによる誤解や齟齬の発生も多く見られました。これはプラントエンジニアリング会社の海外でのプロジェクトの進め方とコミュニケーションの“ち密さ”において異なります。
 ここに示すのは一例ですが、このように海外で仕事をする場合は日本で仕事をする場合とかなり違う場面にぶつかる可能性があります。

 一方ではグローバル化は世界の潮流であり、現在ではBRICSと言った新興国が日本のビジネス領域に入ってきて、その結果コスト競争が激しくなり、ITC関係の企業も含め、多くの日本企業がよりコストの安い海外に生産拠点を持たざる得なくなった。また、RRICSの経済成長に伴い、そこでの市場も無視することができなくなっています。よって、以前とは異なったグローバル化への対応がITC産業界にも求められるようになりました。

 これまで筆者の海外経験の一端を示してきました。その経験からの知見から「世界で通用するプレーヤ」に必要な要件について基本的なもの示してみます。
 まずは、海外事業やプロジェクトを実施する場合の日本と異なる特徴を下図1.1「海外プロジェクトの特徴」に示します。
図1.1「海外プロジェクトの特徴」

図1.1海外プロジェクトの特徴

 現在、経済産業省およびIPAではアジア地域におけるIT人材の育成や評価指標の国際標準化を図る取り組みをしています。何故アジアなのかは不明ですが、アジアと言ってもマネジメントスキルはヨーロッパやアメリカで教育を受けた人が多く、この人達は日本のいわゆるゼネラリストとして教育された管理職とは全く思考回路が異なるし、マネジメントスキルも優秀です。
   ましてやヨーロッパやアメリカ人は・・・・と言うことになります。
 特に、日本企業と外国企業とではどのように異なるかを表1.1「日本企業と外国企業との主な相違」に示します。
表1.1日本企業と外国企業の相違
表1.1日本企業と外国企業の相違

 このような違いを理解した上で海外のプロジェクトや事業を行う必要があるし、またその違いがわかるような人材の導入または育成が必要となります。その中でも大事な要素はコミュニケーションです。
 筆者の経験では、ほとんどの場合、英語でのコミュニケーションで十分と思っています。できれば現地語にも親しみ、現地人とコミュニケーションをとれるようにした方がよいと考えています。
 このことはプロジェクトや事業を遂行する上で非常に役に立つことがあります。
 ところで、コミュニケーションと言っても単に読み、書き、話をすることだけではありません。

 コミュニケーションには図1.2に示すような種類があります。
 すなわち、①文書や情報システムによるもの、②言葉によるもの、そして③非言語によるもの(文脈や背景によるコミュニケーション)があります。

 ① および②はそれなりの教育で知識を得られますが、③は困難が伴います。日本人同士であれば簡単な言葉、例えば“、一緒にいた時のそれ、あれ、あの時の・・・”で話の文脈や背景だけでお互い通じてしまうようなことも海外では通じません。
 特に、ITC産業でのソフトウエア―開発では相手の要求を文書化、プログラム化することが必要で、その時、コミュニケーション能力は非常に重要な要素となります。
図1.2 コミュニケーション

図1.2 コミュニケーション

 このように「海外に通用するプレ-ヤ」になるには、筆者も一番最初に海外に何も前知識もなく出されたように、まずは若く、柔軟性のある時期に海外に出て、そこで諸々のことを肌で感じることが大事なことと思っています。
 それにより日本と海外の企業のあり方の違いもわかるようになるのではないかと思います。

 極端な話ですが、新入社員全員を企業の関係する会社やプロジェクト現場に海外生活での一般的な常識を教えた後、海外に出すことも必要な気がします。
 本人の素質や能力と言ったことは国内の評価だけではわかりません。
 優秀な人で性格的にも強健でもホームシックにかかったり、問題を起こしたり、鬱になったり挙句は病気になったりといろいろなことが起こります。
 この結果を持って海外要員の人選を行い、適切に社員教育を施し、後は先輩の指導のもとで実践を通して育成していくことが海外要員育成の近道と思います。

 すなわち、知ることと行動することは常に一緒でなければならないと言うこと、すなわち“知行合一”が海外要員の育成にかかわらず人材育成に重要なことと思います。
 特に、知ることとは他人頼りではなく、自己啓発を主体とするガッツが必要であり、知識吸収に貪欲でかつ積極的でなければなりません。そして海外で数多い経験を通じて「世界で通用するプレーヤ」になれるのです。

 最近頻繁に聞く話ですが“最近の若者は内向きで海外勤務を希望しない”と言われています。これが本当であればグローバル化などとは全く相いれない現象であり、筆者の心配するとろろです。
 それでも、ITCの業界でもグローバル化の波はどんどん来ています。
 筆者はプロジェクトマネジメントを職域としている人間ですが、因みに「世界で通用するプレ-ヤ」に求められる力量として筆者が感じている参考例を図1.3に示してみました。

図1.3 海外に通じるプレーヤ(PM)に求められる力量

図1.3 海外に通じるプレーヤ(PM)に求められる力量

以上

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