リレー随想
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東日本大震災と仮称「N・P2M」

川勝良昭・PMAJ理事 & 新潟県立大学・客員教授: [プロフィール] :5月号

東日本大震災の被災者の皆様に心からお見舞申し上げます。
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 今回「リレー随筆」で「P2M」に関する執筆のご要請を受けました。大変光栄に存じます。昔、「P2M標準ガイドブック」の最初の制作時と、その後の改訂時に、共に「レビュアーとして協力せよ」とのご要請を受けたことを懐かしく思い出しました。PMAJの活動に貢献できることを大変嬉しく思っております。さて以下の文章を簡潔化するため、敬称、敬語を省略致しました。お許し下さい。
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●国難打開大連合内閣を作らない最低の政治家達
 東日本の大地震、大津波、福島第一原子力発電所事故は、第一次被害だけでなく、第二次、第三次の被害を引き起こし、日本は、社会、経済、産業に甚大な影響を及ぼす「国難」に直面した。更に同原発事故の評価尺度(INES)は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故と同じ「レベル7」となり、問題は依然として解決していない。もし解決されず、生命に危険を及ぼす放射能が日本中を覆うことになったら、日本は、明治維新の大混乱や太平洋戦争の惨劇に匹敵する「最悪の危機」に直面することになる。

 民主党の菅総理は、この国難を一刻も早く乗り切るため、谷垣自民党総裁に「副総理兼震災復興担当相」の入閣を要請し、「国難打開大連合内閣」への道を模索した。しかし自民党谷垣総裁は、国難に直面してもなお菅総理の延命策と批判し、即座に拒否した。そして「プロジェクト・チームで協力する」と回答し、党利・党略の政権争いを優先させた。

 政権争いを一時停止し、主義・主張を超え、一致団結して集結し、国難打開を実現させる「動き」は、民主党議員からも、自民党議員からも、他の党の議員からも起こらなかった。最低の政治家達と断定せざるを得ない。しかも与党議員、野党議員、メディア関係者などから菅首相のリーダーシップ不足の批判、政権運営への批判、上げ足とりを、これを機会と始めた。

 如何に優れたリーダーでも、如何に行動力があるフォロアーでも、この様な大規模且つ深刻な国難に直面すれば、その指導性の一部が失われ、意思決定が遅れ、その実行に混乱が起こるのは避けられないことである。「批判」する暇があるなら、政治家として、メディア人として、人として「国難打開」のため問題がある菅首相の不足を補い、混乱の収束に具体的に協力すべきである。「批判」するだけなら子供でも出来る。

●プロジェクト・マネジメントに無知な政治家、官僚、学者など
 自民党は、「プロジェクト・チーム」のことを言及した。しかし彼らは「プロジェクト」の真意を理解し、「チーム」の実践的運営方法を体得しているだろうか。民主党やその他の党も同様に、それを理解し、体得しているであろうか。

 菅首相は、大震災復興ビジョンを描き、日本再生を目指す「復興構想会議(議長・五百旗頭真<いおきべ・まこと>防衛大学校長)」を発足させた。重要&重大問題が発生すると、首相、知事、市長などの「首長」は、必ずと言ってよいほど○○諮問会議、△△構想会議などを発足させる。そして同会議の結論を基に官僚が問題解決を図る。この一連の動きは、国や自治体が日頃手慣れている「経常的業務」ではない。まさしく「プロジェクト業務」である。

 筆者は、知事ブレーン官僚として岐阜県理事と新潟県参与の県政経験を持つ。そして数多くの諮問会議、構想会議などに参画し、有名な学者、専門家、有識者と意見を戦わした。そして会議の結論に基いて官僚が問題の解決を図った。この種の「プロジェクト業務」に関していつも問題と考えるコトがある。

 それは、①首長が会議メンバーの候補者を選定し、任命する。しかし選定基準と候補者選定は、実質的に官僚が決めているコト、②政治、行政、司法の実務運営の経験がなく、当該業務の推進に都合の良い学者、専門家、有識者が選らばれるため、当該問題の本質や背後に隠された現場での問題を認識していると思えないコト、③当該会議の結論を基に問題解決に取り組む関係者が「当該プロジェクト業務」を適時、適切に推進できないコト、④プロジェクト推進の稚拙さから「船頭多くして船山に登る」の事態を招き、混乱と遅延を引き起こすコト、⑤彼らは、そもそもプロジェクト・マネジメントを理解しておらず、まして運営など体得していないコトなどである。

●戦争プロジェクトと国難打破&日本再生プロジェクト
 「プロジェクト・マネジメント」は、周知の通り、その概念化、理論化、実践化がなされ、その発展に大きい影響を与えたのは、「マンハッタン・プロジェクト(原子爆弾開発)」や「アポロ・プロジェクト(人類月面到達開発)」と言われている。筆者は、これらの超大プロジェクトを遥かに上回る超・超大プロジェクトは、「第2次世界大戦(太平洋戦争を含む)」であり、「戦争プロジェクト」と考えている。

 もし福島原発事故が最悪の事態になると、国家の存亡を賭ける「戦争プロジェクト」に匹敵する事態となる。その様な最悪事態を避け、明るい日本を構築するためには「国難打破&日本再生プロジェクト」を是が非でも成功させねばならない。これだけの超大プロジェクトを民主党一党で実現できるはずはない。この認識が政治家達に全くない。あれば「国難打開大連合内閣」は、とっくに発足していたはずである。

●世界最高水準の仮称「N・P2M」
 P2Mは、ビジネスの世界に於ける「新しい価値の創造」を目指すものとして構築された。このP2Mを今回の国難打開と日本の未来形成に活用できると思う。しかしそれは十分であろうか。

 今回の国難を解決し、明るい未来形成に求められるコトは、①ビジネスの世界では経験できない大規模な災害、生命の危険性、多くの深刻な構造的問題に対する現場的現状認識、②解決手段としての膨大な人、モノ、金、情報などの投下、③解決に一刻を争うコトと時間を掛けて取り組むコトの優先順位の決定、④世界最高水準の知恵、アイデア、技術などの導入と活用、⑤世界最高水準のプロジェクト・マネジメントの活用などである。

 クリントン元米国大統領の元ファースト・レディーであり、現・国務長官であるヒラリー・R・クリントン(Hillary Rodham Clinton)氏は、「不可能を可能にするのは政治であり、政治家である」と主張している(参照:同氏の著書:Living History)。

 不可能を可能にする政治と政治家を支え、この国難と危機の可能性に対応できる新しいP2M・仮称「N・P2M(National Project & Program Management)」を研究し、構築することを、被災者の方々から求められている様に思えてならない。
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