図書紹介
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「TSUNAMI 津波」
(高嶋哲夫著、集英社文庫、2008年11月25日発行、第1刷、606ページ、819円+税)

デニマルさん:5月号

2011年3月11日は、日本だけなく世界史上に残る記録的な大災害となった。東日本大震災は、震度7、マグニチュード9.0を記録。東北、関東を直撃した巨大地震は、その後の大津波が被害を拡大し、岩手県から千葉県の太平洋に面した多くの町が壊滅的な状態となった。更に、福島県の第一原発では、津波で施設が直撃されて原子炉に損傷をきたし、放射能漏れの問題にまで事態が発展した。1ヶ月経過した現在、被災地では徐々に復興に向けて動き出しているが、福島原発の鎮静化には時間が掛かりそうである。今回、この地震と津波の被害から自然災害の対処から防災のあり方を知る意味で、この本を取り上げた。小説ではあるが、地震予知から地震、津波災害等々を克明に調べ、自然災害にどう対処すべきかを書いている。政府、専門調査機関、自衛隊、地方自治体等の防災のキーは、危機管理ネットワークを活用した災害情報の迅速な掌握と的確な判断を下すリーダーシップを指摘している。災害対策の基本は自助・共助・公助であり、その実行の必要性を教えてくれた。

津波発生の前の前   ―― 地震予知はどこまで可能か ――
今回の地震発生に際して緊急地震速報がテレビ、携帯電話等に流された。10数秒前の事前情報であるが、非常に有効であった。その関係で、新幹線等の交通機関では大事故が発生していない。科学の進歩で地震予知が可能となった。しかし、この本にも書かれてあるが、ある程度の予知が出来ても、いつ・どこで・どの位の規模かの地震予測は出来ない。それは地殻変動を可視化する科学の壁があり、「神のみぞ知る自然の営み」と著者は書いている。

津波発生の直前  ―― 巨大地震と津波のメカニズム ――
地震が海底で勃発すると津波が発生することは、誰でも知っている。この本では、東海、東南海、南海地震が連続して発生、震源地が紀伊半島沖で震度7、マグニチュード8.3、津波警報が発令される。その後の被害状況を2004年に書いている。今回の東日本大震災と震源地は違っているが、地震・津波の規模想定がほぼ同じで、現実とオーバラップしてくる。更に、原子力発電所の被害で核燃料のメルトダウンを予測し小説が現実化した錯覚に陥る。

津波発生  ―― 津波は防げないが、防災ネットが救う ――
東日本大震災の津波は、高い所では17メール、海岸から35キロ先まで遡上し、被害の範囲も青森から千葉まで500キロに及んでいる。地震発生から、10数分後に津波が襲ってきた。第1波から第3波まで寄せ波と引き波で数度に亘って海岸沿いの家屋や工場、原子力発電所等が洗われた。著者は、津波被害の恐ろしさを「洗濯機にハンマーやナイフを一緒に放り込まれたような状況」と書いている。その被害の現場が、今現在の東北地方にある。

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