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「リスクマネジメント・ツールボックス (7)」

河合 一夫 [プロフィール] URL: こちら  Email: こちら :4月号

 先回は、根本原因分析を実施する際には複数ツールの組合せが必要であることを述べた。リスクマネジメント、特にリスク特定で利用される根本原因分析では、過去に発生した事象の関係分析だけでなく、将来のことを分析の対象にしなければならないと述べた。将来発生するかも知れない事象を推測し、発生確率と影響度を鑑みながら分析する。その際の分析軸として3つの軸を提案した。1)時系列による分析、2)モデル化(一般化)による分析、3)多様な視点による分析、である。リスクマネジメントのアクティビティで利用するツールには様々なものがあるが、それらを利用する際には、上記で述べたことを留意しつつ適切な組み合わせが必要となる。
図1 根本原因分析の分析軸

 ツールを組み合わせる際に考えなければいけないことに3つの複雑性[1]がある。それは、ダイナミックな複雑性、社会的複雑性、出現する複雑性、である。対象の複雑性をこの3つの複雑性で捉え、適切なツールを用いることが必要である。
図2 複雑性の関係

 ダイナミックな複雑性とは、原因と結果に時間的・空間的な隔たりがあるということである。「今日の問題は昨日の『解決策』からくる」[2]といわれているように、時間の経過に伴う変化を知ることが必要である。社会的な複雑性とは、さまざまなステークホルダーの利害や価値観の違いが生み出す複雑性である。リスクは個人の持つ経験や文化的な背景により、その捉え方が異なる。最後の出現する複雑性は、非連続な変化として捉えられる。この変化には、三つの特徴がある。1)問題の解決が未知である、2)問題の全貌がまだ明らかになっていない、3)誰が主要なステークホルダーかよくわからない。[1]
 これらの複雑性は、先に示した3つの軸で扱うことで可能となる。この関係を次に示す。
図3 複雑性と分析軸の関係

 この図から、ツールを組み合わせる際の一つの考え方が浮かび上がる。先に示したように、リスクアセスメントにおける根本原因分析は、過去の事象だけに着目するのではなく、将来起こりうる事象に関して不確実性を考慮しつつ事象の関係を分析する。従って、不確実性に影響を及ぼす対象の複雑性の理解が重要となる。ツールを組み合わせる際には、このことに留意して3つの複雑性の軸に合わせたツールを選択する。
 先回でも紹介したが、以下にいくつかのツールを紹介する。
1. 時間軸による分析
  (ア) イベントツリー分析[3] [4] [5]
(イ) 過程決定計画図(PDPC)
(ウ) システムシンキング
2. モデル化による分析
  (ア) RBS
(イ) 階層化ホログラフィックモデリング (HHM) [6]
(ウ) プロブレムフレーム
(エ) 数学的モデル
3. 多様な視点による分析
  (ア) 特性要因図
(イ) ブレーンストーミング
(ウ) RBS
 これらのツールの組合せの一つの例を以下に示す。
(1) ダイナミックな複雑性に対しては、システム思考を用いる
(2) 社会的な複雑性に対しては、HHMを用いる
(3) 出現する複雑性に対しては、ブレーンストーミングを用いる
 これらのツールの使い方としては、HHMにより対象(ステークホルダーを含むプロジェクト)をモデル化し、関係者間で認識を共有する。その後にシステム思考を用いて、時間の経過によるプロジェクトの変化をモデル上で議論する。その際、ブレーンストーミングを用いることで、多様な意見やアイデアを吸い上げる。実際にはツールだけではなく、プロセスの規定も必要となることは言うまでもないが、本稿では省略する。
 次回は、あまり知られていないがAFDというTRIZに関連したツールについて述べたいと思う。

参考文献
[1] C・オットー・シャーマー,U理論,英治出版,2010
[2] ピーター・M・センゲ,最強組織の法則,徳間書店,1995
[3] 関根和喜編,技術者のための実践リスクマネジメント,コロナ社,2008
[4] 吉川榮和,新リスク学ハンドブック,丸善,2009
[5] 酒井信介,技術分野におけるリスクアセスメント,森北出版,2003
[6] Yacov Y. Haimes, Risk Modeling, Assessment, and Management, WILEY, 2009
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