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「リスクマネジメント・ツールボックス (6)」

河合 一夫 [プロフィール] URL: こちら  Email: こちら :3月号

 数回に渡りリスク特定でよく使われるツールであるブレーンストーミング、特性要因図、RBSに関して述べてきた。今回は、根本原因分析について考えたいと思う。根本原因分析とは、因果関係にある事象や物事の関係から、その「根っこ」にある原因を探索することである。今までに紹介してきたツールと根本原因分析の関係は次に示す図で表してきた。この図は、思考技術をベースとして、RBSやプロンプト・リストといったリスク事象を一般化したものを利用してブレーンストーミングにより特性要因図を作成する中で、問題の根っこを探索するということを示している。本当にこんな単純なのか、疑問に思われる方もいると思う。筆者もその一人であり、再考してみたい。

 最初に、根本分析における事象分析の問題について考えてみる。第1点目として因果関係にある事象の分析は、簡単にはできないということである。複数の事象がさまざまなタイミングで発生した結果であるため、各々の事象の発生列は、大河に注ぎ込む支流のようなものになる。支流を遡っていっても、それが源流であるかの判断は難しい。全ての事象を洗い出す必要はない場合も多いが、重要な事象の発生を見落としてしまうことは避けなければ分析の意味はない。人は全てのことを見通すことはできない。また、事例が少ない場合、Aが発生する原因はBであると言い切れないことがある。因果関係を分析する根本原因分析は、使い方を間違えると意味のない分析に労力をかけて実施してしまうことになる。
 本稿の目的は、リスクマネジメントにおける根本原因分析の利用に関して再考することにある。既に起きた事象(過去の事象)を分析し、その原因を特定しておくことは重要である。その結果をチェックリストに利用することは、実際のリスクマネジメントにおいて重要なアクティビティの一つである。これは従来からの一般的な考え方であり、それなりに有効であると思う。但し、これはプロジェクトで発生する事象や結果が、ある抽象度においては「同様」であるという前提にたったものである。従って、類似性の高いプロジェクトであれば、より具体的なリスクが以前のプロジェクトから想定することは可能になるということである。逆に類似性の低いプロジェクトの場合は、抽象度の高いレベルでのみ参考になる。チェックリストの内容も同じである。抽象度の高い質問(チェック項目)からは、具体的なリスクの特定は難しい。
 リスクマネジメントは、不確実な状況の中で発生する事象がプロジェクトや製品・サービスに及ぼす結果を評価し、許容可能なレベルにするよう対応する。これは、ある結果が起きることを想定して、その原因に対処することである。過去における事象の発生を考慮にいれつつも、将来のことを分析の対象にするのがリスクマネジメントにおける根本原因分析であると思う。次に示すように、過去に発生した事象から将来の事象の発生を予測し、その原因に事前に対応することにある

 その根本原因分析であるが、それには3つの分析軸が必要と考える。1)対象の構造化(モデル化)による分析、2)時間軸による分析、3)多様な視点による分析、である。対象をモデル化することによって複数人によるマネジメント対象の共有を可能にする。また、因果関係を見つけるには時間軸に沿った事象の発生を分析する必要がある。さらに複雑な事象の分析には多様な視点が必要である。これを表すと次に示す図となる。

 リスクマネジメントにおける根本原因の分析には、3つの軸をサポートするツールが必要である、というのが本稿の主張である。以下において、いくつかのツールを紹介する。
1. 時間軸による分析
  (ア) イベントツリー分析[1] [2] [3]
(イ) 過程決定計画図(PDPC)
(ウ) システムシンキング
2. モデル化による分析
  (ア) RBS
(イ) 階層化ホログラフィックモデリング[4]
(ウ) プロブレムフレーム
(エ) 数学的モデル
3. 多様な視点による分析
  (ア) 特性要因図
(イ) ブレーンストーミング
(ウ) RBS

 根本分析は、上記に紹介したツールを組み合わせることで行う。次回は、具体的な組み合わせの方法について述べたい。

参考文献
[1] 関根和喜編,技術者のための実践リスクマネジメント,コロナ社,2008
[2] 吉川榮和,新リスク学ハンドブック,丸善,2009
[3] 酒井信介,技術分野におけるリスクアセスメント,森北出版,2003
[4] Yacov Y. Haimes, Risk Modeling, Assessment, and Management, WILEY, 2009
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