PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (6)

向後 忠明 [プロフィール] :4月号

「海外インフラの輸出」すなわち、海外へのインフラ事業の輸出は政府の重要施策として以下のような事業が新聞などで伝えられている。
高速道路や高速鉄道、下水道等の公共事業
環境、エネルギ、電力等の設備産業
情報通信、スマートグリット等のITC関連事業
水道事業などを対象としている地方自治体がある。
 その他、今後さら同様な事業を対象とする省庁・自治体も今後さらに出てくる可能性もあるでしょう。
 何故、このようにこれまで国内にとどまっていたインフラの整備事業が海外にそのビジネスチャンスを求めているのか?
 このことは以下のインフラ事業にかかわる事情が以前と比べ大きく変化してきたことによります。
高成長が続く新興国のインフラなどの能力不足が経済および鉱工業生産等の妨げとなっている。
日本の公共投資にかかわる投資が財政的にも縮減し、今後大きな伸びが期待できない。
日本のインフラ建設は技術的にも成熟し、運営技術にも問題はなく、海外への輸出にも問題はないと考えられている。
日本以外の国や企業も新興国へのインフラ事業の運営を含めた輸出を進めている。

 このように本事業は日本の抱える課題と新興国の事情が合致することにより発生した施策であり、そのソリューションとして各省庁や自治体が出したものと推察されます。
 しかし、この施策を出した日本そしてそれを受ける新興国が、お互いにWin-Winの関係でこの施策の背景にある課題をうまく解決することが今後の重要な課題となります。
 この施策が、プログラム総合マネジメントで言うところのミッション(使命)であり、そこに含まれる課題を解決していくマネジメント手法がP2Mで言うところのプログラムマネジメントです。
 この施策に含まれるミッションには2つの意味があるように思われます。その一つは新興国のインフラ能力の改善と日本国側の産業の振興とその結果の経済的メリットの享受であり、二つ目はインフラ事業そのものが成功裏に完成することです。
 最初のミッションはどちらかと言うと政府や自治体が考えている究極のミッションであり、二つ目のミッションは各事業を進める事業体に対するミッションとなります。

 本コーナでは事業体を対象としたプログラムミッションについて説明をしていきます。
よって、このプログラムミッションの課題解決とは事業の成功裏な業務遂行であり、ここでプログラム & プロジェクトマネジメントの必要性が出てくるのです。

 一般的にこのような非ビジネス的かつ公共的な分野のインフラに関するプロジェクトはODA案件と称して提案国よりの依頼によるケースがほとんどであり、その依頼が現地より外務省経由JICAに来ます。
 そして、JICAが産業界または学界から事業化妥当性検討の調査団を選定し、その当事国との約定に従って調査団を対象国に派遣し、現状調査、技術的検討そして投資対効果を含む事業化妥当性検討(FS)を行います。
 しかし、このFSの結果が適切であっても、実際の事業化は別の組織であるJBIC(国際協力銀行:昔はOECF)の財務的処置が必要であり、この銀行の了解がないと次のステップに進めません。
 その上にさらに難関が立ちはだかっています。この種のプロジェクトはアンタイド(日本企業のみに受注権利があるわけでなく海外の企業も参加可能と言ったルール)であり、必ずしも日本企業が受注できるとは限らず、最近ではほとんど海外に持っていかれているのが現状です。
 「何故、日本の税金で進める事業を海外の企業に渡すのか?」と言う疑問を持つ人たちも多いと思いますが、残念ながら、国際的な約束事でもありどうしようもありません。

 少し余計な話になりましたが、ここまでの話で賢い読者諸君はすでに理解されたと思いますが、JICA調査団が行う作業はいわゆる超上流側の仕事であり、その内容はP2Mのスキームモデルに酷似しています。
 因みに、筆者がJICA調査団として行ってきた電気通信の調査結果内容の項目をその一例として以下に示します。
 このような内容がスキームモデルで行われることになると思います。

 1. 現況報告
  1) 当事国の現況および地勢、気候
  2) 対象事業の現況
  3) 調査分析の基本的取り組み
 2. 現状分析
  1) 対象事業を構成する設備やシステムの現状分析の調査内容と分析手順
  2) 構成設備およびシステムの調査結果(各種データの作成、分析、問題点整理)
 3. 需要調査
システムまたは設備からの収益算出のための設備やシステムの需要および利用度
 4. 需要および利用度予測
現状の需要および利用状況の分析に基づく将来の需要および利用度予測
 5. 技術検討
  1) 適用対象技術
  2) 対象技術の適用および基本設計
 6. プロジェクト管理
  1) 基本設計によって設定された構成設備またはシステムの全体構造のプロジェクト
モジュール化
  2) プロジェクト実行体制およびスケジュール
  3) オペレーション & メインテナンス体制
  4) プロジェクトコスト(概算)
 7. 費用対効果検討
  1) 前提条件
  2) 検討および評価(評価には社会的効果も含む)

 以上ですが、スキームモデルでの各作業に当てはめると順不動ではあるがほとんどの作業内容が包含されていると思います。このような内容でまとめられた報告書が次の段階の作業の要件となり、いわゆるP2Mで言うところのシステムモデルに移行することになります。
 P2M標準ガイドブックに示されているスキームモデルは具体的にどのようなことをどの段階でするのかわからないと言う意見が多く出されていました。
 しかし、読者諸君もここにあげた具体的な作業項目を見て、少しはスキームモデルでやらなければならない作業項目がイメージできたと思います。

 ここに示した例は電気通信を中心にその具体例ですが、他のインフラ事業および産業(例:工場設備やプラント)にもその事業特性に合わせて項目を修正/変更することによってかなりの範囲でスキームモデル作りに利用できると思います。

 ところで、読者諸君の中にはここに示した検討項目例を見て、このような作業はコンサルタントの仕事と思っている人もいるでしょう。
 しかし、筆者の意見ではスキームモデルは次のシステムモデルの作業と密接につながっていることを考えると、必ずしもそうとは言えないと考えています。
 なぜなら、スキームモデル作りにおいても下記に示すようなプロジェクトマネジメントに関する知識/能力が必要されます。
契約形態の在り方および交渉
事業内容による対象となる専門家の選定
事業の特性を考えた調査項目の洗い出しとチームの体制
調査活動の効果的、効率的運用
調査結果の分析結果によるプロジェクトの形成とその計画
コスト積算と費用対効果分析
 これらの作業をまとめていくには「ゼネラルなプロ」に求められる能力/知識と同じであり、さらに重要なことはスキームモデルにて実行された作業はより詳細に行われるシステムモデルの作業に大きく影響することです。
 文章では表せない現地状況、そして調査中での各種問題を含むコンテクスト(Context)は実際の調査活動に携わった人しかわかりません。
 このようにスキームモデルの作業はその段階で行った組織がシステムモデルの段階でも解散せずに引き続き利用した方がベターと考えられます。
 また、副次的効果としてはスキームモデルの作業とシステムモデルでの作業で重複する作業も簡素化することができ、スケジュール的にもコスト的にも有効な方法と考えられます。

 国の施策としての「インフラの海外輸出」はスキームモデル、システムモデルそしてサービスモデルを一貫して行わなければならない事業であり、この種の事業をマネジメントする「ゼネラル名プロ」の出番がまさに出てきたということです。

 今回はJICAベースの業務をスキームモデルの一例として示してきましたが、インフラ事業は相手国の基盤造りでもあり、慎重なスキームモデルの作成が必要となります。
 このため、相手国当事者は各事業体に対してはスキームモデルの提案を求め、その優劣によって審査を行い、より良いモデルを提案した事業体に本格的事業を依頼することが一般的です。 このように、スキームモデル作成能力は双方にとっても重要な作業となります。
 そのため、このスキームモデル作りにおいては、前月号の「ハイレベルPMのスキル全体像」でも示したように、これまでのプロジェクトマネジメントスキルに加えビジネスマネジメントスキルが必要となります。例えば、調査、状況/問題分析、財務分析そしてプレゼンテーションと言ったものがあります。
 その他、海外と言うことでのコミュニケーション、対象国の慣習、そして一般的業務等に関する知識も必要になるでしょう。


 次月号に続く
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