PMプロの知恵コーナー
先号   次号

ゼネラルなプロ (7)

向後 忠明 [プロフィール] :5月号

 前月号ではJICAの調査案件を基にスキームモデルを説明しました。そしてこのモデル作りにはプロジェクトマネジメントスキル以外にビジネスマネジメントスキルが必要であることを説明してきました。
   スキームモデルの良し悪しは「プロフェッショナルの定義」で説明したように「仕事に結果責任を持ち顧客満足を達成できる人」すなわち顧客または上司を「うならせる」報告書でなければなりません。そのためには、スキームモデルはシステムモデルやサービスモデルまでの構想を示した具体的で実現性が感じられ、かつ状況変化を展望した中長期的視点で設計した「マスタープラン」でなければなりません。
 これまでのプロジェクトマネジメントの世界では目標がはっきりした管理可能な「タンジブル」な活動を対象としていました。しかし、昨今は技術のダイナミズムのみならず市場/経済のダイナミズム等「インタンジブル」な対象をマネジメントする必要性が出てきています。
 このインタンジブルな対象をプロファイリングにより新機軸の戦略による展開を考えながらその対象を「見える化」し、顧客や上司をうならせるようなビジネスモデルを具体的に構想するビジネスマネジメントスキルが必要となってきています。
 その一例をIT関連の事業をベースに図7.1に示します。
図7.1 IT戦略策定(プロファイリング)
図7.1 IT戦略策定(プロファイリング)

 ところで、ゼネラルなプロ(6) にて説明したようにミッション(使命)の考え方にはその対象によって大きなものと小さなものがあるように思われます。
 例えば、インフラ事業の海外輸出を例にとった場合、 図7.1に示すプロセスは大きくは「市場(新興国のニーズ)と日本の技術を考えた産業振興」と言う課題から考えられた大きなミッション(使命)である「インフラ事業の海外輸出」と、そこから派生したビジネスモデルである小さなミッション(使命)となる。そのビジネスモデルとして挙げられている例が下記に示すものです。

高速道路や高速鉄道、下水道等の公共事業
環境、エネルギ、電力等の設備産業
情報通信、スマートグリット等のITC関連事業
水道事業などを対象としている地方自治体がある。

 上記に示す各々の図7.1に示す小さなミッション(使命)の成功の総体が大きなミッション(使命)である「市場(新興国のニーズ)と日本技術を考えた施策」としてのインフラ事業の海外輸出”が成功したことになります。
 このようにミッション(使命)のとらえ方には大きなものと小さなものがあるような気がします。
 上記の図7.1はP2Mではミッションプロファイリングと称して以下のように説明しています。

 複雑事象について経験・知識・洞察力に優れたプログラムマネジャによる問題発見、方策立案によって全体使命(プログラムミッション)を明確化するプロセスで、全体像を正しく理解するコンテキスト分析、プログラム全体像を想像力によりプ体的なプロジェクトとして実現への道筋を示す代替え案を創出するシナリオ展開からなっている。

 大きなミッションとは図7.1のミッションプロファイルに示すプロセスを通りビジネスモデルを設定するまでを本コーナでは称します。
 昨今、リストラクチャリング、イノベーション、グローバル化、新ビジネスまたは新経済戦略等々の文字が良く目にします。これに関連してマーケッティング、ファイナンス、ストラジティー、クリティカルシンキング、そして人的資源管理と組織行動等と言ったマネジメントスキルがグローバルビジネスの世界では不可欠となっているようです。
 このマネジメントスキルはMBAの基礎科目と言うことで日本の各企業でもその必要性に鑑み、社員教育の一環として進めているようです。
 しかし、ここでの知識は前記に示したようなプログラムミッションを設定するためのかなり上流の領域の仕事をする人達に必要なものと筆者は考えています。
 企業であれば経営管理や企業の戦略企画に携わる人、そして公共事業であれば施策設定をする部局の役割と考えています。
 これに対し、これまで請負側でプロジェクトマネジメントに携わってきた人達については「明確化されたプログラムミッション」すなわち、ビジネスモデルに示すような小さなミッション(使命)から入った方がよいと思います。
 ただし、より上級のプログラムマネジャを目指す人は、上流の領域の大きなミッションである図7.1に示したビジネスモデル設定までの範囲をスキームモデルの範囲として目指しても良いと思いまが・・・・・。
 すでにJICAの例で示したものは小さなミッションを対象としています。 JICAの例の作業手順(プロセス)を示すと以下のようになります。

図7.2 アーキテクチャーマネジメント
図7.2 アーキテクチャーマネジメント

 このように、スキームモデルは図7.1および7.2の示すように2つのプロセスの合成から成り立っています。
 さて、ここでプログラムマネジメントに関連するビジネスマネジメントに話を戻します。対象は図7.2に示すプロセスを対象としますが、この場合でも設定されたビジネスモデルからアーキテクチャーマネジメントに入るまでの過程で図7.1と同じプロセスを踏みます。よって、そこに必要とされる知識項目の代表的なものを以下に示します。
マーケッティング
クリティカルシンキング
ファイナンス、
ストラジティー、
組織体制と人的資源管理
契約管理

 なお、P2Mで示すプログラムはあらゆる活用分野(活用事業)を対象としているのでその具体的適用にも不便さがあり、どうすればよいのかわからない読者諸君も多いと思います。
 適用の第一歩は、当然のことから自社のコアービジネスを考えればその活用分野(事業)も必然的に決まることと思います。そして、次はプログラムのミッション(使命)の大きさによりますが、図7.1に示すプロファイリングから始める内容かまたは図7.2に示す「明確化されたプログラムミッション』からのものかを見極める必要があります。
 ここでは「明確化されたプログラムミッション』である社会基盤系、生産設備系、総合エンジニアリング系、IT・情報通信系の事業にて必要なビジネスマネジメントについて示します。
 なお、詳細なビジネスマネジメントに関する説明は関連する書物が多く発刊されているのでそちらを参照してください。本コーナでは筆者が主に使用し、役に立ったものについて述べてみたいと思います。

1) マーケッティング
これは特に論ずる必要もないことですがマーケッティングとは「Needs」と「Want」すなわち「需要」と「供給」の関係の調査分析、そして対象市場や事業の絞り込みをするマネジメントです。
 これは図7.1に示すミッションプロファイリングおよび図7.2のアーキテクチャーマネジメントの出だし(最初のプロセス)において必要な知識です。
 本コーナでは経営戦略でのマーケティングではなくマーケティング戦略すなわち事業レベルでの競争分析を中心とします。
 すなわち、対象事業を取り巻く環境の分析、対象市場の選定そしてマーケッティングミックスの最適化と言った手順であり、対象事業またはビジネスモデルを構想するプロセスの重要な部分です。
調査
 調査はミッション(使命)の本質を見極めながらプログラムマネジャの経験、知識、洞察力を駆使して調査項目、調査プロセスそして必要調査資源(人、物、金)の設定を行い、この計画に従い実行することになります。まずは、調査対象の絞り込み、すなわちセグメンテーション(特に社会基盤系には重要)、対象の設定すなわちターゲティング(規模や将来性、自社の技術・資源、魅力度)そして狙いとする事業の具体的選定すなわちポジショニング(複数のシナリオとモデル)の順になると考えます。

分析
 調査結果の分析にあたっては各種手法があるわけですが、それがクリティカルシンキングまたはラショナルシンキングです。
 この考え方は調査した事実や情報を整理し、その結果を基に物事を客観的、論理的に考え、それを効果的にまとめる思考方法を言います。
 例えば、KJ法、ケプナートリゴ法、ゼロベース思考、MECE(モレなく、ダブりなくなどのマッキンゼーの方法)、3C分析(企業の現状分析の定番)、そしてSWOT分析やポートフォリオ分析等々といろいろあります。
 筆者は調査結果の整理を含めた状況分析(セグメンテーション)、課題の原因分析と決定分析(ポジショニング)、そしてリスク分析と言ったラショナルシンキングやSWOT分析、ポートフォリオ分析等をよく使いました。

 このラショナルシンキングの解説を含め、以降の説明は次月号にて・・・
ページトップに戻る