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「阿修羅と反省(Hansei)」

TPSに学ぶPM-WG主査:富士通アドバンストエンジニアリング 小原 由紀夫,PMP [プロフィール] :3月号

 平城遷都1300年祭が開催されていた奈良に行き、興福寺で国宝の阿修羅像を見ました。阿修羅は、修羅場での戦いを御釈迦様の導きで、懺悔、反省しています。武装せず、覚悟して、守護する阿修羅に感動しました。
 反省は、アメリカのトヨタの工場においてKaisen(カイゼン)と同じように、Hanseiとして浸透しています。
 これらと、「修羅場を経験すると、一人前になる」と言われる背景と成長について考えていきます。

1.阿修羅
 阿修羅像は「小顔・スリム」で、仏像界の人気アイドルです。昨年、東京と九州の国立博物館で開催された、「国宝阿修羅展」に100万人が来場しました。50年以上前(昭和27年)にも50万人を集めています。私が興福寺の国宝館を訪れた時も、雨の中40分間の行列ができるほどの人気でした。
 阿修羅は、かつて、帝釈天と戦いを繰り返していました。帝釈天は善の神であり、悪の神である阿修羅は常に負けていました。この戦いの場が修羅場です。その後、阿修羅は釈迦に帰依し、戦いの罪を懺悔します。阿修羅は八部衆です。八部衆は、仏教の守護神であり、阿修羅以外の守護神は武装しています。阿修羅は戦いの罪を懺悔しているので、唯一武装していません。
 阿修羅像は三面六臂、3つの顔と6本の腕を持ちます。正面の顔は、静かに、かつ、強く正面を見ています。左に向いた顔は唇を噛んで悔しさに満ち、右に向いた顔は目を寄せて自分を見つめています。私は、悔しさを秘め、自己を見つめ、その上で、静かに、守りきる覚悟をもっている姿と、1300年前から現代まで引き継がれてきた時間に感動しました。私と同じように修羅場を懺悔する阿修羅像に数百万人が引き寄せられています。

2.Hansei(反省)
 ジェフリー・ライカーは著書”THE YOTOTA WAY”の中で、反省をカイゼン”Kaizen”と同様に”Hansei”とローマ字で表現しています。”Without hansei it is impossible to have kaizen.”(「ハンセイなしにカイゼンはできない」)、”Hansei and kaizen go hand in hand.”(「ハンセイとカイゼンは車の両輪である」)と表現し、カイゼンにおけるハンセイの重要性を示しています。
 反省は日本の恥の文化から繋がっています。日本での反省は、自分の弱みと直面し、二度と同じようなことを起こすまいと心から思わなければなりません。反省はreflection(内省)と英訳されます。しかし、アメリカ人にとってreflection(内省)とは、子供の時の”Time-out”(小休止して、ちょっと作戦を変える)か、個人攻撃として否定的な意味しかありません。アメリカのトヨタの工場では、カイゼンを推進するアメリカ人のリーダがHansei(反省)の価値観に気づきました。そして、アメリカ人がHansei(反省)を英語でアメリカ人に浸透させました。反省(Hansei)して報告書にまとめるプロセスで、本人が一番学べるので、報告を受ける社長は結果だけでなく、反省プロセスにも注目します。素晴らしい結果であったとしても、必ず改善の余地はあるはずと信じているので、必ず反省会を実施します。反省(Hansei)は変化のプロセス全体の孵卵器と位置づけられています。
 なぜなぜ5回(階)では、「なぜ」と聞く前に、主語を「私」、述語を行動の動詞とする行動表現により、問題を表現します。行動表現により自分の弱みを見直して反省することが重要です。その後、「なぜ」により二度と起こさない真因を追求していきます。反省は、なぜなぜ5回に必須であり、カイゼンに必須です。

3.「修羅場を経験すると、一人前になる」の背景
 様々な人から、「修羅場を経験すると、一人前になる」と聞かされてきました。私自身もそうでした。阿修羅は修羅場で戦い、それを悔やみ、自分を見つめて、覚悟して、阿修羅像の姿になりました。一人前に成長するためには、戦いの場である修羅場と同時に反省することが重要です。
 反省(ハンセイ)は、カイゼンと両輪をなすので、トヨタのアメリカ工場だけでなく、世界中でカイゼンを推進している工場やサービス業に浸透していると考えることができます。反省(ハンセイ)は、国境、企業、業種を超えて広まっている、日本発のグローバル思考です。
 成長するための修羅場はどこにでもあります。なぜなら、素晴らしい結果であったとしても、必ず改善の余地は存在するからです。結果だけでなく、プロセスを反省することにより学習する組織となっていきます。
 阿修羅にとっての修羅場とは戦いの場でした。学習する組織にとっての修羅場とは、自分の弱みと直面する反省会です。よい反省会を経験することにより個人と組織が伴に成長していけます。
 私は、興福寺で阿修羅像と正面と側面の3つ顔の絵葉書を購入しました。毎日、机の上の絵葉書を見て、反省を喚起しています。

<参考>
阿修羅(興福寺ホームページ): リンクは  こちら
八部衆(興福寺ホームページ): リンクは  こちら
・帝釈天(柴又帝釈天ホームページ⇒当山について⇒帝釈天): リンクは  こちら
東京国立博物館「国宝 阿修羅展」: リンクは  こちら
九州国立博物館「国宝 阿修羅展」: リンクは  こちら
「阿修羅の秘密」: リンクは  こちら
「ザ・トヨタウェイ(上・下)」ジェフリー・K・ライカー著 稲垣公夫訳 日経BP社 2004,東京
The Toyota Way 14 Management Principles from the World’s Greatest Manufacture Jeffrey K.Liker McGraw-Hill 2004,New York

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