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             7分で分かるPTA 
            
			             
1. PTAを学ぶ必要性 
PMBOK®ガイド (A Guide to the Project Management Body Of Knowledge)の調達マネジメント章の中で、定額インセンティブ・フィー契約(FPIF)という契約形態があります。FPIFを理解するために必要不可欠なのがPTA(Point of Total Assumption:配分転換点)であると考えます。しかしFPIF等のインセンティブ契約は、我々日本人には馴染みがないため理解し難く、仮にPMP®試験に出題された場合、根本的に理解していないと得点獲得機会を失ってしまう可能性があります。一方で、PMP®試験を受験する方から話を聞くと、「調達マネジメントを仕事として実施した経験が無いためイメージし難い。」というのもよく見聞します。そのため、特に理解し難いPTAを理解することで、調達マネジメント全体を理解するためのきっかけにして頂きたいと思い、以降説明します。 
 
2. PTAの具体的説明 
2.1. FFPについて 
PTAを理解するにあたって、まず完全定額契約(FFP)を理解する必要があります。 
FFPとは、調達するプロダクトやサービス等のスコープが明確に規定されており、そのプロダクトやサービスの価格が、スコープ変更が無い限り常に変わらない契約のことです。FFPのポイントは、以下の通り大きく3つあります。 
 
  
    | ・ | 
    購入者支払額は実コストの変動に関わらず常に一定である。(図 1‐①) | 
   
  
    | ・ | 
    実コストが契約価格内の場合、納入者利益となる。(図 1‐②) | 
   
  
    | ・ | 
    実コストが契約価格を超えた場合、以降納入者損失が発生する。(図 1‐③) | 
   
 
 
 
図 1 完全定額契約 (FFP) 概念図 
 
上記をITプロジェクトの例で説明したいと思います。ある建設企業A社がWebシステムの構築をSIベンダB社へ1,000万円で依頼する場合、A社を購入者、B社を納入者と称します。この場合、契約価格は1,000万円です(図 1‐①)。 
B社はプロジェクト開始後に設計や開発などを行うことで、費用(実コスト)は時間が経つにつれて増大していきます。その際の納入者利益は、 
納入者利益 = 契約価格-実コスト 
 
となります。実コストが契約価格範囲内であればB社には利益が発生します(図 1‐②)。しかし、実コストが契約価格を超えた場合、B社に損失(プロジェクトの赤字)が発生します(図 1‐③)。 
上記を留意しながら、FPIF及びPTAを次章にて説明します。 
 
2.2. FPIFについて 
定額インセンティブ・フィー契約(FPIF)とは、実コストと目標コストの差を一定割合に基づいて総利益を調整し最終契約価格を決定する定額型の契約形態です。 
ここでのポイントは、一定割合だけによるインセンティブ条項だけであると、購入者側の支払額は制限がなくなります。従って、購入者側コストのリスク回避のために上限価格というものを設定します。購入者の支払額が上限価格に達する時の実コストを“PTA(配分転換点)”と言います。 
話を元に戻して、FPIFのポイントは以下の通り大きく4つあります。 
 
  
    | ・ | 
    実コストが目標コスト、PTA範囲内の場合、目標コストと実コストの差を一定割合に基づき、購入者・納入者双方にて配分される。(図 2‐①) | 
   
  
    | ・ | 
    実コストがPTAを超えた場合、以後納入者のみが実コストを負担する。(図 2‐②) | 
   
  
    | ・ | 
    実コストが上限価格を越えた場合、納入者損失が発生する。(図 2‐③) | 
   
  
    | ・ | 
    実コストがPTAを超えた場合、上限価格(購入者支払額)は一定となる。(図 2‐図④) | 
   
 
 
 
図 2 定額インセンティブ・フィー契約 (FPIF) 概念図 
 
上記をFFPのITプロジェクトと同様の例で説明します。 
B社はプロジェクト開始後に設計や開発などを行うことで、費用(実コスト)は時間が経つにつれて増大していきます。その際の納入者利益は、
  
納入者利益=目標価格-購入者比率×目標コスト-納入者比率×実コスト 
 
となります。更にPTAは、 
 
PTA=(上限価格-目標価格)÷購入者比率+目標コスト 
 
となります。目標価格とはA社、B社で合意した価格であり、購入者比率とは、A社・B社で実コストや利益を配分する購入者側の比率のことです。 
仮に上限価格を1,000万円、目標価格を800万円、目標コストを700万円、実コストを650万円、A社:B社の比率を80:20と設定した場合の納入者利益を求めると、 
 
  
    | 納入者利益 (110万円)= | 
      | 
   
  
    |      目標価格 (800万円) | 
    -購入者比率 (80%)×目標コスト (700万円) | 
   
  
    |   | 
    -納入者比率 (20%)×実コスト (650万円) | 
   
 
 
となります。またPTAを求めると、 
 
  
    | PTA (950万円)=(上限価格 (1,000万円)-目標価格 (800万円)) | 
   
  
    |                   ÷購入者比率 (80%)+目標コスト (700万円) | 
   
 
 
となります。上記の場合、実コストが目標コストの範囲内なので、A社とB社とで実コスト及び利益を双方にて合意した比率80:20に従って配分されます(図 2‐①)。結果的に納入者利益は110万円となります。 
仮に実コストがPTA(950万円)を超えた場合には(図 2‐②)、実コスト負担はB社の全額負担となります。従って図 2の通り、PTAを越えたら購入者であるA社は支払い義務がなくなるため、上限価格が一定の1,000万円となります(図 2‐④)。 
また、その場合の実コストの負担はB社のみになり、PTA前後でB社の納入者利益の傾きが急激に下降します。更に実コストが上限価格の1,000万円を超えた場合はB社に損失が発生します(図 2‐③)。 
以上のようにPTAは、A社、B社で実コストを負担するか否かの境目のことなのです。 
 
3. 最後に 
いかがでしたでしょうか。PTAを説明してきましたが、ご理解頂けましたでしょうか。調達マネジメントは実務においてなかなか関わる機会が無いことが多いため、理解し難いと思います。しかし幸運にも著者は関わる機会が多かったため、理解向上の助けとなりました。とはいえ、FFPやFPIFのインセンティブにはなじみが無いため、やはり概念上で覚える必要があります。なるべく分かりやすく説明したつもりですので、本論が少しでもPMBOK®ガイド を勉強している方や、PMP®試験を受ける方のPTAを含めた調達マネジメントの理解向上に貢献できたら幸いです。 
 
参考書籍 
  
    | ・ | 
    PMAJ® 研修第2部会※ PMP®試験対応講座テキスト | 
   
  
    | ・ | 
    プロジェクトマネジメント知識体系ガイド (PMBOK® ガイド )第4版 | 
   
  
    | ・ | 
    政府IT調達におけるインセンティブ付契約の適用に関する調査 調査報告書(平成16年1月、独立行政法人 情報処理推進機構) | 
   
 
 
  
    | ※ | 
    現在では、PMBOK研修部会と改称しています。
 
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    |   | 
    PMP、PMBOKは米国Project Management Institute, Inc.の登録商標です。 
PMAJは日本プロジェクトマネジメント協会の登録商標です。
 
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    |   | 
    本稿は、PMAJ® オンラインジャーナル 2011年3月号に寄稿されたものを一部修正したものです。 | 
   
 
 
以上 
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