注目を浴びつつあるプログラムマネジメント
(株)日立インフォメーションアカデミー 緒方 慎八:12月号
2010年10月10日(日)から3日間米国ワシントンDCでPMI Congress2010が開催され筆者も参加しました。米国でのプロジェクトマネジメントの大会でクリントン元大統領もスピーチをするというので約3000人の参加者が集まる大きな大会でした。その大会のトピックスとして私が最もお伝えしたい事柄を述べたいと思います。
【国家予算の無駄使い】
初日の朝はオバマ大統領が指名した米国連邦政府CIOであるMr. Vivek Kundraの1時間半のスピーチで始まりました。彼はまず始めに「国の研究所が$800M(当時1,000億円相当)のコンピュータシステムを建設したが使われずに終わった。(1988年)」「ある局が$100M(当時115億円相当)をかけて会計システムを作ったが2年しか使わずに捨てた。(1998年)」「2004年に国のある機構は$249M(当時261億円相当)を費やしたFinancialシステムプロジェクトをキャンセルした。2005年に再開したが更に2010年に再びキャンセルした。」という事例を組織の実名を挙げながら説明したのです。こういう国家予算の無駄使いが米国では大きな問題となっています。
【対策】
このような問題に対してKundra連邦政府CIOは現在実施している色々な対策について述べました。2009年夏にはITダッシュボードを開発し主なITプロジェクトのコスト、スケジュール、実績を「見える化」したそうです。飛行機のコクピットに並んだ計器の針のようなものがプロジェクトの状態を示しているのですがこのダッシュボードをオバマ大統領自身が実際に使いながらプロジェクトを見直し、継続、停止、終結の意思決定をしている画像をKundraCIOはスライドで見せてくれました。更に、プロジェクトマネジメントについては次の3つの手を打つことを述べています。
① |
シミュレーションラボの建設
現場での実際のシナリオと統計に基づいたシミュレーションを実施し、経験豊富なプログラム/プロジェクトマネージャからその場で意見を貰うラボの建設。 |
② |
フェロー制度の実施
公共機関へのサービスに従事しているパートナーや連邦政府全体のプログラム/プロジェクトマネージャからなるコミュニティを作る。 |
③ |
プロジェクトマネージャのプロを育てるための研修・訓練
プロジェクトマネージャの研修コース(マネジメント実施訓練や問題解決の現場訓練)を作る。 |
【プログラムマネジメントの必要性】
上記のようにCIOは組織の戦略実現のために新しいプロジェクトを起こしたり、複数の既存のプロジェクトの見直し・統合・廃止を行わなければなりません。実は米国では連邦政府CIOに必要な知識・能力条件(コアコンピタンス)がClinger-Cohen Core Competenciesという法律として制定されています。制定されているCIOコアコンピタンスの大分類は12個ありますが、その一つに「IT Project/Program Management (ITプロジェクト/プログラム管理)」というものがあります。CIOはプログラムマネジメントとプロジェクトマネジメントの知識・能力を備えるよう法律で求めているのです。今回のPMI Congress2010でもプログラムマネジメントの必要性が強く叫ばれました。ではプログラムとは何でしょうか?「プログラムとはプロジェクトを個々にマネジメントすることでは得られないベネフィット(便益)とコントロールを実現するためのプロジェクトのグループ」です。組織には複数のプロジェクトがあります。組織の戦略を実現するためにこの戦略と整合がとれたポートフォリオ(*1)に沿って複数のプロジェクトを組織全体の便益実現のためにコントロールしていくのがプログラムマネジメントです。Arthur Thompsonが書いた『Crafting & Executing Strategy』によると「戦略とはシニアマネジメントがビジネスを顧客のために推進し運営するためにコミットするアクションプランである。」と言っています。このアクションプランをプログラム/プロジェクトに分解してマネジメントしていくことが戦略の実現となるのです。組織が生き残っていくために必要なイノベーション(革新・変革)もこのポートフォリオ/プログラムマネジメントにより実現されると言っても過言ではありません。
*1: |
「ポートフォリオとは、戦略的なビジネス目標達成のために求められる効果的なマネジメントを促進するため、プロジェクトまたはプログラム、及び他の活動を集合したものである。」とPMI 『ポートフォリオマネジメント標準第2版』に記載されています。 |
【プログラムマネージャの認定制度】
PMI Congress2010でもプログラムマネジメントについて多くのセッションが開かれました。PMIはプログラムマネジメントのガイドラインである「プログラムマネジメント標準第2版」を発行しています。PMIによって制定されたプログラムマネージャ認定制度が注目を浴びつつあり現在PMIによって認定されている人数が約460人とのことです。現在PMIによって認定されているPMP(Project Management Professional)の数が約372,000人ですからまだ0.1%の段階です。「日本にはまだ認定を受けたプログラムマネージャがいない。増やす必要があるのではないか」との指摘を米国のプログラムマネージャから会場で受けて帰ってきました。日本でもプログラムマネージャとして認定を受け社会に貢献する人材が出てくることが期待されています。
―以上―
|