PMプロの知恵コーナー
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ダブリンの風(91) 「1+1=3=2+2」

高根 宏士:2月号

 何年か前、あるソフトハウスで毎週夜プロジェクトマネジメントの話をしたことがあった。1回1時間半ほどで1年ほど続いたので、70時間ほど話したことになる。20数名ほどのメンバーが聞いてくれた。このソフトハウスは国際色豊かで、中国やオーストラリアの方々も一緒だった。話が終わった後、有志で2次会があった。2次会はお茶だけのこともあればアルコールが入ることもあった。そこではプロジェクトマネジメントから始まり、日常の小さなエピソード、子供のころの思い出、自分の国のことなど話題は多方面にわたった。
 曙(1時代前の横綱)のように大きいオーストラリア人からは「先生は本当に63歳(当時)なのか」と尋ねられ、そうだと答えると「自分の父親と同じ年齢だ。父親は牧場を経営しているが、ずっと老けている。先生は若いですね」と言われ気分がよくなったりした。
 その中である中国人から、中国人と日本人の比較で面白い意見を聞いた。彼は、もし中国人と日本人が1対1で勝負をしたら(もちろん仕事の上で)絶対に我々が勝つ。個人的な能力(知力、気力、体力、忍耐力を含めた総合的な)は我々の方が上だ。しかしチームを組んで戦った場合、どちらが勝つかわからない。日本人はチームプレイが得意だ。中国人はそれぞれの自己主張が強すぎて、チームプレイでアウトプットを大きくすることが下手だということである。すなわちタイトルにあるように日本人は1+1=3であるのに中国人は2+2=3となり勝負はもつれることになる。
 彼の意見は示唆に富んでいる。中国人や米国人には個人的、短期的にアウトプットを出すことでは日本人では到底敵わない人が多い。彼らはその利点を強調したルール作り(短期的成果、個人成果で評価するなど)をし、それをグローバルスタンダードにしている。日本人が自分の組織の中で安易にこれらのルールを採用し、物事を取り仕切ろうとすると、成果は下がるであろう。彼らの思うつぼである。現に成果主義を標榜し、反って競争力を落としてしまった企業の例も見られる。我々は、彼が言ったチームプレイの長所を生かし、チームのアウトプットの最大化、長期的視点からの評価にもっと重点を移すことが肝要であろう。
 プロジェクトも含めて我々の活動では最終成果が純粋に一人の個人の力で達成されることは稀である。各個人はそれぞれ中間的成果しか出していない。それらをまとめて大きな最終成果にできるかどうかは各個人の異なった能力の組み合わせとその連携がうまくいくかどうかにある。このことが、彼が日本人について言った「1+1=3」であり、それは日本に限らず、マネジメントの世界では重要である。
 プロジェクトマネジメントの目的を一言でいえば個々の部分的、個人的成果を大きくすることではなく「トータルアウトプットの最大化」である。
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