リレー随想
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『多様性とPMシンポジウム』

古屋 雅啓 [プロフィール] :2月号

1.はじめに
 今、PMシンポジウム2011は企画推進の真っただ中にあります。実行委員のみなさんのご尽力、事務局のご支援のお陰で大会テーマ、基調講演の講演者が決まりつつあります。また各トラックの講演者、二日目のセミナー講師の方々もリストアップを終え、現在交渉を進めている段階です。もうすぐ全てのプログラムが決定する段階まで進み、今回も充実した内容のPMシンポジウムが開催出来る見込みです。

 企画委員会を構成するメンバーは、様々な業界・色々な立場から種々の経験を積まれた方々、あるいは机上だけでなく現場の様子を体験したい熱心な学生の方々の参加により成り立っています。みなさん、プロジェクトマネジメントに興味を持っていることは勿論ですが、“PMシンポジウムの開催”というPMAJの一大イベント遂行を共通のミッションとして、一人ひとりがこのプロジェクトを強力に推進しています。そして率先して自らの知識を発揮し、経験を積み重ね、自発的に意欲を持って、人とのつながりを大切にし、計画を実践しています。毎年このようにメンバーが協働して講演者を決め、役割を決め、進行手順を決めてシンポジウムが創り上げられていく様は、企画・運営委員会を通して驚嘆するものがあります。

 先日の企画委員会での話です。その時の議題の一つ、PMシンポジウム2011で掲げる大会テーマの検討において一つ興味深いことがありました。毎回の大会テーマは、この企画会議で実行委員のみなさんがそれぞれの考えやアイディアを持ち寄って議論します。今回、議論になった中で、“多様性”というキーワードが挙がりました。この段階で、今度のシンポジウムのテーマを話題にするのはまだ少し早過ぎる感もありますが、ここではこの“多様性”について考えてみたいと思います。

2.多様性の意味するところ
 近年、地球環境の保全についての関心が急速に高まる中で、“生物多様性”という言葉が広く使われています。生物は、急激な自然環境の変化に適応し生存していくためには、画一的な生物群よりも多様性を持った生物群の方が有利と言われています。環境に変化が起きたとき、画一的なものは適応できなければ滅びますが、多様性を保持した生物群はどれかが適応して、生き残り易くなるそうで、その環境変化を乗り越えたものは、その因子がDNAに刻み込まれ生態的に強くなっていくそうです。

 同じことは社会環境面にも当てはまります。ある特定の文化が滅亡すると、それまで伝えられてきた知識、問題解決手法が失われるという事態が起こります。しかし、人々の交流が盛んになり、様々な思想・宗教・哲学・民族・人種が入り乱れて存在すると、多様性が入り混じり、その地域には必ずと言って良い程の社会的な変革が発生し、文化が融合し、新しい社会や文化が発生しています。

 プロジェクトマネジメントについても同様のことが言えるのではないでしょうか?
文明が発達していく中で、創成期の単なるバーチャートによる工程管理から、コスト、品質、リスクなど管理する視点の多様化によりモダン・プロジェクトマネジメントへと発展してきました。更には社会環境の複雑化・高度化とともに、“価値多様性”へとニーズが変化し、新たな価値創造や価値最大化といったことを目指す必要が出てきました。そこで、実行段階だけでなく構想段階からのフェーズへとマネジメント範囲を拡げ、プログラムの概念を取り込んだ全体最適を目標とするイノベーション型プロジェクトマネジメントへと変化・成長し、更には情報化社会の発展と相まってその手法・獲得できる成果も益々多様化してきたと言えます。

3.PMシンポジウムに見る多様性
 PMシンポジウムでは、終了後に参加者の方にアンケートを提出して頂いております。毎年その結果は、実行委員にとって非常に有意義な声として聞こえてきます。称賛する声がある一方で、お叱りの声、落胆の声を頂きます。もちろん、これらは改善点として謙虚に受け止め、次回の運営に反映させていかなければなりません。

 参加者の方々は「職務」、「業種」、「職務」が多岐にわたっており、「個人スキル」や「実務経験」の面でも多様性があります。プロジェクトへの係わりに目を向けても、「企画側」、「実行側」あるいは「発注側」、「受注側」、また「担当者」、「チームリーダー」、「プロジェクトマネージャー」、「PMO」、「経営者」など、多様な立場・階層を背景に、出席頂いております。

 このような、参加者の声を最大限に反映させPMシンポジウムを向上・発展させていくことは、私達実行委員の重要な責務と心得るところです。しかしそれは参加者の意見の最大公約数を目標とすることになり、シンポジウム自体が発散する方向へと進む危険性があります。そこで、新たな発想として参加者自身が自己の求める多様性へと変化させ取り込んでいくことが、これからのPMシンポジウムの在り方ではないかと思います。

4.PMシンポジウムの果たす役割
 PMシンポジウムに期待すること、求めることが多様化した現在、その声を全て取り込み反映させることは非常に困難であることは前述したとおりです。むしろ我々が提供するシンポジウムのプログラムをとおして参加者自身が自分の持つ課題解決の糸口を掴み、Fitさせること、応用すること、昇華させていくことが重要ではないかと考えます。すなわちPMシンポジウムは、参加者の皆さんの自己啓発のきっかけにして頂くこと、能力向上・飛躍・発展に向けたご支援をさせて頂く場を提供することに果たすべき意義があるのではないかと思います。

 今回、企画委員会で検討した“多様性”に対応していく能力を身に付けていくことは、自他ともに変化・発展していくこと欠く事の出来ないものです。そのためにも、皆さんの可能性を最大限に引き出し充実した場が提供できるPMシンポジウムとなるよう企画・運営していきたいと決意し、今日もこれから委員会に向かいます。
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