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「私たちのP2M (Project & Program Management )」とは何か、考えてみませんか
−発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (3)−

渡辺 貢成:2月号

 2. P2Mを学ぼう
2.1 発注者は構想計画から始めよう
  1) 戦略と構想
  2) P2Mの特徴
  3) ITプロジェクトのどこでP2Mが活躍するのか?
  4) 発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (1)

第11回 2月号はここから始まる
  4) 発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (3)
 前回は「ミッション・プロファイリング策定図」で「現状のありのままの姿」から経営上の問題点を探す俯瞰力が必要なことを話しました。その具体的な手法を紹介します。

 4.2 俯瞰力モデル
  iii.3 ) 価値創出のための俯瞰図(OWモデル原図)
  1月号での提示図表
① 図表10.3 経営解析型俯瞰図
② 図表10.4 原型OWモデル曼荼羅 全体俯瞰表(0/10)
  iii.4 ) OWモデル曼荼羅 展開表
  ③ 図表10.5 OWモデル曼荼羅 全体展開表(1/10)
④ 図表10.6 T.顧客関係性展開表 (3/10)
を説明しました。
2月号では以下を紹介します。
⑤ 図表11.1 U.販売開発力展開表 (4/10)
⑥ 図表11.2 V.マーケット開発力展開表 (5/10)
⑦ 図表11.3 W.商品・サービス提供力展開表 (6/10)
  「顧客関係性構築力」モデル:
高度成長期時代のものづくりに不足していたのが技術でした。この時代に活躍した経営幹部は「ものづくり=技術」という概念が人々の頭脳に刷り込まれており、技術以外にも大切なものがあることを忘れていました。現代はつくることより売ることが難しくなっています。技術は必要条件ですが十分条件ではなく、多様化された顧客のニーズを掴むことが最も難しい時代になっています。その第一は「顧客関係性の構築」です。売るという行為を顧客の側から眺め、何に心を配って実行すべきかと考え、これが顧客の心を揺さぶったとき顧客関係性が強くなります。これは商品やサービスを売る以前の顧客との付き合いを示したものです。顧客関係性が強いと特命受注が増え、経営の安定につながります。

  Ⅱ. 「販売開発力」モデル:図表11.1 参照
「販売開発力」モデル:図表11.1
ここでも曼荼羅表の中央に販売開発力の各手法を記します。販売に関しては種々の本が発売され、極意本も多く売り出されています。OWモデルでは販売の極意を示すことではなく、通常知られている手法を整理して示しました。
  Ⅱ-1   通常販売:
これは販売組織のあり方、販売促進の手法、マーケッティングに関連するものとして商品のライフサイクルと市場、顧客の成熟度レベルと商品の関係等を考えました
  Ⅱ-2   マーケット・コミュニケーション:
顧客とのコミュニケーション手法につき検討して下さい。その手法の一部を列記しました。
  Ⅱ-3   ソリューション・テクノロジー
デジタル化技術を利用した手法を列記しました
  Ⅱ-4   ソリューション・セールス
営業は通常、ニーズを持った人に接触することが鉄則です。ニーズのない人にアプローチしても無意味だからです。しかし、時に顧客は衝動買いする場合もあります。ニーズを持った人は通常5%だそうで、残りの95%はニーズを持たないが、依然として潜在顧客です。潜在顧客が95%存在するとは無限にいる手付かずのマーケットがあるということができます。この95%に挑戦しようという手法が、ソリューション・セールスです。面白いので取り上げてみました。
  Ⅱ-7   Eビジネス進展モデルを取り上げてみました。
列記した内容を読んで見てください。新しい分野なのでご参照ください。

OWモデルのI.顧客関係性構築力、U.販売開発力、V.マーケット開発力は商品・サービスの販売に深く関係しますが、この中で戦略的展開を重視するのがマーケット開発力です。販売開発力は戦略的であるより戦術的です。手法、ツール類が多く知られていますが、商品を売る前に人間を売り込めという人間くさい部分が多い開発力です。相手を見ながら、知恵を絞ることが優先されます。顧客関係性構築力も更に長期的な人間関係が重視されます。臨機応変の対応が求められます。
Ⅲ.マーケット開発力:図表11.2 参照
マーケット開発力:図表11.2
マーケット開発力とは端的に言えば顧客を選択する力といえます。日本市場では戦後3種の神器製造時代を通じて商品の開発が行われ、つくった製品は飛ぶように売れました。国内マーケットが飽和すると、製品を輸出をするようになりました。初期の日本製品は「安かろう、悪かろう」というイメージから脱却するため、米国向けの製品についてマーケット調査を徹底的に行い、マーケットが求める商品の開発をしてきました。ここでマーケットインという発想が生まれ、米国市場をはじめ欧州市場でも日本製品は評価されるようになりました。近年日本は先進国以外はマーケットであると言う意識が薄く、先進国市場向け商品に特化してきました。他方、新興国の進化により、新興国向けの商品が主流になることを予測し、日本製電化製品を新興国向けに商品化し、新興国マーケットを開拓したのが韓国です。
これら新興国を対象とした規模の大きなマーケットがインフラ基盤ビジネスです。ここでも日本は内向きの国内競争に勢力を注ぎ、新興のグローバル・エコノミーマーケットで韓国の後塵を拝しています。これらを含めてマーケット開発力の要素を下記に示しました。
  Ⅲ-1   優良既得顧客への優遇措置
企業は20%の優良顧客によって80%の収益を得ています。優良顧客を優遇する戦略が利益率向上につながります。
  Ⅲ-2   顧客・市場への理解度
これは新興国マーケットに適応できます。選別顧客のマーケットの大きさと提供できる商品のパイの大きさ、競争力でポートフォリオ・マネジメントすることが求められます。
  Ⅲ-3   顧客、競合者、自社間戦略
SWOT分析の活用が求められますが、簡単な強み弱みの比較ではなく、OWモデルの8つの軸とその要素からの視点でSWOT分析を行いますと、深みのある結果を得ることができます。
  Ⅲ-4   選択顧客のニーズ調査
顧客の選抜には採算の合うマーケット規模が求められ、次に潜在顧客のニーズを徹底的に調べることが商品開発に不可欠です。
  Ⅲ-5   ビジネス・パートナー戦略
自社の持つ経営資源だけでは、新しいマーケットの持つ潜在ニーズを満たすことができなくなっています。技術、通信の発達は、消費者の生活スタイルに新たな転換を求められています。複数企業の持つ能力を利用し、新しい生態系商品・サービスが生まれることを視野に入れた戦略が求められています。
  Ⅲ-6   ブルー・オーシャン戦略
飽和したマーケットでは競争が激しくなり、低利益または赤字事業が増えています。誰もがしない発想で、新しいマーケットを開拓するする戦略です。
  Ⅲ-7   グローバル・エコノミー戦略
先進国で斜陽化した産業も、新興国では成長産業となるグローバル・エコノミーがあります。これらは日本企業としては実績のある分野です。しかし、国内では政府が意図的に分散発注してきたため、企業の連合体で対応することになります。このためにはこれら企業をまとめるプロデューサーが必要であること、各企業がグローバル競争に勝てるための戦略的なWBSの作成と、それを最適化して実施できる体制が競争力となります。
    商品・サービス提供力:図表11.3 参照
顧客が買ってくれるものは商品かサービスですが、商品・サービスに競争力がないと売れません。競争力を付けるための戦略要素別に整理したのが図表11.3 です。
  Ⅳ-1   顧客支援機能+QCD
商品・サービスとは、顧客にとって求める機能を持ったものです。電気洗濯機を買う顧客は最低洗濯機能、すすぎ機能、脱水機能を求めます。これが最低機能です。しかし、競争者が多いと、ある程度の品質で、安いものが求められるようになり、納期が早いことも求められます。1社が実施すると他社が追従するので、競争力は「機能+QCD」が最低条件になってしまいました。

商品・サービス提供力:図表11.3
  Ⅳ-2   顧客機能+F+S
商品が普及すると顧客層が低所得層へ移行します。ここではファイナンス付き(月賦販売)が当たり前になり、更にサービスが付加された競争になります。
  Ⅳ-3   マーケット戦略型商品
マーケット戦略型とは企業はNo.1が常に有利である。No1以外は自社の市場的な地位に合わせた戦略製品を投入する。中小企業は数は少ないけれども自社しかできない製品・サービスで生き残る。中企業は大企業では量的に不足なニッチ産業で製品開発をする戦略を意味します。
  Ⅳ-4   アーキテクチャ型
アーキテクチャとは設計思想です。量産商品は量産に効果的なシステムのサブユニット化をはかることで、大量生産を容易にします。また、自社以外から安い部品類を購入することができます。アナログ時代から進化し、デジタル技術が採用されると、技術は容易に真似され、安い部品群を世界中から購入できるようになり、商品のコモディティ化(参入企業が増加し、商品の差別化が困難になり、価格競争の結果、企業が収益を上げられないほどに、価格が低下すること)がおこります。今の電気産業製品が該当し、研究開発費すら回収できません。
幸い自動車産業は「複雑なエンジン周り」、「乗り心地のよさ」、「運転性のよさ」、「安全性」をつくり上げる部品が存在しません。これらは各部品ユニット間の緻密な摺り合わせによって性能を発揮させるため容易にまねされません。そしてこの乗り心地、運転性、安全性に購入者は高い金を払うので、トヨタ、ベンツ、BMWは高い収益力を持っています。この摺り合わせ設計思想をインテグラル・アーキテクチャといいます。コモデティ商品はオープン・アーキテクチャーの商品が多いようです。しかしこれが電気自動車となると摺り合わせ技術が不要となり、電気産業と同様に、安い部品類の組み立てで商品化ができるので、アーキテクチャ的優位性生み出すことができません。
  Ⅳ-5   デザイン・ブランド型
人は機能だけで商品を買うわけではなく、他人が持っていない、或いは高くて庶民が手の出ないものを購入することでステータスを楽しむことに価値をおく人々がいます。これらの商品をブランド商品と呼びます。洋服や自動車の機能は同じでも、デザインが素晴らしいと高価になりますが、デザインのよいものを持つことでその人のセンスの良さが評価されます。
  Ⅳ-6   商品生態系型
人々が豊かになると、生活のスタイルが変わります。食べる価値や単なる機能だけでなく、遊びごころ、見せびらかす等多様化した価値観が生まれてきます。この多様化に追従した新商品を1社で開発することは困難です。生活スタイルの異なる数社が協働して、各社の持つ生活スタイルのノウハウを組み合わせてつくり上げる商品を商品生態系型といいます。今の日本はこの要求を世界一早く実現できる能力を持っています。ただ、経営者が失敗を恐れる余り、他社との協調を嫌う傾向がありますが、今後増えることは間違いないと思います。
  Ⅳ-7   顧客代行機能型
顧客代行機能とは、顧客の社内では付加価値の低い仕事を代行する機能で、代行機能を数社請け負うことで、付加価値の低い業務をより厳しい合理化や低価格処理を達成することができ収益を上げることができます。
顧客代行型ビジネスで顧客からの信頼度が高くなると、その代行業務が少しづつ広がり、顧客の中核部に侵入し、便利屋としての確固たる地位を築くことができます。

商品・サービスというものは常に社会の変化の反映であり、1日休むと決定的な敗者になる可能性が高いことを皆さん理解してください。
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