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「私たちのP2M (Project & Program Management )」とは何か、考えてみませんか
−発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (2)−

渡辺 貢成:1月号

 2. P2Mを学ぼう
2.1 発注者は構想計画から始めよう
  1) 戦略と構想
  2) P2Mの特徴
  3) ITプロジェクトのどこでP2Mが活躍するのか?
  4) 発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (1)

第10回 1月号はここから始まる
  4) 発注者が求めるプロジェクトの見える化をしよう (2)
 前回は「ミッション・プロファイリング策定図」で「現状のありのままの姿」から経営上の問題点を探す俯瞰力が必要なことを話しました。その具体的な手法を紹介します。

 4.2 俯瞰力モデル
 図10.1 ミッション・プロファイリング(使命・目的・目標を決める)における俯瞰力と洞察力の説明をします。
  i ) 上部円錐は自由視点で発散型思考の空間
図は上部円錐と下部円錐で構成されます。上部空間は自由な発想を行う空間で、ここでは2つの作業をします。一つは現状の「ありのままの姿」を俯瞰し、その中から問題を発見すること、二つ目は「ありのままの姿」の中から探し出した問題点を考慮した上で「あるべき姿」を求める活発な議論をすることです。
俯瞰力:俯瞰とは高いところから全体を落ち度なく眺めることですが、対象によって俯瞰する高さが違います。通常は企業を俯瞰するが、国レベルを対象とした俯瞰、グローバルレベルで俯瞰する視点も大切です。日本ではグローバル視点に弱い傾向にありますが、ここでは企業を俯瞰するモデルを紹介します。
  ii ) 下部円錐は収束型思考で使命・目的・目標をまとめる
洞察力:洞察とは頭脳と心の深いところで将来を見通すことです。ここでは現状の「ありのままの姿」から過去の分析で正しい問題点を捉え、未来予測を加えて使命・目的・目標を洞察します。しかし、洞察は1点に絞ることはありません。場合によっては過去のBM(ビジネス・モデル)から将来期待されるBMを集めて検討する手法もあります。
図10.1 ミッション・プロファイリングにおける俯瞰力と洞察力
図10.1 ミッション・プロファイリングにおける俯瞰力と洞察力

  iii ) 価値創出のための洞察力モデル
本洞察力モデルはPMAJの前身PMCC(PM資格認定センター)時代にプロファイリングマネジメント委員会で「企業の経営力とは何か」という視点で開発されたものです。
  iii.1 ) 開発の手順
①顧客を含む市場と企業経営の相関性を含むモデルを考える
図10.2 経営要素俯瞰図
図10.2 経営要素俯瞰図
「顧客という木」と「自社という木」があり、この間は販売という機能で関係性を保っている
自社はまた、「顧客を含む市場という林」とマーケッティングという機能で関係性を保っている
自社という木は「経営力」という頭脳で統括されている

  iii.2 ) 自社内機能を俯瞰し、ブレークダウンする
「経営力」とは価値創出力と定義した。
経営は商品・サービスを販売する機能、次世代の商品・サービスを考えるマーケッティング機能、商品・サービス提供する機能を持ち価値を創出しています。経営は他方次世代商品開発のための研究開発機能、経営資源を蓄積し再活用する機能、業務プロセスを活性化して競争力を増す機能、最後にこれら機能を確実に動かす組織という機能を有しており、これらは価値を創出する源泉力として位置づけられています。
経営力俯瞰の視点:
  0. 経営力:経営力を「価値創出力」と定義する
     :経営を長期間継続するための基本姿勢としての「企業理念」
     :企業の長期的に目標である「企業ビジョン」
     :企業競争に勝利を収める「企業戦略」
     :企画事項を確実に実行できる「統率力」
     :企業を継続的に維持できる「財務力」
  Ⅰ. 顧客関係性構築力:企業が最も重視するのか顧客関係性の確立である。
明確な顧客関係性構築力を持たずに商品開発をしても、製品が売れず失敗する。
顧客関係性構築そのものが困難で、価値の創出である。
  Ⅱ. 販売開発力:「売ること」は「つくる」ことより難しいという感覚を重視する。
近年ウェブも含めて売り方に大きな価値の創出があることを重視する
  Ⅲ. マーケット開発力:新マーケットの開発は長期的な経営力の向上になる。新しいマーケットの開発は、新しい顧客関係性をつくることであり、現在の顧客関係性維持より遥かに高度な価値創出といえる。新興国開発を実現した韓国企業は売上げを伸ばし、これを怠った日本企業は新興国で惨敗している。
  Ⅳ. 商品・サービス提供力:競争力のある商品・サービスを提供できる能力
  注: Ⅰ〜Ⅳまでの機能は競争に勝つための価値創出が求められており、従来どおりの戦略ではグローバル競争で勝利を得ることはできない。近年はIT技術(特にウェブ)、商品生態系という企業連合を含めたアプローチを大きく取り入れた展開、デジタル技術を取り入れた展開が求められ、商品開発だけが価値創出ではないことを理解する必要がある。
Ⅴ〜Ⅷまでの機能は競争力を生む価値創出のための源泉である。変化の速い現代はⅤ〜Ⅷまでの能力を増強し、早く、安く、信頼性の高いものをつくりだし、収益拡大をもたらす政策を実施したところが勝利を収めている。日本企業は何年の先送り政策で社員の意欲や組織能力が全般に低下し、グローバルでの競争力の低下が目立つ。したがってこの俯瞰図を活用して競争力回復を行いたいものである。
  Ⅴ. 研究開発力:最近は研究開発の発想が広がっている。モノつくり=技術開発の時代から進化し、インベンション(発明)、リノベーション(改善)、イノベーション(革新) から、オープンイノベーション(二社で持ち寄った技術を発展させる)、快適な生活を楽しみたいと考えるユーザーのために生活スタイルの異なる数社が集まって新しい生活スタイルを確立するような「商品生態系」が生まれている。古いスタイルだけを信奉していては時代からはみ出してしまう。
  Ⅵ. 経営資源蓄積力:経営は自社が持つ経営資源の蓄積の大きさと、それを活用できる組織能力によって企業収益は大きく変わっている。6つの経営資源を充実させる経営感覚が求められている
  Ⅶ. 業務プロセス活性化力
業務プロセスの改善は一時流行した。BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)ある。現在は業務プロセスの改善でIT化することが行われているが、OWモデルでは6つの業務プロセスの改善を提案している。モノ、カネ、情報、ナレッジ、意思決定、意識改革のプロセスの改善である。前者3つのプロセス改革は進んでいるが、ナレッジや意思決定のプロセス化は日本では希薄であり、この点でグローバル競争力に差が出ている。
  Ⅷ. 組織の市場対応力
組織は市場の変化に応じて、各社とも常に変更しているが、情報の流れのよい組織形態が求められている。その意味でグローバル社会では企業の業務の1/3をプロジェクトでおこなっている企業が増えた。また、組織IQという概念も取り入れられた。

  iii.3 ) 価値創出のための俯瞰図(OWモデル原図)
図表10.3 経営解析型俯瞰図 左図「経営解析型俯瞰図は中心円に経営力を置いた。経営力は8つの視点軸で支えられ、どの軸を疎かにしても企業競争力は低下する。ここで、経営を俯瞰します。俯瞰図の各視点軸には競争力の強さを示す競争力要素を記入します。しかし図表10.3では要素を書く込むスペースがないため、図表10.3を図表10.4曼荼羅表に転換します。
図表10.3 経営解析型俯瞰図

図10.4 原型OWモデル曼荼羅 全体俯瞰表(0/10) 図表10.4は各視点軸に6つの要素を書き込むスペースを取ることができます。これが原型OWモデル曼荼羅 全体俯瞰表(0/10)です。
この原型に必要な要素を競争力の低いものから順次ならべると図表10.5 OWモデル曼荼羅 全体俯瞰表(1/10)ができます。
図10.4 原型OWモデル曼荼羅 全体俯瞰表(0/10)

図表10.5 OWモデル曼荼羅 全体俯瞰展開表
図表10.5 OWモデル曼荼羅 全体俯瞰展開表
図表10.5曼荼羅表は中心枠に経営力を置き、周囲の枠に順次8つの視点軸を配置し、各軸には競争力の低い要素から記載しました。本来すべての視点軸についての要素を説明すべきですが、紙面の都合上、代表例として顧客関係性構築力について説明します。
図表10.6 に顧客関係性構築力の俯瞰表を示します。図表には中心枠に図表10.5の顧客関係性構築力をそのまま移行させます。そして顧客関係性構築力の6つの要素を周辺枠に配置します。

図表10.6 顧客関係性展開表
図表10.6 顧客関係性展開表
  Ⅰ. 顧客関係性構築力を具体的に次の要素に分解し提示する
顧客機能の提供
顧客は自社の業務遂行に必要な機能を購入します。例えばポンプが欲しいとします。顧客はポンプ購入の仕様をつくってRFP(プロホーザルの提出の要求)を発行します。この要求書にしたがって作られたベンダーのプロポーザルは仕様が同じであるから最後は価格競争になり、競走上の優位性を得ることはできません。例え落札しても利益は薄いか、赤字近辺となります。
顧客業務機能習熟度
提案者が顧客の業務を習熟していると他社の知らない優位な点で差別化を図れます。また、仕様書はどんなに懇切丁寧に書いても、品質の程度、顧客が求めている細部はわからない。しかし顧客業務に詳しい提案書は、これらの細部について記載してあり、顧客は安心感と信頼感を与え、評価上有利に展開できます。
海外プロジェクトで海外企業に発注する場合は通常必ず失敗します。日本人から見た品質と彼らが考える品質の内容が異なるからです。2,3回の付き合いで、初めて納得するものを納入してくれます。①と②とでは競争力の差が大きいと思いませんか。
信頼の絆
石油精製、石油ガスプラントではN社は匿名に近い形でシェル石油から受注しています。過去の実績が安定しているからです。発注者にとって手間がかからないというメリトがあります。N社は多くの社員がシェルの仕様をよく知っており、シェルは長年かけて教え込んだという関係性が出来上がっているからです。
DBD(デジタル・ビジネス・デザイン)という概念を顧客関係性の要素に加えてみました。
デジタル技術で顧客に役に立つ情報を提供しようという発想です。顧客が当社製品を購入する時の判断材料を提供します。メンテナンス情報の手順と検査基準を提供することで、顧客はメンテナンスコストを低減でき、購入時の価格低減より長期的な価値を顧客にもたらすことができます。そこで顧客は優先的に当社製品を購入するようになるという発想です。
顧客満足度向上のための調査と改善提案
顧客の信頼性を高める手法の採用です。これは米国で日本式の経営を取り入れ、顧客満足度向上で業績を上げた企業にマルコム・ボルティリッジ賞を米国大統領から授与されることで有名です。
顧客機能の代行業務
代行業務とは、特命で長期の関係性の確立といえます。

以上が顧客関係性構築力の内容です。OWモデルには、先に説明したように、その他7つの視点軸夫々に展開表があり、競争力別の要素が記されています。この要素は一つのBM(ビジネスモデル)と見なすこともできます。競争力要素を含むOWモデルは経営の宝庫です。

  iii.4 ) 図表10.5 OWモデル曼荼羅 全体俯瞰展開表(1/10)、顧客関係性構築力展開
及びその他の視点軸展開表の活用法:
さて、本題のミッション・プロファイリングの作業手順に戻ります。
あなたは全体俯瞰表の8つの視点で、グローバル競走上の自社の置かれた地位を確認することが最初の業務です。あなたは顧客A社に対し、顧客関係性構築力でどのポジションを得ているか評価します。もし、ポジションが①であれば顧客にとって優良企業になっておらず、入札の本命ではなく、その他大勢かもしれません。
対策:顧客が自社にとって大切ならば競争力順位を上げる努力が求められますが、それができなければ、限られた経営資源の中では撤退することがベターです。
同様に他の視点軸のポジションを解析し、対策を立てなければなりません。
OWモデルの利点は各要素をバランスよく活かすことで、他社との競争有利に立つことができる点です。
視点軸はⅠ〜Ⅴまでが商品の開発製作と売れる事に関する事項で、Ⅴ〜Ⅷまでが早く、安く、品質の優れたものをつくり出す潜在能力の育成に関するものです。この育成は中長期的対策で成果が直ぐ見えないため手を抜く傾向が見られます。しかし、我慢して継続的な努力をすることで5年立てば周囲が真似できない企業に成長することができます。サムスンは日本商品をベースにこれらの対策を5年間徹底した結果が今日の強さとなりました。次回はサムスンの強さを、OWモデルを使って説明します。
以上
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