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国際開発援助の現場から

PMR 粟野 晴子 [プロフィール] :2月号

 国際開発援助のコンサルティングの仕事をしているが、途上国の住民の状況を調べ、政府やNGOと共に働くことも多い現場では、現地の社会の状況や文化、人々の考え方や習慣を理解することがとても重要になる。日本の常識やルールが通じないことが多いからだ。最初にアフリカで調査をした時、こんなことがあった。協力してくれているNGOのスタッフに、何度もアポイントの確認をしていたのに、いざ出かけると様子がおかしい。彼女は全くアポイントを取っていなかったのだ。彼女の言い分は、「相手がいたらラッキー、いなくてもラッキー」。私は思わず、「いなかったらラッキーじゃない!」と叫んでしまった。通信・交通手段が発達していない地域でアポイントを取るのは簡単では無いが、彼女は「できない」とは言えなかったようだ。会議が1時間遅れで始まるのも、相手の演説?が30分続くのも、とにかく我慢。けれど、次第に、このアフリカのおおらかさが大好きになってしまった。
 いろいろなリスクが高いのも課題となる。あるアフリカの国で、地方分権化を支援するため、世界銀行やドイツなど他のドナーと一緒に、時には激しい議論を戦わせながら、共通の援助の枠組みを作る仕事をしたことがある。相手国の政府は、分権化政策に基づいてその実施計画を作成しており、ドナーに援助を要望していたからである。援助枠組みの案も作成でき、帰国して何カ月かたったころ、後任から、相手国の政府が分権化の実施計画を承認しないと決定したというニュースが来た。思わず、他のドナーと苦労した1年余りの時間を考えた。どれだけの時間、このために会議をしてきたのかと。ただ、皆、「地方分権化実施計画はすぐに政府に承認される」と言われ続け、そしてそう思いこんでいて、承認されないリスクは考えていなかったのが問題だったと、今は思う。
 現在は、フィリピン・ミンダナオの紛争影響地域で、産業振興のための調査をしている。まだ治安が不安定な地域もあり、まずは安全に調査を行うことが重要になる。現地で外出する時は、必ず警護をつける。毎週1回、現地スタッフと治安について会議を開いて、治安状況と対策を検討する。現地のコンサルタントを雇用する時も、入札プロセスの公正・透明性に注意する。プロセスが不公正だなどと苦情が来て、脅かされるような事態になるのを避けるためだ。そして、頼りになるのが、同地域で長く業務に携わって事情を良く知っている先輩の同僚や現地スタッフの存在。治安対策だけでなく、複雑な政治勢力やイスラムの文化にも注意しないといけない同地域では、政府の要人や地方自治体などへのアプローチの仕方などについても適格に助言してくれる。そして、紛争を経験しながらも、場所や事業内容を変えて新しくお菓子作りを始めた女性、生産地が減少しても仲間とココナツの生産・卸売の事業を持続している協同組合、そんなたくましいい現地の人々に励まされ、学ぶことも多い。
 プロジェクト・マネジメントでも、コミュニケーションとリスク管理は重要な要素である。現地の政治・社会・宗教や人々の考え方など文化を理解する必要性、リスクについての情報を収集し回避・軽減などの対策を検討することの大切さを身を持って感じている。それらが、業務の効率性と成果に繋がるからだ。開発援助の仕事は大変だけれど、それだけ奥が深いと、そしてP2Mが適用できる分野でもあると思う。
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