PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (4)

向後 忠明 [プロフィール] :2月号

 これまで「ゼネラルなプロ(1)、(2)、(3)」にて「プロフェショナル」、「プロフェショナルゼネラルマネージャ」、「プロジェクト & プログラムマネジメント」そして「ゼネラルなプロ」の概要について述べてきました。
 特に「ゼネラルなプロ」については、そこに求められる重要な要素としてのエンジニアリングスキルを前月号にて説明してきました。しかし、この意味が十分に理解されていない人も多いようですので今月も本件について若干ふれてみます。
 ある情報処理関係のPMに関する委員会にても、本件についての議論がありましたが、筆者の説明があまりうまくなかったせいもあり、関係者の皆さんにもあまり理解されなかったようです。
 読者諸氏の中にも理解ができなかった人もいると思います。
 筆者はもともとエンジニアリング会社出身なのでエンジニアリングと言う活動をその対価の対象としてこれまでいろいろなプロジェクトにおいて活動してきました。
 そのためエンジニアリングという言葉には当然のように慣れ親しみ使用してきました。 しかし、情報処理産業ではあまり使用されていないようです。
 情報産業の黎明期にはSE(システムエンジニア)と言う人がいて、この人がシステム開発にかかわる仕事の一切を任されていた時代もありました。
 この当時のSEはシステム開発に関する営業から管理、そして専門的な業務までこなしていたようです。
 このころの情報処理産業における仕事はそれほど複雑でなく、技術も細分化されてはいなったのでこのようなことができたのかもしれません。
 現在はその当時と全く違っています。技術も高度で細分化され、内容も複雑になっています。よって、現在では昔のSEと言われた人材だけでは処理不可能な仕事になっています。
 そこでソフト、ハード技術そして運用と言ったそれぞれの技術を総合的に組み合わせるエンジニアリングと与えられた目標(コスト、タイム、品質)を達成すると言ったプロジェクトを統合管理するプロジェクトマネジャと言う人材が情報処理産業にも必要になってきました。

 読者諸氏には「筆者がどうしてエンジニアリングにここまで固守するのか?」と疑問を持つ人もいると思います。
 その理由は産業の中でも情報産業におけるプロジェクトマネジャの仕事の専門分野と業務活動領域があまりにも細分化されているので、これから求められる多様な要求にこたえられる人材がこのままでは育たないと思っているからです。

 そこで一つの事例を筆者自身の経験話で恐縮なのですが、先にも述べたように筆者はこれまで石油化学プラントのプロジェクトを手掛けてきました。そして、ある日、突然情報系の会社に出向を命じられました。
 その会社は情報および電気通信関係を主たる業務とする会社でした。その会社で最初に与えられた仕事は電気通信関連プロジェクトでしたが、筆者にとっては技術的に未経験かつ未知の分野でした。
 電子交換器と言われても同じ言葉では熱交換機はよく知っている程度でした。その他伝送、無線、MDF,線路、需要調査などと言う技術的用語もありましたがチンプンカンプンそのものでした。
 筆者を送り込んだ会社も、そしてそれを知っていながらこのような仕事を任せた会社も無謀と言えば無謀な話です。
 筆者は、電気通信に関する技術的なことは専門家に任せ、プロジェクトの統括すなわちマネジメントは昔取った杵柄で何とでもなると思っていました。そこで、対象業務に見合った各専門家の任命を会社に要求し、その人達にそれぞれ専門技術の基礎的内容とそれぞれの関係(つながり)についていろいろ教えてもらいました。
 一方、そのほかの関連知識の吸収のため、筆者自身は「ネットワークの基本、中学生でもわかる電気通信」と言った簡易本を購入し、それを読んだり、「百聞は一見に如かず」の例にもあるように、実際の設備を見ながら技術的知識の理解を深めていきました。
 その後は各専門家に実践の場で技術的な事項は必要に応じてヒアリングし、判断や調整をしながらプロジェクトを進めて行きました。
 結果は運よく問題なく完了することができました。

 すなわち、上記で言っていることはA,B,C,D,Eと言った専門技術や知識をそれぞれ科学的原理を応用し、インテグレート(組み合わせる)することによりXと言う新しいシステムや設備を構想、設計し、運用までを技術的にまとめることをエンジニアリングと称し、そのそれぞれのプロジェクト業務に関するプロセスを効果的・効率的に統合管理することがプロジェク&プログラムトマネジメントと筆者は考えています。

 この事実からも「エンジニアリングは、他分野にわたる「人間の知恵・知識」を結集、統合し、一定の課題を達成する科学的活動である。」と言うことがわかると思います。
 もちろん、異業種のプロジェクトの実行には、一緒に仕事をする各専門家からの信頼感やそのための適切な行動をとることができることが必要です。
 それには、プロジェクトマネジメント等における高度な実践経験や知識を持たないとできるものではありません。
 今の日本は、すでに多くの専門技術を持ちながら、昔日本がたどったアメリカの「サルまね」技術で発展してきたのと同じパターンで後進国(新興国)も同じように発展してきています。よって、新技術の開発や掘り起こしと既存技術の組み合わせにより新たな事業を作り上げ、新興国に追いつかれる事の無いような、エンジニアリング&プロジェクトマネジメントのできる人材の育成が急務となっている。そして、グローバル競争にも強い企業体質となるとが必要となっています。

 さて、ここからはエンジニアリングの相棒であるマネジメント手法としてのプロジェクト & プログラムマネジメントの内容に入ります。
 まずは、「ゼネラルなプロ」の基本的な要件としてはプロジェクトマネジメントであり、さらにハイレベルなマネジメントを求めようとする人はプログラムマネジメントが必要と言えるでしょう。
 しかし、プロジェクトマネジメントも世代が進み、今ではエンジニアリング産業だけではなく情報産業、航空宇宙産業、エンタープライズマネジメント、リエンジニアリング、インフラ産業等の公共サービス、そしてグローバルなものへと進展してきています。
 いわゆる第一世代と言われるプロジェクトマネジメントの基本思想は「コスト、タイム、品質等の目標を明確にして、確実に成果物を獲得する」といったものでした。
 しかし現在は「環境変化を意識して、複雑な使命や課題に問題解決の道を開き、事業価値を向上する」と言った発想でのマネジメント手法に変化してきています。

 例えば、企業レベルではIBMの「Smarter Planet」と言った「地球上のありとあらゆる問題のソリューション」と言ったソリューションビジネスを企業理念として掲げたプログラム等もその一例でしょう。
 日本企業はどちらかと言うと「物売り」が主体でした。しかし、これからは「解決策すなわちソリューションを売る」そして「物売りにつなげる」と言ったビジネス手法をとることが重要と考えられます。
 またシステム売りもそうですが、その一例では新幹線の売り込みもそうです。新幹線と言った「物売り」と言うことではなく、運用や安全を含めたトータルシステムを相手の問題や課題を解決しながらプロジェクトを進めると言ったことも出てくるでしょう。
 一方、中小企業も単独では何もできないが、事業を取り巻く外部環境そして自分達に何ができるのかと言ったそれぞれの企業の内部環境(技術や売り)を組み合わせて新たな事業を立ち上げると言ったことも可能になります。
 これまでの日本は「技術では勝てているがビジネスで負けてしまっている」と言ったことは日本の企業にソリューションビジネスと言った発想に欠けていたことによると考えられます。
   これまで述べてきたような例を遂行することのできる方法が、上記にて示した新世代のプロジェクト & プログラムマネジメントです。そして、これらを実際に実行する人がこれまで説明してきた「ゼネラルなプロ」と言う人なのです。

 プロジェクト & プログラムマネジメントと言った用語がでてきました。このマネジメントの概要についてはすでに12月号「ゼネラルなプロ(2)」で説明してきました。
 筆者もプロジェクトマネジメントについては自慢ではありませんが、30年以上の各種プロジェクトの実践からいろいろな知識や教訓を得てきているので自信はありますが、プログラムマネジメントについてはあまり知見がありませんでした。
 そこで負けず嫌いの筆者はそれを理解するためプログラムマネジメントについて唯一発行されているPMAJの「P2M:新版」をよく読んでみました。
 その内容はすぐに実業に結び付けて利用することは難しいが、言わんとしていることはよくわかりました。
 この本は特定分野にとらわれない学生のための教科書または現在従事している分野または領域より広いところに挑戦したいという人には最適なもののようです。
 いわゆるソリューションビジネスに必要な顧客ニーズや願望の達成のための構想を含む上流領域の業務を取り入れようと挑戦を試みる人には自分の実務経験を通して適用できるところを取捨選択し、自分のガイドとしてまとめていくのも一つの方法かもしれません。
 次号からは、これからのソリューションビジネスに向けて必要と思われるプログラムマネジメントについて「P2M」の内容に従い、筆者の実践してきたプロジェクトマネジメントと対比しながらの説明を試してみます。

 続きは次月号にて
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