PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (3)

向後 忠明 [プロフィール] :1月号

 今回はプログラムマネジメントやプロジェクトマネジメントの詳細に入る前に、これまで本コーナを書くに当たって調べてきた知識から「ゼネラルなプロ」になるための基本的なスキルについて具体的な話を進めることができそうなので説明したいと思います。

「ゼネラルなプロ」の基本的要素は複眼的かつ鳥瞰的な目で対象となる事業を見ることができるマネジメントスキルと言えるでしょう。伊藤教授の言われるように、日本ではこれまで技術者の育成は専門的な技術を重視し、分野や職種ごとに細かく分類されてきていました。
 そのため、多くの企業においての技術系マネジメントは部分最適なマネジメントが主流となり、企業は豊富な技術資産を持ち、技術情報へのアクセスも容易であるにもかかわらず、全体最適として昇華されていないのが現状と思います。
 この技術的資産を有効に利用し、複眼的に対象事業を見つめ各種技術資産をまとめ、組み合わせた総合技術力が企業や事業イノベーションに求められる必要不可欠なものと筆者は考えています。
 もっと簡単に言うと、自社のコアー技術やそれ以外の技術そして人間の知恵を組み合わせて、事業に求められる使命や要求に柔軟に対応し、ソリューションを行うことのできる複合技術適用手法が必要と言うことです。すなわち、「エンジニアリング」を通しての特定使命型事業や業務の運営管理が基本となると考えています。
 「エンジニアリング」と言う用語は技術分野、事業分野によってさまざまな意味に使用されており、あまり一般的ではありません。それでも、この用語は各種企業に使われていますがほとんどの企業は意味もわからず使用しています。
 技術系の業種で横文字を使用すると何となく格好良いと思われているようですが、この用語通りの意味で仕事をする人材がいれば、例えば、中小の企業群が自社の得意技術を持ち合って新たな事業を特定のリーダの下で協同して立ち上げたりして行けば、今以上にダイナミックに発展したことでしょう。
 ここでエンジニアリングの意味を(財)エンジニアリング振興協会から引用すると以下のとおりです。

エンジニアリングは、細分化、専門化した「技術」と「知識」を一定の社会目標(の達成)に向けて結集し、新たな社会システムの構築やイノベーションに貢献する活動です

 以上から賢い読者諸氏は少なくとも「ゼネラルなプロ」にはエンジニアリングスキルと言った基本的な技術面での要素が必要となることが分かったと思います。

 数年前になりますが、この種の人材育成が急務と考え、技術経営(英語名:Management of Technology(MOT))と言う用語が使用され各大学で技術経営大学院なるものが各大学に創設されました。
 MOTの定義を見てみますと、

イノベーションの創出を目的とし、新しい技術を取り入れながら事業を行う企業・組織が、持続発展のために、技術を含めて総合的に経営管理を行い、経済的価値を創出していくための戦略・決定・実行するものである。

 このMOTの定義も「ゼネラルなプロ」に必要な考え方です。
このように見てくると、「ゼネラルなプロ」に必要なスキルはエンジニアリングスキルとマネジメントスキルの総合体のようであり、その結果がMOTの目的に合致することになります。
 ここでエンジニアリングの用語についての意味はわかっていただけたと思いますので今度はその相棒であるマネジメントについての説明をしていきたいと思います。

 マネジメントについては最近P・F・ドラッカーの「マネジメント」が有名であるが、これはどちらかと言うとビジネスマネジメントに近いものであり、「ゼネラルなプロ」には必須の知識と考えます。
 P・F・ドラッカーの「マネジメント」の内容については最近ミリオンセラーになっている高校野球の女子マネジャーがドラッカーの「マネジメント」の内容に沿って所属する野球部を勝利に持っていく経緯を示したものがあり、これを参考にすると良いでしょう。
 一方、その他のマネジメントでは読者諸氏がよくご存じのPMIのPMBOKや日本PM協会のP2Mに示される内容のマネジメントがあります。
 いずれにしても、「ゼネラルなプロ」を志向する人は、これまで述べてきたエンジニアリングスキルとマネジメントスキル双方の技術、手法等の知識の習得を実践に即して持続的に習得し、そして維持していく必要があります。

 なお、マネジメントはマネジメント手法が主体であり、これは一度基本的知識を習得すれば後は実践から得られる事例研究によりさらに難度の高い事業または業務への挑戦によって高度なマネジメント知識を会得できると思います。
 エンジニアリングスキルについては独自のコアー技術は現状維持となるが、その他の技術は事業または業務に応じて自ら知識習得をして、その技術範囲をその都度実践を通して広げていく必要があります。
 一例としてIT業界のプロジェクトマネジメントの各レベルにおいてハイレベルになるほどそれぞれ習得するスキルエリアが変遷する様子を示した下図が(独)情報処理推進機構(IPA)から出されています。

 これを見るとハイレベルになるほどパーソナルマネジメントスキルやビジネスマネジメントスキルが必要となってきているのがわかります。
 パーソナルマネジメントスキルは個人特性に関係するものが多く、これは学べるものとそうでないものがあります。本件は別途説明することにしていますのでここでは割愛します。
 この図で物足りないのはエンジニアリングスキルに関する表現イメージですが、この図はあくまでもITベンダーを対象とした熟達度とスキルレベルの関係ですのでIT関連技術都言った狭い範囲の適用技術となっています。
 真の「ゼネラルなプロ」はどのような対象業務にも対応できる技術知識を持っている必要があります。但し、決して深堀した技術ではなく、広く浅くポイントに絞った技術知識を持ち、顧客や関係者との技術的な話にも入っていけるようにしておく必要があります。よって、インダストリ適用スキルやマネジメントスキルもハイレベルになればなるほどスキル量が多くならなければなりません。

 そんなことを言ってもスーパーマンでもなければ「ゼネラルなプロ」になんかなれないよー!!と言う人もいるでしょう。
 そのような人はそこまでです。すでに「プロ」についての定義をしましたがそのような甘い考え方では顧客満足を与えるどころか仕事ももらえません。

「人間の脳と言うものは目標までしか努力しない。したがって、目標はできるだけ高くすべし」

とある脳学者は言っています。

 自分から私は「ゼネラルなプロ」と自信を持って最初から言う人はいません。「ゼネラルなプロ」には到達点はありません。常に高めの目標を持って努力しようとする気概があるかどうかでしょう。
 昨今良く言われている、内向きで、忍耐力の無い人達には 「ゼネラルなプロ」への道は閉ざされたものと思ってよいでしょう。
 筆者の仲間や先輩にも大きな失敗で意気消沈し、鬱になり華々しく活躍していた場面から消えていった人もいます。中には鬱になり会社を去った人もいます。そして、海外の医療施設の乏しい場所での役務で病気になりまともな治療を受けることができなく倒れた人もいます。戦争や暴動に巻き込まれて九死に一生で帰国した人もいます。
 筆者も顧客との契約交渉時に暴動が発生し、交渉場所の周りで火災が起こり、銃声も聞こえ交渉どころではなくなり冷静な判断もできなく、交渉に失敗し会社に大きな迷惑をかけ、プロジェクトから遠ざけられたりしました。
 このような場面や事業でも、挫けずに与えられた責務を全うできる「ゼネラルなプロ」になるためには人的側面の考慮も必要になると考えられています。すなわち、個人特性(人間の行動特性)です。
 いずれにしても、「ゼネラルなプロ」の育成には王道はないと筆者は思っています。
 自らどのような労苦も辞さず「ゼネラルなプロ」になると言った意志力がまず大事であり、また企業もこのような人材にはそれなりの処遇も必要となるでしょう。

 さて、このような高度な技術者を育成するにはどうしたらよいのでしょうか?
 企業で選ばれたいわゆるエリートと言われる人がゼネラリストとして養成する人事制度や海外派遣によるMBA習得などと言った制度が各企業にあります。しかし、筆者自身の経験からは必ずしも「ゼネラルなプロ」はこのような人から育っていったという話はあまり聞きません。
 一方、技術系大学院ではすでに述べたようにMOTなる学科を創設し、育成を行おうとしているが的外れなものとなっていてこれによる人材が世に出て活躍している話はあまり聞きません。
 このように、この種の人材の短期育成は非常に難しく、経済産業省もIPAや民間のPM関係団体と一緒になって「ゼネラルなプロ」すなわちプロジェクトマネジャの育成に力を入れて頑張っています。     次回へ続く
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