関西P2M研究会コーナー
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プロジェクトマネジメントへの想い

友久 国雄 [プロフィール] :1月号

1. 私にとってプロジェクトマネジメントとは
 この投稿を機会に、自分にとってプロジェクトマネジメントとは何か考えてみた。
 印刷・半導体・液晶製造装置メーカーでの会社人生32年経過、印刷製版機械の開発に従事し、現在は全社の技術運営を担当している。入社から10年間は開発部門での新製品を生み出した期間、次の10年間は事業部門で製品を育てバリエーションを増やした期間、それから10年は再度開発部門に戻り、新製品・新事業や将来のための技術開発を運営してきた期間を経て、現在は全社の技術運営で新製品を生み出すことや開発効率化のための施策を練っている。前半2つの期間までがプロジェクトマネジメントをフル活用した時期で、3つ目の期間以降は、プログラムマネジメントが活躍できる期間となる。
 大学での専攻がシステム工学であったため、プロジェクトマネジメントについてはいささか知識はあり、P2Mを知った時は、かつてNASAケネディ宇宙センター管制センターを見学したときと同じように旧知に知り合ったというようなインパクトがあった。 私にとってプロジェクトマネジメントとは、製品開発を実現するための必要不可欠なバイブルであると言っても過言ではない。製品開発に限らず、あらゆる目的達成を実践する人には習得しておきたい知識体系である。

2. プロジェクトマネジメントから得たこと
 製品開発はプロジェクト単位で行ってきており、振り返ると5人から50人くらいまでのプロジェクトのリーダーを平均2年間、10プロジェクト程度を経験した。勝率はそんなに悪くはないと勝手に思っている。最近、「製品開発の成功と失敗の原因は何か、事前に失敗を回避する手段は何か」と言う命題を考えてきて、思うところを以下に記す。
 まず止めたら失敗であってやめなければ成功とはいえないが、少なくともまだ失敗ではない。では止めると決めるのは、製品開発プロジェクトで言えば、「技術が達成できない」「コストが高い」「儲からない」の判断をすることである。その判断を含めた運営がプロジェクトマネジメントである。ただし、開発テーマの実態評価と止めるか進めるの判断とは異なるものであり、最終的には経営的な判断となる。失敗(止めること)の原因は、目的が達成できないこと、経過判断のミス、世間の情勢変化、組織運営の問題等々、状況に応じていくらでも理由はつけられる。その中で、失敗しないためには、「リーダーがあきらめないこと」と個人的に思っている。それがプロジェクトマネジメントを推進するリーダーの覚悟であろう。とはいえ勿論、覚悟だけではどうにもならない。成功のためには、プロジェクトマネジメントのセオリーを一生懸命駆使してあらゆる努力(これが一言では説明できないが)をしながら、結果的には「良いテーマ」と「良いメンバー」と「幸運」に恵まれたことも要因と考えている。
 MITメディアラボ副所長の石井裕教授の講演で「出る杭は打たれる。出すぎた杭は誰も打てない。」とおっしゃられていて、はっと気がついた。出すぎるプロジェクトマネジメントをすれば誰も中止にはできないのでは、それぐらいの情念が必要なのではないかと。

3. 現在の想い
 現在の仕事は、前に述べたが、全社の技術運営で新製品を生み出すことや開発効率化のための施策を企画・運営すること。70〜90年代は技術競争軸が品質、生産性、コストの追求と経済成長が連動し開発の方向性が明らかであったが、21世紀になって技術競争軸が多様化し、リーマンショック以降の社会環境の変化も大きく、新事業・新製品の創出が益々難しい状況になっている。新事業・新製品の創出とは、顧客の要望を、蓄積された技術と外部技術の融合で実現することだが、なかなか実現までにはたくさんの障壁(いわゆるダーウィンの海とか死の谷)がある。また、創出のため統合的にプログラム連携をいかに構築し進めるかが大きな課題で、それらを解決するためのプログラム統合マネジメントの実践力をもっと学ばねばならないと思っている。
 2006年から関西P2M実践事例研究会に参加させていただき、メンバーの方がたや事務局の方から、自分が考えもつかないはっとする視点でのご意見など頂き、異業種交流の大切さを実感している。同時に議論を通じて、自分自身の課題への深堀りができていないことの反省をいつも感じながら、暖かいアドバイスに感謝している。

4. 鮎釣りとプロジェクトマネジメント
 蛇足ながら、私の趣味の「鮎の友釣り」とプロジェクトマネジメントの相関について述べたい。鮎の友釣りは、生きた鮎(おとり鮎)に針を垂らして泳がせ、それを追ってくる鮎(野鮎)が針に引っ掛かったところ釣り上げるという釣法である。鮎の習性の縄張りに入ってきたものを排除しようとする動きを利用したもので、一度この釣りを経験すると魅力的な女性に虜にされたように病みつきになる釣りである。2匹のおとり鮎(メンバー)から自分(リーダー)が川を見て(マーケティング)コントロールしながら、釣り上げ元気な鮎を取り替えながら、時には釣り落としや根掛かりやおとり缶の閉め忘れで逃げてしまったり様々なトラブルで鮎を無くし、そこで次にどの鮎(メンバー)を投入するかと決断しながら、釣果を増やすのである。この釣りは「まさにプロジェクトマネジメントだ!」とある時実感した。どこから攻めるか(システムズアプローチ)、どの鮎から、どう交換していくか(リソースマネジメント)、ここは危ない(リスクマネジメント)、地元の人の情報収集(情報マネジメント)等々、こじつければすべてに当てはまる。「鮎釣りはプロジェクトマネジメントのスキルアップのために行くのだ」と言っても、釣果がなかなか伸びないので、家内からは全く信じられていない。しかし、本人は鮎釣りとPMとの相関をもっと研究して、実マネジメントに役立てたいと本気である。
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