PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(34)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :1月号

エンタテイメント論

第1部 エンタテイメント論の概要

15 TV放送とTV放送産業の実態
●明けましておめでとうございます。
 日頃、エンタテイメント論をお読み頂き、ありがとうございます。年頭にあたり、本項の部分のみ敬語を使わさせて頂きます。

 本論は、プロジェクト・マネジメント(PM)の分野では異色の連載内容です。しかしエンタテイメント事業を推進するにはPMが極めて重要な働きをすると確信しています。そのコトを同分野の事業関係者がもっと理解して欲しいと願っています。

 さて「エンタテイメント論の概要」として毎月、様々な分野のコトを取り上げ、その実態を解説して参りました。今後、取り上げるべきコトがまだまだございます。つきましては、今しばらくお付き合い下さい。その後、「エンタテイメントの本質」の章を起こし、更なる解説を加えてゆこうと考えております。それらに関して忌憚の無いご意見や要望をお待ちしております。宜しくお願い申し上げます。

●PC番組を提供する「You Tube」
 日本の多くの人は、依然として日本のTV番組を見ている。しかし最近、その視聴姿勢に明らかな変化が起こっている。特に多くの若者は、「TV番組」よりも、「PC番組」を好んで見ている。PC番組とは、PCのインターネットで得られる情報番組を取りあえず仮称したものである。
You Tube
出典 YouTube - 日本の尖閣 海上保安庁
出典 YouTube - 日本の尖閣 海上保安庁

 その代表格がYou Tubeである。これは本来「違法」に情報を提供しているメディアである。しかし先日の「尖閣諸島沖の中国船衝突映像」は、このYou Tubeを通じて放映され、初めてその実態が国民の目に触れた。本来ならばTV番組、新聞などの合法メディアで放送されてもおかしくない内容である。

 PCを使わない中高年は、「You Tube」の存在を知ってさぞ驚いたであろう。本稿の読者でその存在を知らない人はいないだろう。しかしYou Tubeを毎日利用している中高年はそれほど多くないだろう。今回の尖閣諸島沖の中国船衝突映像が流され、一気にYou Tubeの利用が広まるだろう。

●You Tubeが提供する音楽レッスン
 筆者は、既述の通り、ジャズピアノを弾き、ジャズのライブハウスで「箱出演」している。またジャズピアノを弾きたい、習いたいという方々にレッスンしている。その生徒達に「役立てて欲しい」と紹介しているのが、以下に掲載したYou Tubeが提供する「ジャズピアノのレッスン情報」である。

 勿論、彼らにYou Tubeは「違法」なメディアであることを告げている。しかしYou Tubeに積極的に情報を流す情報提供者が数多く存在するので、それを一概に「違法メディア」とは決め付けられない。このレッスン情報は、提供者が最初から意図して情報を提供しているモノであると思われる。

 さて本稿の読者でジャズのコトを知らない人でも「オスカー・ピーターソン」や「マッコイ・タイナー」の名前を一度は聞いたことがあるだろう。この巨匠のピアニストの演奏をYou Tubeの動画でつぶさに見ることができる。高性能ヘッドフォンをPCに繋いで聴くと臨場感のある素晴らしい音声をあたかも会場にいるが如く聞くことができる。当該演奏者の表情、額の汗、熱狂した会場の聴衆の息吹まで感じることができる。

 この演奏を視聴すれば、誰でもジャズの凄身と面白さを知り、自分も弾きたくなるだろう。You Tubeは、ジャズ音楽に限らず、クラシック音楽でも、ロック音楽でも何でも提供している。そして世界中の「エンタテイメント」の現場を「映像+音声」で無料で豊富に提供している。

 さて上段の鍵盤と指と楽譜の写真を見て欲しい。これは、静止画ではない。動画である。しかもこの動をキーボード操作で一時休止できるという便利な機能が付いている。上段の演奏者は、下段の演奏者とは別者である。

 上段の演奏者は、「不思議な国のアリス」をどの様に弾くかをリアル・タイムで示し、弾いた指がどの鍵盤を押したか、それが楽譜のどのお玉杓子に相当するかを同時に示している。また「枯れ葉」をマッコイタイナー・スタイルでどの様に演奏するかも示している。

 米国の音楽インストラクターは、この様な素晴らしい「楽器演奏教育ツール」を自ら開発し、惜しげも無く、無料で放映している。日本には「ヤマハ音楽教室」、「カワイ音楽教室」などを代表として、数多くの「ジャズ音楽教室」が存在する。またTV局も数多くの「ジャズ教育プログラム」を放映している。しかしそれらが束になってもYou Tubeの流す「ジャズ音楽教育番組」には勝てないのではないか。何故ならYou Tubeが提供する情報の「質」と「量」が圧倒的であるからだ。

 上記のジャズ・レッスンが対象とした曲を、本物のジャズ演奏家が演奏するコンテンツをYou Tubeで視聴することが可能である。その結果、教育内容と演奏実態を同時に比較できる。この効果は大きい。しかしこの演奏コンテンツの情報提供は違法である。しかし当該演奏家又はその関係者は、当該動画を抹消せず、放置している。その結果、事実上合法な情報提供になっている。彼らは、それをPR画面として扱っているのではないか。

●You Tubeが引き起こす問題
 You Tubeは、古い映画ばかりではなく、比較新しい映画も提供している。日本特有のビデオ(CD)・レンタルショップ事業は、You Tubeの利用者が増えるに従って劇的な影響を受けている。旧作映画ビデオ(CD)を借りる必要が減ったからである。映画ばかりではない。NHK大河ドラマ、例えば「篤姫」は、米国のインターネットの中を探れば、You Tubeでなくても、全巻を簡単に見ることができる。

 You Tubeは、違法なメディアである。ソフト制作者にとっては極めて困った存在である。しかし既述の通り、You Tubeを通じて情報提供することを承知の上で実行している場合は違法にならない。違法、合法を問わず、You Tube愛好家や視聴者にとっては、You Tubeほど有り難い存在はない。

 しかしYou Tubeがもたらす問題がある。それは、偽物の情報が混入していることである。その提供情報を信じて実行すると深刻な問題となることがある。要注意である。またYou Tubeを視聴することで海外の強力・悪質なコンピューター・ウイルスに感染することもある。万全の事前措置を期すべきである。しかし世界中の映像をYou Tubeを通じて一瞬にして見られる魅力には抗しがたい。「フグは食べたし、毒は恐し」である。

●日本のTV放送事業の危機
 You Tubeで流れる情報を上記のたった2例を紹介しただけでも、日本の民間TV局、番組制作会社など放送関係事業者にとってYou Tubeが脅威の存在であることが分かるだろう。

 この様な世界的潮流の中で「日本のTV放送事業は、如何にあるべきか」を政治家、官僚、学者、事業者、視聴者代表などが何度も議論してきた。しかし議論の割には、日々の放送の実態は、あまり変わっていない。世界的潮流に乗ったTV放送も出現していない。実態は、前進するどころか、後退している様に思える。特に民間TV局の番組制作力、下請け企業の番組創造力は、ますます低下している。そして安直、低予算、俗悪な番組ばかりが放送され、エンタテイナーのカケラもない最低のお笑芸人が多くの番組に出演している。

 更に酷いことは、TVショッピング番組である。その内容自体は普通であるが、国から放送権の許可を得た某TV放送局は、ニュースなど流さず、ただひたすら一日中「TVショッピング番組」のみを放送している。これは、まさに放送権の乱用どころか、「金儲け」の道具に電波を悪用している。この様なことは絶対に許されないことでる。しかし上記の議論をした有識者は、誰一人そのことを指摘していない。

 本稿の掲載の目的から外れるため、筆者は、某TV放送局とはどのTV局であるかは開示しない。しかしその放送局がどこのことを指して批判しているかは、本稿の読者なら分かるであろう。日本のTV放送事業者が放送番組の「質」の低下を今のまま、放置すると取り返しのつかない事態になるだろう。
つづく
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