例会部会
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「第143回例会」報告

PMAJ例会部会 生越 直人 [プロフィール] :12月号

【データ】
 開催日時:2010年10月22日(金) 19:00〜20:30
 テーマ:「カジノができる?(制度設計の現状と実現への課題)」
     〜動き出す超巨大複合観光施設プロジェクトを可能にする制度〜
 講師:三井物産戦略研究所PE室長、大阪商業大学アミューズメント産業研究所長
     美原 融(みはら とおる)氏

 今回の例会では、「カジノができる?」について、美原先生よりご講演を頂きましたので、概要をご紹介致します。

1. はじめに
 国土交通省は、2010年新成長戦略の中でMICE施設の実現を新たな戦略として位置づけ、その中核施設の1つとしてカジノをも検討の対象にすることを明言しました。カジノを含む巨大複合観光施設は、諸外国における1つの趨勢になっており、2010年春にシンガポールで2つの施設が胎動し、その成功が注目を浴びています。
 本例会では、「如何なる制度が考えられているのか?」「如何なるプロジェクトが何処に生まれるのか?」「カジノ実現に向けての課題は何か?」についてご講演頂きました。

2. 概要
2.1 如何なる制度が考えられているのか?
 「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」(平成22年9月10日閣議決定)の中で、今後行政刷新会議規則・制度改革に関する分科会において引き続き検討する事項として「民間事業者によるカジノ運営の解禁」が挙がっています。

 現代的なカジノは単純な賭け事施設ではなく、多様な複合的な楽しみを提供し、集客力を保持する高規格遊興施設、都市や地方の観光地における重要な観光資源となります。
 そこで、①国際競争力の高い魅力ある観光地の形成による地域の活性化、②内外環境旅客の来訪滞在推進という観光振興施策が必要です。

 しかし、以下のような制度設計の難しさもあるため、単純に認めれば良いという議論ではなく、慎重な制度設計が求められています。
慎重な議論:刑法上の罰則規定の例外
難しさ:誰もが自由に、何処にでも設置できる事業とはしない
過去存在しない仕組み:秩序を維持し、公正さ、健全さを保持する
複雑さ:多様な利害関係者、多様な現行制度、複数の省庁等様々な調整ワークの必要性

2.2 如何なるプロジェクトが何処に生まれるのか?
 日本では、超党派議員連盟から「一定の規制の下で健全化、安全化が図られれば、賭博行為は成人個人が為す娯楽」「カジノをホテル、会議場、ショッピングモール、様々なエンターテイメント施設等が併存する複合観光施設の核施設として位置づける」「上記を実現するため、特別立法措置により新たな賭博制度としてカジノを認める(但し、公的管理の下に民設民営を基本とし、設置数、設置場所を制限する。施設整備に税金は投入しない)」と主張されています。

 そこで、カジノ設立プロジェクトでは、以下の項目への対応が必要になります。
区域指定、民による施行
国が自治体(地域)を指定して、自治体が民を選定して、国が民間主体と契約を認証するという新しい考え方
健全性・安全性の担保
通常の産業と大きく異なり、賭博行為の健全性・安全性・公平性を担保して、不正やいかさまを根絶した良好かつ健全な地域環境を確保することが必要
青少年への影響を遮断
「施設要件としての物理的隔離」「入場者全員の本人確認を要求する」「過度のPR等の抑制」について考慮が必要
社会的弱者の救済
依存症患者(社会的弱者)対策を制度の中に設け、積極的な対応を設置する
国の規制機関を創る(新たな国の機関を設ける)
特定の行政機関に権限を集中させない政策を担う大臣と、カジノ管理機構を所管する大臣の権限を峻別する
国、自治体のメリット
国民にとってわかりやすい収益の使途を考えるべき(国:年金会計への充当、地方:自らの選択)

2.3 カジノ実現に向けての課題は何か?
 超党派議員連盟で制度設計が行われているため、[強み]と[弱み]が存在します。
 [強み]
政権交代後党派を超えた初めての政策実現のための組織
 [弱み]
民主党内の合意形成が必要
政治主導・脱官僚依存(官僚機構との詰めも必要)
軸がぶれるリスク(どう意見や論点を集約できるかが鍵)

 そして、法案の上程・可決のためには「国民の理解と支持」「政治的なイニシアチブ」「行政府の協力と支援」が必要です。

2.4 結論
適切な制度、規制があれば、カジノは健全かつ安全な娯楽。かつ地域振興・観光振興の強力なツールの1つとなる。
カジノは必ず実現する。但し、まだ様々な検討と時間が必要。
地域社会でカジノ実現を考慮する場合は、県・市町村を交えて、観光政策のあり方を押さえ、いまある姿とあるべき姿を考え、段階的に地域レベルにおける議論を深めるべき。
カジノは1つの政策的選択肢。まずカジノありきではない。その経済効果や社会的影響を地域として考えることは有用。

3. まとめ
 「カジノ運営の解禁」と言っても、民間事業者に単純に解禁するだけでは難しいことが理解できました。民間事業者が何でもありで進めるのではなく、国や自治体も含めた様々なプロジェクトを立ち上げ、全体をプログラムとして管理することが大切であると感じました。
 日本の制度設計という普段聞くことができない内容を、わかりやすく、かつ楽しく講演して頂き、大変有意義な例会でした。
 受講された方のアンケートでも、ほぼ全ての方が満足以上の回答でしたし、「今年、一番良かった」「すばらしいプレゼンでした」といったコメントを頂きました。

 例会では、これからも有益かつ時機を得たPMビジョン・戦略、PM手法、PM実践事例などの話題提供ならびに会員交流の機会を設定致します。

企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、イベント、展示会・見本市(Event/Exhibition)の頭文字のこと。多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称。(国土交通省官公庁のホームページより)
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