「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜Yes, and…の力〜
「本日のセミナーは、5月のASTD(米国で開催された人材育成に関するグローバルなカンファレンス)で、ダグのセミナーを井上さんと二人で聴いて、心を動かされたことからスタートしました。1カ月程前に、ダグから日本での開催の打診を受け、二人で検討したのですが、短期間での人数集めに苦戦が予想されたことなどから、一度は諦めようと思いました。しかし、ストーリーテリングを日本に紹介したいという気持ちが捨てきれず、再び取り組んだ結果、支援してくれる人達か現れ、無事実現することができました。強く想って行動すれば、想いは実現するのです」
主催者の二宮氏のこのスピーチとともに、米国在住のダグ・スティーブンソン氏を講師に招いたストーリーテリングのセミナーは終了した。関係者を含め、総勢40名弱が青山にあるマッキャンエリクソンのオフィスで、4時間を共有した。私も、二宮氏の話を聞きながら、慌ただしかった1カ月間を思い出していた。5月のASTDでダグと名刺交換をした際、確かに言った。「ダグさん、息子を訪ねて韓国に来ることがあったら、日本に寄れるといいですね」でも、その時は、「夢」でしかなかった。彼から連絡が来ることは予期していなかった。しかし、10月中旬にメールは届いた。二宮氏と相談の上、ダグと、彼の奥さんでありビジネスパートナーでもあるデボラが希望した一社による招聘ではなく、「公開セミナー」を検討することになり、彼らも承諾した。
「このプロジェクトをやるか?」と問われたら、No!と答えるべきだったかもしれない。実際、私からは一度、二宮氏に「もうやめませんか?」とメールを打った。実現を阻む障害はいくつもあった。1カ月という短い準備期間、日本でのダグの知名度の低さに伴う集客の困難さ、費用を回収できないかもしれないというリスク、会場の確保、通訳の問題、、、。でも、二宮氏は、Yes, and…という道を最終的に選択した。ストーリーテリングを日本に紹介したい。だから、赤字でもいいからやってみよう!という「熱い想い」を胸に。そして、この障害が多かったプロジェクトを成功させた、
いろんなことが上手く回り出した。デボラからは、Let's be creative! (実現させるために何ができるか、一緒に検討してみましょう!)と、1日の講座を半日にすることで費用を抑えるという提案が届いた。通訳も、ダグの師弟であるウイリアムリード氏が無償でやります、とオファーしてくれた。また、「セミナーをやることになったら、必ず協力します」と半年前に二宮氏に語ったマッキャンエリクソンの永崎氏が、その言葉通りに、会場の提供を申し出てくれ、集客やビデオの手配、当日の場の設営まで、大いに尽力してくれた。
プロジェクトが始まるまでは、ほとんど接点が無かったダグ夫妻、二宮氏、私、永崎氏、そして、ウイリアム。ダグ夫妻は名刺を見てコンタクトしてきただけで、大勢の聴衆の中にいた二宮氏と私のことは記憶していなかったし、二宮氏と私もASTDで初めて会い、少し話をしただけの関係にすぎなかった。プロジェクトを通じて、二宮氏とはface-to-face、スカイプ・電話・メールで頻繁に連絡を取り合い、ダグ夫妻ともスカイプを使ったカンファレンスコールをした。ダグ夫妻との再会は握手で行われたけれど、別れは、米国流に抱き合ってなされた。日々いろんな人に会うが、後で顔も思い出せない、わずかな接点だけで終わってしまうことが多い。そんな中で、目標の実現に向けて協働した今回のメンバーとの関係性は深い。
得難い経験をした1カ月だった。職場やそれ以外にいろんなことが起き、私自身も大変だったし、かなりの負担を二宮氏にかけてしまうことになったけれど、その申し訳なさを補って余りあるほどのものだった。志を共にする人たちとの出会い。スカイプを使ったカンファレンスコールの体験。ダグのストーリーテリングの手法を日本に紹介できたという達成感。参加してもらった知人たちの「良かったよ」という言葉。ダグと打ち合わせをし、準備をし、講義を聞く過程を通じて、深めることができたストーリーテリングに対する理解。「聴いている人の心をつかむことができたら、あなた自身がパワフルになる」というダグの言葉に背中を押され、恥ずかしかったけれど、セミナーの中で、皆の前でストーリーテリングをした体験。この先も、ストーリーテリングを柱に面白い動きを起こすことができるかもしれないという予感。そして、何よりも、Yes, and…の力を目の当たりにできたことで得た、「何かが自分もできそう」と思える効力感。
“Safe is a dangerous place to be.” 「安全地帯にいることは危険なこと」ダグの好きな言葉だ。そう、何かを得ようと思ったら、自分が安全だと思う領域から、出てみないといけない。不安でも、Yes, and…。この気持ちを忘れないで行動したい。そうすれば、これからもきっと、面白い経験ができるに違いないから。
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