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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜精神力〜

井上 多恵子 [プロフィール] :11月号

 先日ある研修会社の方から面白い話を聞いた。「壁面をよじ登るような研修をすると、最後まで壁面にしがみつくのは、上層部の人が多い」のだと言う。もう体力の限界だと思っても、気力でしがみつくような精神力を上層部の人がより持っているということらしい。確かに、ある一定の役職までは、「仕事のスキル」と言われるものがあればいける。しかし、組織のピラミッド構造を上がり上の役職に就くためには、「スキル」に加えて、「人間関係構築力」や「世渡り術」、そして「精神力」といったものが必要だ。
 日本人はこの「精神力」が弱いと語っていたのが、先日幸運なことに直接お話しをお伺いすることができた国際経験が豊富な寺澤芳男氏だ。寺澤氏は米国野村証券社長や経済企画庁長官等を歴任された方で、現在は豪州に住んでおられる。実際、外国人と比較した際の日本人の弱さの話しを最近よく耳にする。7月に行ったフランスの大学院にも、中国人はいたが、外国人と切磋琢磨して学ぼうという日本人はいなかった。また、先の壁面をよじ登る研修でも、以前中国人の方が参加された際、壁にしがみついていた時間が日本人より長かったという。富士フィルムホールディングス社長の古森重隆氏も、日本経済新聞のインタビューに答えて次のように述べている。(10月18日インタビュー領空侵犯)「互いにしのぎを削る環境を整えて、精神力の強い人間を育てなかったら、日本の将来はないと断言できます。」最新号のAERA Englishでも、韓国人のTOEICの点数が日本人より高い理由として、グローバル社会で何とか生き抜いていかねばならないという気持ちと、韓国での厳しい競争の存在を挙げていた。
 武士道のルーツもあり、元来日本人は強い精神を持った国民だったのではないだろうかと思う。しかし、経済的に豊かになった時点で、「守り」に入ったのだろう。で、この文章を書いている私自身はどうかと問われると、精神が弱い、と言わざるを得ない。打たれ弱くて、すぐ気が滅入る。誰に何を言われようと、自分を信じてやり抜く力に欠ける。「まあ、いいか、これぐらいで」と、どこかで思い、「しがみつく」のをやめている。自分を守ろうとする意識が働いているのかもしれない。「まあ、いいか、これぐらいで」と思っていると、実際気持ちは楽だ。しかし、そんな毎日を積み重ねてきた結果、あっという間に年齢を重ねてきてしまった。「あの時もっと諦めずに頑張っていたら、もっとできていたかも、、」と思うことが多々ある。前向きな学生や若手社員を見ると、自分が恥ずかしくなる。
 週末にヨガをやると、「丹田に力を込めて集中力を高め、強い心を養いましょう」などと言われる。「大地を踏みしめてしっかり立つ」この基本が、なかなかできない。軸がしっかり定まらず、ふらふらしている。微動だにしないインストラクターを見ると、ため息が出る。
 同じ兄弟でも、私の姉は強い「精神力」を持っている。父の仕事の関係でアメリカに住んでいた家族が帰国した後も一人大学に残り、その後も熾烈な競争を潜り抜け、優秀な成績でMBAを取った。当時はアメリカのビジネススクールには日本人がごくわずかしかおらず、大変な日々だったらしい。ストレスですっかり太ってしまったぐらいだ。その後もアメリカと英国の証券会社で激務を経験し、上層部に上がった。今は3人の子育てをしている。10月に家族を連れて来日したが、相変わらず気力があった。風邪をひいて咳をしているにもかかわらず、朝は誰よりも早く起きて動き回り、家族の世話をしていた。少し頭痛がするからと言って、布団にくるまってだらだらしていた私とは全然違う。「病は気から」と言うが、私の場合は「気」の部分で既に負けている。
 「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」という偉そうなタイトルでこのコーナーを書き、海外の人と接する機会もある私自身が、まず「精神力」を強めるべきなのだろう。日本人は「精神力」が弱いと第三者的に語るのではなく。「精神力」が強いにこしたことはない。アメリカの中間選挙でeBayの元CEOメグ・ホイットマン氏が「この選挙を通じて私は嘘つきをはじめ、いろんな名前で批判されてきた。しかし、私は自分がどんな人であるかを知っている。」といったようなことをインタビューで語っていた。強い女性だ。彼女のお母さんが、「何もやらないコストより、何かをやって失敗するコストの方が大きい。何かをやらないといけない」と教えたという。スティーブ・ジョブスも有名なスピーチで言っている。Stay hungry. Stay foolish.( ハングリーであれ。馬鹿であれ。)ちょっぴりでもいいから、彼らに近づきたい。読者の皆さんの中で、「精神力」を強めるためのいい方法を知っている方がいたら、ぜひ教えて欲しい。
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