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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜日本の良さに目を向け、活かす力〜

井上 多恵子 [プロフィール] :10月号

 先月、東北大学 高度技術経営塾で「国際時代の異文化対応マネジメント」と題した講義を行った。その中で、グローバルに通用するDr.に必要なこととして、「自分の意見・考えを持って、明確にわかりやすく伝える」ことの大事さを力説した。講義が終わった後、ある受講生がこんな質問をぶつけてきた。「低コンテキスト文化の特徴に合わせようとしすぎると、日本の良さを活かせなくなってしまうのではないでしょうか」と。
 彼の指摘には、一理あった。講義の中で、「他国との比較」や「外国の方から質問された時」の対応という観点から「自国を知る」ことの必要性は伝えた。しかし、日本の良さに目を向け、それらを積極的に活かしていくという視点は弱かった。答えを探そうとする中で、日本に対して自信が持てなくなっている自分に気付かされた。日本の政治にがっかりさせられることが多かったし、先月号で書いたように、「脱日入亜」が進む中で日本はこの先どうなってしまうのだろう、という不安感も抱いていた。
 でも、ちゃんと見ようとさえすれば、そんな不安感を払拭払してくれるニュースや出来事も見えてくる。例えば、日本の「ものづくり力」。「製造物の付加価値」「流通支配力」「製造業の生産工程の先進性」「顧客重視」などが1位を占め、日本の全体的な世界競争力は2010年度、前年より2つ上がって6位になったという。(9月9日付日経新聞)技術力の高さも、はやぶさの帰還が証明した。先日見たテレビの番組は、人類初の惑星往復飛行を可能にしたイオンエンジンは、日本にしかない技術であり、また、トラブルを想定し代替案を考えていた用意周到さが成功要因だったと紹介していた。
 今月、世界が注目するスマートシティ(世界中の都市を環境 配慮型に作り直すという壮大な事業)実証実験のプロジェクト責任者が、東京に一堂に集まる。これも、日本企業への期待があるからだと主催者の日経BP社は書いている。デリーとムンバイの間に貨物専用鉄道・道路を敷設し、これに沿って工業団地や発電所などのインフラを整備するプロジェクトは、日本サイドから持ちかけた日印共同のプロジェクトらしい。
 「PMシンポ2010」でも、「日本のPMは世界の最先端」という強いメッセージを田中理事長からいただいた。この講演のタイトルは「がんばれ日本発メタPM体系」という応援調だが、サブタイトルは「日本の強みメタPMモデルで世界に貢献」という力強いものだ。新経済成長戦略を進めるにあたり日本が国をあげて競争力強化に乗り出した背景を受け、日本発メタPM体系に対する田中理事長の自信のほどが窺える。田中理事長は、プロジェクトマネジメントの分野で①プロジェクトを最後まで遂行しようとする責任感 ②関わっているプロジェクトに対する誇り ③お客様の要望に対応できる柔軟性と器用さ、そして ④複数の組織を率いる統合力 という強みを日本人が持っていると説明された。
 確かに職場でも、遅くまで頑張って仕事をやりきる人は少なくない。混沌とした状態でも何とか上手く仕事をまわしている。家に帰ってテレビでも見ていたらすぐうたた寝する私でも、やらなければならないことがあると、夜遅くまで集中力を保って仕事をしている。和を大事にする集団主義の考えがベースにあるからか、成果主義の導入で弱まってきているとは言え、チームで協力しながら物事を進めていく姿勢も残っている。1980年代に米国の証券会社に勤務していた知人が「職場は戦場。まわりは敵」と言っていたのと違い、職場には、周りの人を気遣う雰囲気がある。
 身近なところにも良さはある。昔と比べて物騒になったとは言え、普段生活している際に盗難や身の危険を感じることは少ない。道は綺麗だし、行き交う人もちゃんとした身なりをしている。たまに礼儀の悪い人はいるが、全体的には礼儀正しい国民だ。電車に乗る際にも、きちんと列を作って待っている。都心では交通の便は極めていいし、人身事故等を除けば極めて時間に正確に運航している。雑誌Newsweekが最近掲載した「世界で住みやすい国」ランキングでも、日本は医療面などで上位に入っていた。若いころ外国に住んでも、年を取ってからは日本に住みたい、という人も多い。
 グローバル社会で日本の存在感を示すためにも、日本の良さに目を向け、活かす力が求められる。
今月イギリス人と結婚した姉の家族が来日し、国内を2週間かけてまわる。姪二人は高校生と中学生。甥は高校生だ。久しぶりの日本は、彼らの目にはどのように映るのだろうか。彼らが日本の何を強みとして捉えるのか、違う視点での感想を聞き、改めて日本の良さについて私も考えてみたい。
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