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「リスクマネジメント・ツールボックス (3)」

河合 一夫 [プロフィール] URL: こちら  Email: こちら :12月号

 先回、リスクマネジメントにおいて物事の関係性を分析することが重要であり、ツールはそれを支援することを述べた。そこで本稿では、その関係性を分析することに関して、少し私見を述べてみたい。
 何故、このようなことを考えるのか。よくチェックリストでリスクのチェックを行うという話を聞く。そこには、過去の失敗経験から導かれた質問が記述されているはずである。ただ、作業のチェックリストとリスクマネジメントで利用するチェックリストは、質問の仕方が違う。作業のチェックリストは、出来たか or 出来ていないかを答える質問だけでいいが、リスクマネジメントで利用するチェックリストはそうではない。例えば、顧客要求が不明確であったことから、要求されたものと違ったものを受け入れ時に指摘されやり直しが発生した事を考える。作業上のチェックリストであれば、「顧客の要求を顧客とともに確認したか」といったチェックで良いかも知れない。しかし、リスクマネジメントのチェックリストは、それでは意味がない。それは、リスクには原因があるためで、原因が存在するか、原因によって何が起きるのかを質問事項としなければチェックリストとして意味がないからである。そのような点において、物事の関係性(因果関係など)を理解しておくことは、リスクマネジメントを実施する上において,またツールを利用する際にも必要なことだと考える。
 次に示す図は、プロジェクトが様々な要素や事象を含んだものであることを示している。リスクマネジメントを実施する際には、プロジェクトに関係する事象や要素の関係を分析し、不確実性を評価することが必要とされる。図に示されている分析されていない部分が多ければプロジェクトにとって問題となるリスクを見逃す可能性が高くなる。

 そこで関係性を再考する。私たちは物事の分析時に関係性を意識的に利用せず、いわゆる常識という知識を持って対処している。しかし、物事の関係性をきちんと理解しようとすると意外と難しく、自分が関係性に関して無知であったことを知らされる。ここで、関係性の種類を少し考えてみると、さまざまな分類があることを知る[1][2][3]。次に、関係性の分類の一部を示す。

■関係の種類[1]
・構造的関係:全体-部分関係、集合関係、大小関係、前後関係など
・機能的関係:目的-手段関係、因果関係、相互作用など

■概念の相互間の関係性[2]
・論理的な関係性:ANDやORなどの集合論的関係
・存在論的な関係性:全体-部分の関係、順序関係、材料-生成物の関係など
・影響の関係性:因果関係、継承関係、系統関係など
・特徴の関係性:同一特徴関係、配置関係など

 私たちは、ものごとを図示する際、矢印でつないで理解をする。本稿にも、そのような図がある。矢印が関係性を示しているのであるが、実際には意識しないで使っている。また、図を見る方も凡例を示さなくても図の意味を理解してもらえると思う。図の意味を矢印や線が暗黙的に示している。これは、私たちの常識によるところが大きいと思う。あるいは共有している知識の量であるかもしれない。しかし、時にはこのことが誤解を生む。関係性の分析に関しては、リスクマネジメントのみならずプロジェクトマネジメントを実施する際に必要となる。従って、もう少し深く考察をしたいが、このシリーズはツールの解説をすることが目的であるので、この辺りで終わりにしておく。とにかくリスクマネジメントは、プロジェクトや業務における「ものごと」の関係性のパターンを見つけ、影響を及ぼす事象の原因に対して対策を講じるマネジメントである。それを実行するために様々なツールが提案されている。しかし、ツールを使う人や組織に関係性を分析する思考技術がなければツールを有効に利用することはできないということは言えると思う。
 今回は、リスクマネジメントを実施する上での関係性の分析に関して私論を述べた。次回は、普段よく利用するブレーンストーミングをリスクマネジメントで利用する際に気を付けることなどを述べたいと思う。

参考文献
[1] 斉藤孝,意味論からの情報システム,中央大学出版部,2006
[2] 江川びん成,研究方略ガイドブック,ナカニシヤ出版,2002
[3] 吉田正孝,分類学からの出発,中央公論社,1993
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