投稿コーナー
先号   次号

「リスクマネジメント・ツールボックス (4)」

河合 一夫 [プロフィール] URL: こちら  Email: こちら :1月号

 今回は、ブレーンストーミングをリスクマネジメントで利用する際の留意点について考えてみたい。ブレーンストーミングは、よく知られたツールで業務やプロジェクトで最も利用されているツールの一つである。よく「ブレストしよう」という言葉を使うのではないかと思う。このツールは、参加者の自由な発想により多数のアイデアを集めるためのものであり、最初に大量のアイデアを収集するために利用される。リスクマネジメントのリスク特定プロセスにおいて、このツールをどのように利用すればよいのか、本稿ではこの点について考えてみたい。

 ブレーンストーミングは、1953年 A・オズボーンにより発明された発散的思考方法である。「膨大なアイデアを出すことにより特定の問題に対する解決策を見つけるための集団の活動」として定義をされている[1][2]
 この思考法は、次に示す発散的思考の基本的なルールを適用する。1)アイデアを評価しない、2)量を増す努力をする、3)普通でないアイデアを探す、4)他人の意見を利用する、というものである。筆者がセミナーでチームごとにブレーンストーミングを行うとアイデアの量に2倍程度の差がでることがある。チームによって工夫の仕方が違うのである。大別すると次の3つの方法を採っている。1)手当り次第に意見を出す、2)順番に意見を言う(ラウンドロビン方式)、3)アイデアを書き留める時間を作る、ブレーンライティングを実施する場合もある。これは[3]でも紹介されている方法である。実際のセッションでは、最初に問題を定義し、時間は15分〜1時間(連続で1時間行うのは少し長い)、参加者は3人〜20人程度で実施する[4]
 ここで、リスクマネジメントにブレーンストーミングを適用する場合を考えてみる。リスクマネジメントで重要なのは網羅性である。即ち、リスクの特定、特定したリスクへの対処を考える場合に大きな漏れがあってはまずい。ブレーンストーミングで「漏れなく」アイデアを抽出するというのは考えている以上に難しい。なぜなら、量に拘ることで思考を発散させる方向が固定されてしまう可能性があるからである。また、単純にブレーンストーミングを実施してしまうと偏ったアイデアばかりになってしまう可能性もある。多くのアイデアを様々な視点から出すことは何も手を打たなければ難しい。
 このことを解決する一つの方法としては、最初の問題定義の部分で、その問題に応じた発散の指向性を定め、その指向性を移動させながらブレーンストーミングを行うという方法がある。リスク特定で利用されるツールには、RBS(Risk Breakdown Structure)やリスク区分といったものがある。それらを利用することで発散の指向性を定め、それをずらしながらリスクの特定を行ってはどうだろう。
 例えば、次に示すようなRBSがあったとする。最初は「技術」に関して、ブレーンストーミングを実施し、次に「外部」に関して行う。このように行うことで大きな漏れをなくすことができる。アイデアや意見を出す際に「触媒」になるものがあることでアイデアや意見が出やすくなることを経験した方は多いと思う。「呼び水」と呼んでも良いかもしれない。

 この「呼び水」により様々な視点からプロジェクトに発生する可能性のある事象を探索することが可能となる。リスクマネジメントが扱う問題において、ある程度自由度を制限することの意味は、1)不確実さへの対処、2)事象の関係性、がある。不確実さには、参加者の無知の程度も含まれる。この不確実さがあることで、自由な場がかえって参加者には戸惑いの場になってしまう。何から手を付ければよいのか分からないからである。もちろん、他の人のアイデアをきっかけとして自分のアイデアを出すのがブレーンストーミングの基本ルールなので戸惑いなどないと思うかもしれない。しかし、リスクマネジメントを効率的に実施するために、より有効なアイデアを数多く得ようとした場合、視点をある程度定めた中で、自由な発想を促した方が良い結果を生むことが多い。次に示す図のように、視点を変えながらプロジェクトの不確実性を網羅していくようなイメージである。このようにすることで、事象間の関係も同時に見えてくる。事象間の関係とは、前回説明をした。アイデアが出尽くした時点で整理をするが、その際にアイデア間の関係性が把握できることで、リスクマネジメントの対象とすべき事象のフィルタリングもできる。

 今回は、ブレーンストーミングをリスクマネジメントで利用する際に気を付けることなどを述べた。次回は、RBD,プロンプト・リストについて述べたいと思う。


参考文献
[1] 弓野憲一監訳,創造的問題解決,中央大学出版部,2006
[2] 村井章子訳,現場を強くする問題解決力,アスペクト,2007
[3] 角征典訳,アジャイルレトロスペクティブズ,オーム社,2007
[4] SUZANNE TURNER,TOOLS FOR SUCCESS,McGrawHill,2002
ページトップに戻る