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「リスクマネジメント・ツールボックス (2)」

河合 一夫 [プロフィール] URL: こちら  Email: こちら :11月号

 先月は、リスクマネジメントにおける特性要因図の利用において、いくつかの疑問を提示した。今回は、これらを考えながら、特性要因図の効果的な利用について考えたい。先月提示したのは、1)問題(特性)の選択。プロジェクトの目標毎に特性要因図を作成するのか。2)小枝の作成方法。因果関係をどのように探索するのか。3)特性要因図からどのようにリスクとして記述するのか、の3点である。
 まず第1点目の、問題(特性)の選択である。リスク特定時の利用には、『本技法をリスク特定において使用する場合は、プロジェクト目標への影響、すなわちリスクへの影響度として結果を記述すべきである』[6]という指針がある。しかし、これは現実のプロジェクトに対して実施する場合には工夫が必要である。そもそも最初は、何がプロジェクト目標に影響するのかが不明であるからである。一般的に特性要因図は品質上の問題解決において利用される。その場合、議論すべき問題があり、最初にそれを記述することから始める[7]。リスク特定の場合は、品質上の問題を議論する場合との違いに留意すべきであり、以下の図に示すように特性要因図を組み合わせて問題(特性)を絞り込んでいくような使い方をすべきである。

 この絞り込みのプロセスは繰り返し行うことになるので、次の図に示すように、特性要因図を階層化していく作業と考えられる。

 この階層は理論的には制限がない。しかし、実務では専用のソフトウェアの支援でもない限り3階層以上は無理である。従って、最初の特性要因図では、リスク対象が網羅されていることを確認可能なレベルで記述する。ここでは、コンテキスト図と呼ぶことにする。このコンテキスト図では、プロジェクトの目標に影響を与える主たる要因を列挙することに留意する。その後に個別のリスク特定のための特性要因図を詳細化する。コンテキスト図の主原因には、4M(Man,Machinery,Material or Environment,Methods)のような一般的で網羅性のあるものがよい。これは、プロンプト・リスト[6]を利用する。もしくは、RBS(Risk Breakdown Structure)があるのであれば、それを利用する。プロンプト・リストは先月号で例を示したが詳細に関しては、別稿で紹介する予定である。
 次に、2番目の小枝の作成方法、因果関係をどのように探索するのか、についてである。特性要因図には、因果関係を探索するための考え方は提供していない。ブレーンストーミングといった技法と組み合わせることが必要となる。ブレーンストーミング時に特性要因図を利用するのは良いが、それとリスク特定で利用するものとは区別することが必要である。ブレーンストーミングの性格上、要因(原因)の関係が曖昧となってしまう可能性があるからである。単純な因果関係であれば、ブレーンストーミングで出された意見をまとめることで事足りるかもしれない。しかし、因果関係を探索するためには別の技法と組み合わせることが必要となる。これについては、別稿で述べることとしたい。
 最後に、特性要因図から、どのようにリスクを記述するかという問題である。これは、リスク・メタ言語[6]を利用する。リスク・メタ言語は、原因−リスク−影響に分けたリスクの構造化記述法である。次に示す図のように、特定した原因を用いて、リスクを記述する。例えば、<原因>のために<リスク>が発生し、<影響>を及ぼす、というように記述する。ここで、より正確な記述をする必要がる場合は、原因の発生確率や影響の大きさを記述中に付け加える必要がある。

 特性要因図を利用して、リスク特性を実施する場合、次の図に示すようにブレーンストーミングなどの他のツールと組み合わせる。ここで重要となるのは、それらのツールを利用する上での思考技術である。思考技術としては、特に物事の関係性の分析技術を指す。リスクマネジメントで利用するツールでは、物事の関係性に着目して分析することが重要となる。そこで、少し遠回りになるが関係性を考える上で基本となることがらについて、次回は整理をしたいと思う。

参考文献
[1] エンゲストローム,拡張による学習,新曜社,1999
[2] JIS Q 9024:2003,日本規格協会
[3] P2Mガイドブック改訂委員会,P2Mプロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック,日本能率協会マネジメントセンター,2007
[4] PMI,PMBOKガイド第4版,PMI,2008
[5] 日科技連問題解決研究部会,TQMにおける問題解決法,日科技連,2008
[6] PMI日本支部監訳,プロジェクト・リスクマネジメント実務標準,鹿島出版会,2010
[7] PMI東京支部監訳,プロジェクトマネジメント・ツールボックス,鹿島出版会,2007
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