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「リスクマネジメント・ツールボックス (1)」

河合 一夫 [プロフィール] URL: こちら  Email: こちら :10月号

 プロジェクトをマネジメントする際、様々なツールや技法(以降、ツールで統一する)を利用する。リスクマネジメントでは、現状を分析するためのツール群、意思決定を支援するためのツール群、原因を分析するためのツール群、認識を共有するためのツール群など多くのツールを利用する。
 これから数回に渡って、リスクマネジメントで利用可能なツールのうち、筆者がリスクマネジメントに有用だと思うツールについて説明を行ってみたい。また、ツールや道具と(リスクマネジメントを含む)プロジェクト活動の関係についても考えていきたい。活動理論では、人間の活動、ツール・道具、対象の間の関係を論じている[1]。ツールを有効に利用していくうえで、ツールとは何かを考えることも必要との思いが筆者にはある。
 まず第1回目として、「特性要因図」を取り上げる。特性要因図(Cause-and-effect diagram)は、石川ダイヤグラム(Ishikawa diagram)、魚の骨(fishbone diagram)とも呼ばれる。JISでは、特定の結果(特性)と要因との関係を系統的に表した図であり、問題の因果関係を整理し原因を追究することに使用する[2]、となっている。プロジェクトマネジメントにおける品質マネジメントで利用するツールとして紹介されている[3][4]
 特性要因図は、QC7つ道具の一つとしてよく知られている。QCサークル活動(小集団活動)を経験した方であれば、魚の骨という方がイメージしやすいと思う。特性要因図は次に示す形をしている。

 解決すべき問題(特性)を右端に書き、主要因を周りに配置し、要因を小枝として根本原因を絞り込む(図ではレベル3の原因)ことを繰り返す。JISで規定している範囲も、図の作成手順のみであり、どのレベルまで行うのか、主要な原因を識別する方法などについては規定していない(規定できない)。単純な図であり、このツールをどのように利用するかは、利用者に委ねられている。その用途として、1)特性と要因の関係を整理したいとき、2)問題点を解明し、対策を立てたいとき、3)管理項目を設定し、職位別管理を充実させたいとき、4)教育・訓練のとき、5)説明や報告のとき、などとされている[5]
 先に示したように、さまざまな目的に利用可能であることや、要因の数などに制約がないことから、その効果的な利用にはノウハウが必要となる。例えば、現場における問題解決において、主原因を4M(Man,Machinery,Material or Environment,Methods)とすることである。一般的な問題に対しては、主要因の決め方、各主要因における因果関係(小枝の部分)の認識方法について特別な方法はない。本稿ではリスクマネジメントに対して有効な特性要因図の書き方を述べる。但し、これは1つの考え方であり、先に示したツールと人間の活動という枠組みの中で考えると、また別の見方も出てくる可能性はある。
 リスクマネジメントでは、主にリスク特定で利用する[6]。特性要因図が、特性(結果)に対する要因(原因)を示す図であることから、リスク特定以外の場面でも利用できる。リスク特定において主要因としては、プロンプト・リストが利用できる[6]。例えば、PESTLEプロンプト・リストは、政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)、法律(Legal)、環境(Environmental)を示している。これらを主要因として、特性要因図を記述する。問題には、プロジェクト目標や目的を記述する。そして原因を絞り込み、リスクを網羅的に特定していく。以下に、その様子を示す。

 ここで、いくつかの疑問が出てくる。1)問題(特性)の選択。プロジェクトの目標毎に特性要因図を作成するのか。2)小枝の作成方法。因果関係をどのように探索するのか。3)特性要因図からどのようにリスクとして記述するのか。先に述べたように単純なツールほど、実際の利用時にはノウハウが決め手となる。次回では、特性要因図を有効に利用するためのノウハウについて、上記の疑問に答える形で議論を進めてみたい。

参考文献
[1] エンゲストローム,拡張による学習,新曜社,1999
[2] JIS Q 9024:2003,日本規格協会
[3] P2Mガイドブック改訂委員会,P2Mプロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック,日本能率協会マネジメントセンター,2007
[4] PMI,PMBOKガイド第4版,PMI,2008
[5] 日科技連問題解決研究部会,TQMにおける問題解決法,日科技連,2008
[6] PMI日本支部監訳,プロジェクト・リスクマネジメント実務標準,鹿島出版会,2010
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