PMRクラブコーナー
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プロジェクトマネジメント教育の振り返りと展望

(株)日立国際電気 人事総務本部 人財開発センタ センタ長 森 邦夫 [プロフィール] :12月号

1.プロジェクトマネジメント教育の前に
 4年前、私は、経営幹部層に「プロジェクトマネジメント(以下『PM』と略す)の重要性をプレゼンする機会がございました。その中で私は、「当社は数年内に『PM』人財の不足で困るときがくる」と述べました。しかし、そのための具体的な施策が不十分なため、経営幹部層からはよい感触を得られませんでした。これは、私の『PM』に関する知識・思考が乏しいことが原因であり、P2Mの勉強を始めるトリガーになりました。
2.P2Mの取り組み
 まず、私は3年前にPMC、2年前にPMSを取得しました。人財開発部門の立場では、資格としては充分かと思いましたが、PMAJのHPを見ているうちに「難度の高いPMRを」と思い、昨年チャレンジしました。結果は、好運にも合格しました。PMR試験には、各種『PM』の書籍や文献、とりわけ『プロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック』を刷り込むようにして読んだことがよかったと思います。また、情報システム部門、官公庁営業部門、経理部等の経験も活きました。現在は、社内にP2Mの資格取得を奨励しており、私のPMR以外に、PMSが3人、PMCが22人と、まだ少ないのですが普及していこうと考えています。
3.プロジェクトマネジメント教育の取り組み
 資格取得以外に、『PM』を如何に普及していくかは迷いました。『PM』人財の育成には「知識提供だけでは続かない」と推測し、2年前に、事業部の開発案件をもとにQCD達成を目指す『プロジェクトリーダ育成施策』を展開しました。当初は、「それは全社の人財開発部門がやることか?」という意見もありましたが、「製品開発マネジメントの問題は全社共通であり、且つ座学による習得には限界がある。コンサルタントやPMS資格者によるOJT方式で習得するのが近道」という視点で社内のコンセンサスを得ました。但し、QCDを追うと結果評価になってしまうので、育成面からは『プロジェクトリーダ能力水準表(以下『水準表』と略す)』を策定し展開しました。『水準表』は、現状のスキルと目指すスキルのギャップを明らかにして、どんな施策を行うとレベルがアップするかを明記するツールです。
 しかし、新たな問題が挙がりました。実際の事業部の開発案件による育成施策だけでは、『PM』人財の不足を払拭できないことです。そこで、新たに主任、課長、部長の各昇格者を対象にした研修の中で、『水準表』を用いて能力レベルを自己分析する講座も作りました。このとき驚いたのは、階層間で『水準表』の数値に乖離があること、又、マルチプロジェクト対応の評価が最も低いこと、更にコミュニケーションの評価が思った以上に高かったこと等が挙げられます。これは、普段の現象における「表」と「裏」の関係を示したものと思います。
 今後の新たなアプローチですが、それは二つあります。ひとつは、レベルを設定して層別した『PM』の人財のマップを作ること。もうひとつは、『SEの育成』です。『SEの育成』というと、皆様は「それは10年前からやっている」とご指摘を頂きそうです。当社でもOJT・OFF−JTを通じてSEを育成してきましたが、必ずしも体系的とは言えないため、まずSEを「システムエンジニア」「セールスエンジニア」「サポートエンジニア」の三種類に分けて役割を定義し、更にその三種類を事業タイプ別に分類してマトリックス的に捉えるアプローチにしました。従来は、SEの議論をする度に混乱していましたので、この分類により「どんな事業の、どういうSEに、どのレベルの、何を教育する」という、ターゲットを明確にしたSE育成施策を作る基盤ができたと思います。SE育成施策の改善はこれからです。
4.マトリックス組織におけるプログラムマネジメントとマルチプロジェクトマネジメントについて
 企業である以上、『P2M』にあるようにプログラムに従属したプロジェクトが整然と並び、進行していることが望ましいわけですが、現状は、本来プログラムすべきところがマルチプロジェクトになっていたり、また、折角プログラムしたのに、実際はマルチプロジェクトで対応したりとなかなか難しいものです。組織としては、機能組織を縦軸に、プロジェクト的な組織を横軸に据えるマトリックス組織で運営していますが、あたかも『マネジメントのジャングル』のような思いが致します。こういう状況で、単一プロジェクトを効果的、効率的に展開するには、「何がベストか」を明らかにしてマネジメントするよりも、「どうしたらマイナス要素を無くせるか」という方向に向かってしまい、『P2M』にある「全体使命」を追求する意識や活動がどうしても薄れてしまうところが課題です。
5.抱負
 『PM』人財の必要性を説いてから4年。予言したつもりはないのですが、残念ながら育成が間に合わず、実際に他社から『PM』人財を招いています。自らの至らなさを反省しております。今後は、『プロジェクトリーダ育成施策』『SEの育成』『PM人財マップ』の関係性を構築した施策を展開していきます。当然、それは当社のビジネスを想定したものでなくてはなりません。そのためにも、『P2M』は私の知識・思考・行動の原点であり、今後も大切なバイブルとして活用していきます。本当は、このコーナーの趣旨から見て、内容はお堅いものでなく、趣味とかを記載すべきでした。「趣味は『PM』です」と言ったら不謹慎でしょうか。
以    上
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