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プロジェクトマネージャ嫌い?

日揮情報システム株式会社 金田 竜一 (PMR) [プロフィール] :10月号

「最近職場が静かで不気味です」。先日同業者(IT企業)からこんな話を聞いた。
「確かに無駄話をしないのは良いことかもしれないが、これだけ静かで各方面とうまくコミュニケーションが取れているのだろうか心配」というものであった。「きっと社内では会議室で打ち合わせているのでしょう」とフォローしたが、電話連絡を取っている声もほとんど聞かないという。
どこかのコーヒーのCMで、先輩社員が客先に会いに行こうとすると、若手社員にメールのやり取りで済ませましょうと言われ落ち込むシーンがあるが、客先とはメールのやり取りが主で、電話や面会する機会が減る傾向にあるのかもしれない。
 数年来、IT技術者が将来の職種としてプロジェクトマネージャを志望しない傾向を懸念する声を耳にする機会が増えている。弊社においては、幸いにもリクルート時から親会社の大型プラント建設プロジェクトの伝統を意識して入社希望する者が比較的多く、P2M教育に力を入れている関係もあり、同業他社に較べるとプロジェクトマネージャ志望の技術者は多い方だと思うが、それでも昔よりは減少傾向にあるようだ。
以前はプロジェクトマネージャを志望しない人は技術屋としてプログラミングを極める、あるいはコンサルタントやアナリストなどを強く志望するケースが多かったが、昨今の風潮はそうとも言いきれないものがあるようだ。
これについては色々と言われているが、一因として、ある意味若者が進化したことを挙げることができるかもしれない。彼等はリスク回避能力が高いため、プロジェクトマネージャの重責、労働の過酷さや失敗確率などとメリットを秤に掛けてプロジェクトマネージャを避ける道を選択する。また恐らく周囲に幸せそうなプロジェクトマネージャを見かけたことが無いか、悪評を聞き齧っていることもあるかもしれない。また、建設などのプロジェクトではプロジェクトマネージャは絶対の権限、予算を握っており、やりがいという面では非常に高いものがあるが、IT業界では必ずしもそうではない(権力が弱い)ケースが多いことも挙げられる。
IT企業各社も数年前より直接的には大型赤字SIプロジェクトのいわゆる「突然の驚き」問題に対する対策としてPMO組織を構築し、組織的チェック・レビュー体制を敷くなど、決してマネージャ任せにしない取り組みを行っており、それなりに成果は上がってきたように思われる。
これら取り組みはまだ体力のある一定以上規模の企業の取り組みに留まっているようだが、それでも以前よりは手厚くなっており、また、プロジェクトマネージメント資格取得に対する支給金なども優遇される傾向にある。
それでもプロジェクトマネージャを志望しない傾向が収まらない最大の要因は、プロジェクトマネージャの業務そのものが冒頭に挙げた例のように、若手社員が避けようとする電話や、直接面と向かい丁々発止の駆け引きが必要な、まさに直接コミュニケーション能力が最大限に求められる職種であることが大きいようにも思える。かといって、コンサルタントやアナリストがそのような能力を必要としないかというと、ご存知の如く、プロジェクトマネージャに輪を掛けて直接コミュニケーションが重要であることは言うまでもない。
IT企業各社は、プロジェクトマネージャ(候補)不足解消のためにもP2M教育に力を入れることにより、IT技術者に理論的な武器を与え、直接コミュニケーション恐れるに足らずという風土を醸成すべきと考える。

当社に立ち返って考えた場合、今後、例えば海外を含む環境・社会インフラビジネスにおけるIT領域などでは、その多様な企業、機関、ステークホルダとの関わりからも、現在のプロジェクトマネージメントよりも遙かに複雑かつ高度な直接・間接コミュニケーション能力が要求されることになるのは間違いない。その際にはP2Mのプログラムマネジメント手法が必須となるため、今からプログラムマネージャ人材育成に力を注ぐことが必須と肝に銘じている。
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