図書紹介
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「タクシー王子、東京を往く」 ―日本交通・三代目若社長「新人ドライバー日誌」―
(川鍋一朗著、文藝春秋社、2008年05月30日発行、第1刷、231ページ、1,350円+税)

デニマルさん:12月号

2010年で話題となり、ここで紹介できなかった本に「これから正義の話をしよう」(M・サンデル著)、「20歳のときに知っておきたかったこと」(T・シーリング著)等がある。更に「マネジメント:基本と原則」(P・ドラッカー)もあるが、これは「もしドラ」として紹介した「もし高校野球の女子マネジャーがドラッカーのマネジメントを読んだら」(岩崎夏海著、10月号)の影響で話題となっている。異色なものでは「銃・病原菌・鉄(上・下巻)」(J・ダイヤモンド著)があり、これは朝日新聞が「ゼロ年代の50冊」として選んだ中で1位にランクされ、一躍脚光を浴びたものである。異色といえば、今回紹介の本もその一つである。タクシー業界では、知る人ぞ知るユニークな本である。社長が自ら過酷な現場を体験して、それを現場ドライバーと経営者の視点で現代社会と経営のあり方を綴っている。著者は若い社長であるが鋭い経営感覚だけでなく人情味も溢れている。現在、閉塞感と経済的に低迷した社会環境の中にあっても、業界の将来と人の温もりを感じさせる本である。

タクシー王子?   ―― 若社長が新人タクシードライバー ――
この本の題名から、三代目社長が個人的趣味で現場体験して、それを経営に生かそうとする道楽的な本かと思って読んでみた。所が、予想に反して全く違っていた。本気で取り組んでいる状況を自分のブログに公開したのである。その体験からいい事も失敗した事も社員に曝け出した。その結果、現場と社長の距離感が無くなり会社の一体感が図られ、全員野球の理想形態となった。その過程が手に取るように分かる経営の入門書的な本である。

二つの桜の話??  ―― 桜にも色々あるが、日交のルーツ ――
日本交通は、現在ハイヤー・タクシー業界で売上日本一の会社であるが、その会社をバブル経済の影響で破綻寸前から蘇らせたのが三代目社長の著者であった。世襲社長であるが筋金入りの若社長である。日交は創業80年の老舗会社、オレンジ色で屋根に桜のマークのあるタクシーとして有名である。著者の祖父が築いた会社とそれを支えた祖母を結ぶものが「桜」であるという。それを大切にする著者の温かな気持ちがこの本に凝縮されている。

黒タクシー???  ―― 拾うタクシーから選ぶタクシーの時代 ――
この本には、タクシー業界の最新技術から現場の裏話まで書いてある。タクシー無線とGPS(Global Positioning System)を連動した配車システム、カーナビの活用で顧客サービスを図っていること等。中でも「黒タク」と称する黒色のタクシーは、ハイヤーを想定した顧客の高級志向を狙った新たな経営戦略である。都内に58,000台あるタクシーは、相当な過当競争である。新しい時代の「拾うから選ばれるサービス」を実感した体験記でもある。

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