関西P2M研究会コーナー
先号   次号

2010年プロ野球を振り返って
〜なぜ阪神はナゴヤドームで2勝しかできなかったのか〜

関西P2M 小田 久弥 [プロフィール] :10月号

1.はじめに
 2010年のプロ野球は、例年に増して、セ・パともに、大混戦となっていますね。みなさん、自分の贔屓のチームの応援に一喜一憂されていることかと思います。この原稿を書いている時点(9.26)では、パは、ホークスが大逆転優勝、セは、中日、阪神、巨人の3チームが激しく争っており、どこが優勝の栄冠を勝ち取るのか、非常に興味深いところです。
 私は、子供の頃から熱心な阪神ファンです。テレビ観戦するとともに、時には甲子園に足を運び、声をからしながら応援しています。幸運にも、3度の胴上げの瞬間(1985年、2003年、2005年)を、球場で迎えることができました。そして、「今年は4度目を!」ということで、9月から10月にかけてのチケットを大量に買いましたが、どうなることやらという状況です。
 そんな中、今年は、阪神はナゴヤドームで、2勝しかできませんでした。今回は、レッスンズ・ラーンドとして、中日がなぜナゴヤドームで強いのか、阪神ファンの立場より、いろんな面より考察してみたいと思います。ただし、私は、野球の専門家ではありません。単なる、いち野球ファンの独り言として、お読みいただければ幸いでございます。
2.現状分析
 まず、2010年の対戦結果の分析を行ってみました。9月24日時点の中日の戦績をみると、ホームでは、勝率7割5分7厘(53勝17敗)と、際立って高い勝率となっています。この高勝率が、首位をキープしている要因と言えます。逆にいえば、中日以外のチームは、ナゴヤドームで勝てるようにならなければ、来年以降も苦しいペナントレースと言えます。
 阪神の中日との戦績は以下のとおりです
9勝13敗2分 (阪神ホーム 7勝 3敗 2分/ナゴヤ 2勝10敗)
 ナゴヤでは、2勝しかできず、圧倒的に中日に負け越した結果になっています。もともと、阪神は、ナゴヤドームに苦手意識があり、ファンの間ではナゴヤドームは「鬼門」と恐れられた存在です。しかし、ナゴヤ以外では勝ち越しており、同じ「中日」とは思えない対戦結果となっています。更に、興味深いデータがあります。阪神以外のチームの中日との戦績を分析してみました。
巨人 9勝15敗 (東京ドーム 7勝 5敗/ナゴヤ 2勝10敗)
ヤクルト 13勝 8敗 1分 (神宮 7勝 2敗/ナゴヤ 6勝 6敗 1分)
広島 8勝16敗 (広島 6勝 6敗/ナゴヤ 2勝10敗)
横浜 8勝16敗 (横浜 6勝 5敗/ナゴヤ 2勝11敗)
 なんと、ヤクルトを除いては、全球団が、ナゴヤで2勝しかできず、大きく負け越すという結果が見られました。中日の投手力や、守備力、攻撃力は、ホームでもビジターでもそんなに大きな差はないと言えると思います。では、中日というチームは、なぜ、こんなにホームとビジターの違いによって異なるのか、非常に興味深くなり、考えてみることにしました。
 更に、実績データをいろんな角度から分析することによって、何か見えてくるのではないかと思い、中日のホームとビジターの球団別の得失点の関係をまとめてみました。
対阪神 ホーム得点48-失点21 ビジター得点44-失点52
対巨人 ホーム得点48-失点25 ビジター得点50-失点50
対ヤクルト ホーム得点21-失点34 ビジター得点36-失点49
対横浜 ホーム得点45-失点33 ビジター得点40-失点40
対広島 ホーム得点54-失点27 ビジター得点60-失点46
 この結果より、「中日の得点力は、ホームでもビジターでも、さほど変わらないが、中日の失点数はホーム(ナゴヤ)では際立って少なくなる。」という事実が表れています。ナゴヤドームでの試合を思い出すと、なかなか1点が取れない試合が多かったように思います。それでは、なぜ、このような結果になったのか考えてみました。
3.中日がナゴヤドームで圧倒的に強い理由を考える
 ①「飛ばないボール」
 大きな要因としては、中日主催ゲームでは、2010年より「飛ばないボール」を採用していることがスポーツ紙などで挙げられています。私も、この要因が大きいのではないかと思います。「飛ばないボール」とは、ミズノ製で、現在NPBで使用されているものよりも低反発となっており、2011年より全球団で採用されることが決まっています。どのくらい、飛ばないのかと言うと、ミズノの発表では、「球速144キロの球をスイングスピード126キロ、飛び出し角度27度で打った場合、従来の飛距離(110.4メートル)より約1メートル抑えられる。」ということです。この情報だと、「たかだか1メートルしか違わないのか」と思いがちですが、低反発ですので、打球の速度も従来球よりも遅く、最後のひとのびがなくなるような打球が多くなると予想されます。
 この「飛ばないボール」を中日は、2010年シーズンより、主催試合で採用しています。この案は、落合監督が、対巨人の強力打線対策のために、採用した案ということのようです。対巨人対策のために行ったことが、ヤクルトを除く全球団に、予想以上に効果を上げた、こんな状況ではないかと思います。
 このことを検証するため、阪神の長距離打者の打率を調べてみました。次のデータは、対中日戦全体と、ナゴヤドームでの打撃成績の比較です。
   阪神
ブラゼル 中日戦 .238 ナゴヤ .162  
城島 中日戦 .250 ナゴヤ .171  
新井 中日戦 .289 ナゴヤ .194  
鳥谷 中日戦 .287 ナゴヤ .194  
 各打者ともに、通産打率よりも、中日戦の打率のほうが低い結果となっており、これは、中日の投手力の強さによるものと思われます。ナゴヤでは、更に驚くほど、打率が低い結果となっております。阪神以外の打者も分析すれば、もっと詳細な結果が見えてくると思うのですが、時間の関係上、阪神の選手の分析だけでとどめさせていただきます。
 この結果より、長距離打者が、「飛ばないボール」の影響によって、他球場ではヒットやホームランになっていた打球が飛ばなくなり、それに加え、もともとレベルの高い中日の守備力があるため、アウトが増え、打率が極端に下がっているという仮説がたてられます。
 ②「ナゴヤドーム」
 ナゴヤドームでの中日に有利な要因についても考えてみました。球場の外野の広さは、甲子園とほぼ同等です。「広さ」が決定的な要因ではないと言えると思います。
 また、「ナゴヤドームのマウンドは、土が固く、中日の投手の球が、ナゴヤドームでは速くなる」という証言がありますが、私では確認のしようがないため、今回の考察からは外します。
 私は、ナゴヤドームの「場」の雰囲気に注目しました。私は、何度かナゴヤドームで観戦しましたが、他の球場とは異なる、独特の雰囲気を感じました。この感覚は、テレビでは伝わってきませんが、実際に球場に足を踏み入れると、そのことを強く感じます。
 まずは、球場の色合いです。球場全体が、濃い鮮やかな青、人工芝も、非常に濃い鮮やかな緑色です。甲子園の緑を基調にした色合いに慣れている私は、ナゴヤドームに入った瞬間、「非常にまぶしく」感じました。東京ドームや京セラドームでは、「まぶしい」という感覚にはなりません。このようなあざやかな色合いの球場は、ナゴヤドームだけだと思います。このあざやかすぎる色彩が、選手のプレイに何らかの影響を与えているのではないかと思います。このことを裏付ける事実として、赤星氏がテレビで、「ナゴヤドームの濃い青色が、プレイに影響を与えてる」旨の発言をしています。
 次に、試合中に流れるアナウンスや、音楽や、効果音どの音量が他球場と比較して大きく感じます。ドームの屋根に響いて、更に大きく聞こえます。この要因も、何らかの影響があると思います。
③「苦手意識」
 前述しましたが、ナゴヤドームを「鬼門」と思っている阪神ファンは、私含め少なくないと思います。選手たちにも、この意識があると思います。ナゴヤドームでの敗戦が増えるにつれて、苦手意識が高まり、更に悪い結果につながる、「負のスパイラル」が出来上がっていた、そう考えられます
4.ナゴヤドームで勝つためのヒント
 ひとつ興味深いデータがあります。
マートン(中日戦 .281 ナゴヤ .316)  平野(中日戦 .328 ナゴヤ .308)
 この2人は、ナゴヤドームだからと言って、打率が極端に落ちてるわけではありません。マートンも平野も、大きな当たりを狙いません。ここに「飛ばないボール」攻略のヒントがありそうです。
 また、データには表れてませんが、中日外野守備陣の良さが際立っています。それに比べて阪神の外野陣は、打撃重視の布陣のように見えます。今年の後半より、局面に応じた外野守備の変更を行っていますが、それを重視して、守備力強化にも気を配ることがポイントになると思います。「飛ばないボール」で、良い投手陣を擁し、鉄壁の守備陣相手に戦うには、空中戦狙いでなく、こつこつとつないで、1点を守りきる野球が有効なように思います。また、ナゴヤドームの場の雰囲気に慣れるということは、物理的な制約もあり、なかなか難しいことかも知れませんが、我々ファンが、できるだけ応援して、選手をリラックスさせることで、側面からのサポートを行うことも忘れずに実施します。
5.おわりに
 いろいろと考えてみましたが、頭で考えたとおりにはいきません。そこがまた面白い。まだまだCS、日本シリーズと続きます。楽しんで応援したいと思います。
ページトップに戻る