関西P2M研究会コーナー
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マネジメント革新の動向

パナソニックラーニングシステムズ株式会社顧問 北村 保成 [プロフィール] :9月号

 産業の種類を問わず、多くの日本企業がグローバルな競争に苦戦を強いられている状況を見聞きする昨今である。またマスコミ報道や文献等資料において入手する情報の範囲内ではあるが、米国においては従来型のマネジメント手法が今の時代に「ついていけなく」なっているとする議論が始まっているようである。
 一方、現実にはマネジメントに関する教育は粛々と実施され、ドラッカーのマネジメントを高校野球に適用すればという本がベストセラーになっている。一体、本当に従来型マネジメントは今の組織運営に役立っているのだろうか?何となく、お互いに今の状況を打開する切り札にはならないことを解りつつ、惰性でマネジメントと対峙していないだろうか?あるいは、従来型マネジメントの代替案を見つけ出せない不安から一層現状マネジメントにしがみつくという心理状況に陥っていないかどうか?
 「経営の未来」*1という本で著者のゲイリー・ハメル氏が「従来型のマネジメント」と呼ぶのは次のようなマネジメントである。
 ○目標を設定し、そこに到達するための計画を立てる。
 ○動機付けをし、努力の方向を一致させる。
 ○活動を調整・管理する。
 ○人材を開発・任命する。
 ○知識を蓄積・応用する。
 ○資源を蓄積・配分する。
 ○関係を構築・育成する。
 ○利害関係者の要求を、うまくバランスをとりながら満たす。
(「経営の未来」P22より抜粋)
誤解のないように繰り返すが、このようなマネジメントは過去1世紀にわたって蓄積されてきた理論であり、数多くの成果を生み出してきたが、現状打開のキーマネジメントとしては必ずしも有効ではなく、イノベーションの時期を迎えているという主張である。
 ハメル氏は、米国にあって大きな成長を続けている3つの会社のマネジメントを紹介している。3社とはホールフーズマーケット、W・L・ゴア、そしてグーグルである。
3社には「思い切って現場に任せる」マネジメントを実践しているという共通点がある。以下ホールフーズマーケットのマネジメントの概要を「経営の未来」P84から抜粋して紹介する。
何を仕入れるかを現場の社員が決め、業績向上を求める圧力が上司ではなく同輩からかけられ、管理職ではなくチームが新規採用に関する拒否権を持ち、事実上全ての社員が小さな事業を自分で経営しているように感じている小売企業。
誰もが他の全ての人の給与の額を知っていて、上級幹部が自分たちの給与に平均賃金の19倍という上限を定めている企業。
自らを、企業ではなく世界に違いを生み出すために働く人々のコミュニティとみなし、利益に劣らず使命を重視している企業。
業界の3倍のペースで売上を伸ばしている同社の原動力は「現場の社員達」であり、上級幹部が下手に「目標を設定して、やり方にまで口を挟む」と業界並みのことしか出来ない。「人の底力を徹底的に信じる」マネジメントをすれば大きく伸長することが出来るのに、従来型マネジメントはその邪魔をしていないか?という問題提起である。
 この話を冷静に考えてみると、「何だ、それは典型的な日本的経営ではないか。」ということに気付かれると思う。全くその通りで、鹿児島県阿久根市にある(株)マキオや、長野県の伊那市に本社を置く伊那食品工業、能登半島の高級旅館・加賀屋、伊藤忠の無機化学品部などの事例(プレジデント他で紹介されている)が如実にそれを物語っている。
 日米いずれの事例も「徹底して」「本気で」社員を信頼している姿を制度で示していることに共通点が見られる。また経営Topにも言外に「本当にここまで社員第一を制度化できますか?」という強い哲学的な意志が感じられる。
 P2Mでは、「インプット」⇒「プロセス」⇒「アウトプット」といった流れを規定したり、プロセスに制約が加わって、「リソース」が投入されるといった、流れを示すプロセス的な記述を行なったりしていない。これはプロセス化をすることにより、プロジェクトマネジャーが持つべき、特に使命達成型職業人に必要な「ゼロベース発想」、「高い視点」あるいは「広い視野」を形成する努力に歯止めがかかったり、「新しい角度」からの発想や新機軸の創造を抑圧することがないようにするための配慮である。(P2M標準ガイドブックP34から抜粋)
 このようにP2Mではマネジメントのイノベーションを予め想定した記述を行なっている。日本発のPMを標榜するから、当然といえばそれまでであるが、「人の能力をとことん信じる」組織と、「組織ミッション実現に心底から邁進する人」との絶妙な相互作用がマネジメント革新の根底にあるようだ。

参考文献
 「経営の未来」*1 ゲイリー・ハメル、ビル・ブリーン共著、藤井清美訳 2008年日経出版社
 「P2M標準ガイドブック」
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