グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第49回)
ノルウェー Concept Symposium

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :10月号

先月号でフランス語の手習いのことを書いた。8月にもう一度フランスを訪れて、早速フランス語会話実践の機会がきた。所属の大学院が毎年EUのリサーチファンドを使用してリール本校で開催しているEDEN Doctoral Seminarというプロジェクトマネジメント・アカデミアのグローバル・サミットセミナーであり、前後を含めて9日間フランスに居た。
 EDENセミナーは今年も大成功であったが、世界で名が知れた教授連が確実に年をとりつつあることをより強く実感し、また博士課程生の論文テーマがスケールが小さく、つまり博士論文のお作法に合うように小さくてまとまっていて、かつデータが採取しやすくリサーチの論理の矛盾をつかれないようなテーマを選ぶようになったのが大変気にかかった。
 さて、フランス語自習の成果はいかに。結論からいうと、なんとかしようと思い立つ前から約20%くらいの前進で大したことはなかった。
 成田からパリのシャルルドゴール空港に着いてまずやることは、第2ターミナルのなかにあるTGVの駅でリール行きの乗車券を買うことであるが、ここはトラベルフランス語の第一歩であるのでフランス語でバシーと決めてと思っていた。だが早速つまずいた。午後6時何分の列車というあたりで、日本と同じように18時というべきところ6時と言ったために、窓口の女性が混乱し、急に早口になり、相手がなにを言っているのかさっぱり分からなくなり、結局英語で話を続けて往復乗車券は買った。が、車中で帰りの切符を見ると、1週間リールにいるのに明日の土曜日発となっている。土曜日違いであった。滞在中その後もめげずに機会を見つけて片言フランス語で話すようにしたが、近年はフランスでも英語を話す人が多くなって(2002年に初めてリールに行った頃とは変わった)、こちらのフランス語の怪しさをすぐに見破られ英語に切り替わりなかなかフランス語の練習にならない。しかしながら我慢してやっているうちに薄日がさしてきた感じで、その後も学習を続けている。

 9月中旬に、ノルウェーでの政府・公共系プロジェクトガバナンスのシンポジウムに参加した。この分野の国際大会参加は私にとり初めてであった。第4回Concept Symposiumと称し、ノルウェー財務省が9月15日(水)から17日(金)まで、オスロ近郊の要塞跡地のリゾート地Oscarsborg島で開催したもので講演者として招待された。
 1969年の北海油田の発見で一躍大産油国となり現在原油輸出世界第6位、国民1人当たりGDP世界2位の豊かな国ノルウェーは、数十年先の石油・天然ガス資源の枯渇に備えて、かねてからスステナビリティーの追及に熱心であり、Petroleum Fundと称する基金を設けて資源税収を温存し、国家歳出を資源産業以外の税収で賄う政策を追求してきたが、2000年にQuality Assurance System for Public Infrastructure Investmentという公共投資の徹底したサステナビリティー策を導入している。公共投資の政治家による提案時から徹底的に案件の多面審査を民間エキスパート集団を使って実施する制度である。財務省が資金を拠出しノルウェー科学技術大学内に専門研究所を設置して公共投資の効率化を実施しているが、その一環で、2000年、2003年、2008年と海外・国内の有識者を招いて関連講義と討議を行うPolicy Decision MakersのためのConcept Symposiumを開催しており、今回4回目の開催となった。
 今回は30名が講演者として招かれ、ノルウェーの財務省・文部科学省の上級官僚並びに英国、ドイツなどノルウェーと交流の深い国から70名が参加した(参加は全員招待制)。
 シンポジウムでは基調講演3件と3つの並行トラックを設け、講演テーマはProject Governanceに関連するものと条件がついている。海外スピーカーは世界PM界の常連の学者と各国の政府関係者。OECD、米国DOD、NASAなどもスピーカーを出している。

基調パネル風景 由緒ある城塞のサロンでの個別セッション
基調パネル風景 由緒ある城塞のサロンでの個別セッション

 私の招待講演は、学の師匠である、本シンポジウムのトラックチェア、Christophe Bredillet前Skema Business School学長の推薦で実現した。演題は”A Japanese Program Governance Model for Building the Future: Constructivist Framework, Philosophy and European Application” としたが、英国、米国、中国の講演者などが熱心に聴講してくれたが、ノルウェー人はごく少数であった。
 シンポジウムで扱っているテーマ自体は公共事業のガバナンスに関することで新規性はあまり無いが、ノルウェーのこの面での研究は確かに世界最先端にある。しかし、イノベーションという言葉は全くでてこない不思議な大会であった。
 ノルウェー以外の国別参加者数トップはなんと中国である。中国は、ノルウェー財務省から中国財務省への招待で、国家投資委員会の事務総長以下7名の参加者を派遣してプレゼンスを大いに上げた。基調講演で中国の5カ年計画の説明を行ったが、主催者が「大変印象深い講演であった」とさかんに持ちあげていた。社会主義がはなやかなりし頃は5カ年計画は、よく知られた国家計画手法であったが、豊かで平和なノルウェーには本当に新鮮に映ったのであろうか。
 ノルウェーは実に美しく、清潔であり、豊かな国である。しかし、物価は強烈に高く日本の2.5倍から3倍である。ビールの小缶が600円、市電が600円、タクシーの初乗りが2500円(若い人は自転車で移動)といった具合だ。それでも普通の若い女性がスーツを着てグッチのバッグを持っているのは日本と同じで極めてめずらしい。
 サステナビリティーを徹底し、ふだんは質素に生活して明日を確保するという国のモデルは明日の日本を考えるのに参考にはなるが、日本人がこのようなストイックな生活をできるであろうか。

全体会議会場 会場の島は大砲のさながら大砲の博物館
全体会議会場 会場の島は大砲のさながら大砲の博物館

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