リレー随想
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「経済環境変化と日本の強み」

野秋 盛和: [プロフィール] :9月号

 組み込みシステム開発プロジェクト研究委員会(平成21年)では、組み込みシステム開発における擦り合わせ型開発は日本の強みといえるかという課題設定で議論を重ねた。なぜ、このような議論が必要なのか。経済環境が大きく変わる中、日本の強みが日本の弱みになっていないだろうか。製品として優れていてもグローバルに売れるとは限らないという現実がある。ものづくりを見直しグローバルな市場で本来の日本的強みを発揮してゆかなければならない。
 では、日本の強みとは何だろうか。
PF.ドラッカーは、日本の強みと弱みに言及している。強みは、長期的視野の経営、新しいものを受け入れて改善する力、急進的で思い切った決断、経験や見通しの共有、世界のことを良く分かっていることなどを挙げている。逆に弱みとして、人口問題と金融機関を挙げている。また、労働市場に関して先進国共通の問題として、労働寿命の延びに対して雇用機会創出スピードが追いつかないという現象が起こっていることを指摘している。これは、2003年に行われたHBRのインタビュー記事にある。しかし、中国の経済発展や東アジア諸国と日本とのFTA進展や、サブプライム問題や、その後のリーマンショックは2005年のPF.ドラッカー没後である。もし生きていたらと、彼のメッセージを期待している人は多いことだろう。
 日本の製造業の強みはFTAの進展で大きく変わらざるを得ない。新たに進展しつつある経済環境の中でこれまでと違った成長をするには、国を越えた品質・コスト・スピードが鍵になる。擦り合わせという表現にせざるを得ない形式知に出来ていない部分、あるいは出来にくい部分が強みだと自己満足している間に、いずれ発展途上国にキャッチアップされる。形式知化を促進するシステム思考や、戦略的思考の弱さは否めない。先進的な組み込み製品でイニシャティブを取ってゆくことは重要だが、同時にノウハウやスキルをシステマティックに組織に定着させ継続的に発展させてゆくスキームを形式知化する必要がある。
 今月、NHKスペシャル「灼熱アジア」という番組でタイの金型企業が紹介された。タイの金型企業が日本の大手金型企業を買収した。自社でのノウハウの蓄積スピードがアジアビジネスの進展スピードに追い付かないという理由だ。一方で、日本国内市場が落ち込み企業の経営状態が悪化しその救済策がない。長年にわたり技術蓄積して自動車産業を支えてきた金型企業が買われることとなった。タイ企業の従業員は日本企業のベテラン技術者に教え方が悪いという。試行錯誤ではなく、どうしたら出来るかを教えるべきだと。このことは、組み込みシステム開発において擦り合わせ型開発を得意とする企業の将来にも大いに参考になる。
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