PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(30)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :9月号

エンタテイメント論

第1部 エンタテイメント論の概要

15 スポーツとスポーツ産業の実態
●筆者の予測(その1)
 前号と前々号で日本のプロとアマ・ゴルフのこと、そして石川 遼選手や宮里 藍選手のことを書いた。前号で筆者が両選手のメジャー競技参戦の結果を予想をした。誠に残念なことであるが、完全に的中した。

 石川 遼選手は、その後、全米オープンにも、全英オープンにも、宮里 藍選手は、その後の全米女子オープンにも、全英女子オープンにもそれぞれ勝てなかった。特に全米女子オープンでの日本の女子選手は総崩れであった(横峯さくら6オーバーの10位タイ、有村智恵12オーバーの28位タイ、宮里藍13オーバーの31位タイ、諸見里しのぶ14オーバーの34位タイ)。彼らが世界メジャー・トーナメントで優勝したいと「本気と本音」で望むなら、一日も早く日本を出て(去ることが筆者の真意)、海外で暮らし、世界の舞台で日々戦うことである。

 余談であるが、ゴルフ競技に限らず、他の競技でも極めて多くの日本のスポーツ選手は、海外に遠征し、メジャー競技に出場してダメな場合、決まって言うセリフがある。それは、「大変、勉強になりました」というものである。勉強するために海外遠征に行った訳ではなかろう。勝つためであったはず。何故「悔しいです」と言えないのか。

 いずれにしろ、日本で開催されるゴルフ競技を主活躍の場とし、時々世界メジャー競技に出るという二股勝負で、もし「マグレ」で勝てたらまさに「ラッキー」である。しかし世界メジャー競技に於いては、そのラック(幸運)は恐らく皆無であろう。

●筆者の予測(その2)
出典:有村智恵選手の公式HP  筆者がもう一つ予測したことがある。もう少しで的中するところであった。幸運にも的中しなかった。有村智恵は、全米女子オープン開幕の前日、午後予定の練習ラウンドを午前に変更するため、クラブハウスに1人で訪れ、全米ゴルフ協会(USGA)関係者と英語で話し合った。

 彼女は、「午後のラウンドをしないのか?」、「試合をラウンドしないのか?」という2つの質問を受けた。共に「しない」と答えた。そのため有村が棄権したと判断され、新しい選手にシフトされた。そして代わりに出場権を得た選手の名前が「組み合わせ表」に発表された。

 日本のTV報道関係者がそれに気付き、有村選手に伝えた。彼女は驚いてUSGA関係者に英語の聞き違いを主張した。しかし彼女自ら棄権の意志表示をした以上、出場資格は無い。出場の資格を得た米国の某選手がもし有村選手の棄権撤回を不服と申し出れば、有村選手は絶対に選手権に出られなかったのである。幸いなことに某選手の温かい好意で不服を言わず、「コト無き」を得た。

 「英語が出来ないことは海外のゴルフ競技で極めて不利になる」という筆者の予測は、今回の事件で見事に的中しかけた。幸い的中しなくて良かった。有村選手に限らず、日本選手はゴルフの練習と同等に英語を勉強すべきである。いつも日本の競技を見ていて思う。優秀な外国人のキャディーを使って競技に参加すれば、一石二鳥と思うがどうであろう。

●日本人のゴルフ解説者
 最近の日本のテレビ局は、海外のメジャー・トーナメントに出場する日本選手の活躍をLive(生放送)で報道する。その放送を見て、いつも思うことがある。またプロ・ゴルフ競技をエンタテイメントの観点から考察しても極めて拙いコトがある。

 TV中継するアナウンサーは別として、ゴルフ評論家、現又は元プロ・ゴルフ選手などの解説者は、何故か、日本選手ばかりを主観的に応援し、客観的、専門的、厳格な解説をあまりしない。
日本のTV局の報道姿勢とゴルフ解説者の解説に問題あり。
日本のTV局の報道姿勢とゴルフ解説者の解説に問題あり。

 ゴルフの素人の筆者が見ても、当該日本選手が明らかにミス・ショットやミス・ジャッジをしたことが分かる場面にかかわらず、日本のゴルフ解説者は、日本選手をかばう様な解説をする。情けないプレーをして本人がベソを?んでいる場面ですら、本人の健闘を讃えて本題と関係ないピンと外れの解説をする。その様な解説者に媚びる様な発言とその解説内容を追認する様なアナウンサーのオベンチャラを見ると無性に腹が立つ。そしてその番組を見たくなくなる。

 日本のTV報道関係者やゴルフ解説者は、当該ゴルフTV番組を見ている観衆がすべて日本選手を応援しているという「暗黙の前提」に立っている様だ。しかしこれだけ国際化した時代である。日本選手でなく、外国選手を応援する日本人の観衆は沢山いる。また残念なことであるが、日本選手よりも遥かに海外で多くの実績を出し、英語も、日本語も堪能な韓国選手や中国選手を応援する日本在住の数多くの韓国人や中国人の存在を忘れてはならない。

 日本のゴルフ解説者は、「TV観衆は素人だからこの程度の解説をすれば足りる」、「日本選手の健闘を讃えておけば喜ぶだろう」、「予測解説で外れたらヤバイ。事後解説に徹しよう」、「難しい緊張した試合場面では解説を避け、沈黙が一番よい」などと内心で考えている様に思えてならない。もしそうでなければ、思い上がった、偉そうな態度で解説はしないだろう。この様ないい加減な解説者の名前を本稿で明かしたい衝動にかられる。しかし彼らの地位や立場を奪う気はないので、その名前を明らかにしない。けれども本稿の読者は、それが誰のことを意味しているか分かっている人が大勢いると思う。

2010年のマスターズ優勝者:P.ミケルソン(オーガスタ・ナショナル・カントリー・ゴルフ場)
2010年のマスターズ優勝者:P.ミケルソン(オーガスタ・ナショナル・カントリー・ゴルフ場) 出典:マスターズ、全米オープン、全英オープンの優勝者の写真は、それぞれの競技のHP

2010年全英オープン優勝者:
ルイ・ウーストハウゼン (セント・アンドリュース・オールド・コース/スコットランド)
2010年の全米オープン優勝者:G・マクドウェル
(ぺブルビーチ/ゴルフリンクス/米国)
2010年全英オープン優勝者:ルイ・ウーストハウゼン (セント・アンドリュース・オールド・コース/スコットランド) 2010年の全米オープン優勝者:G・マクドウェル(ぺブルビーチ/ゴルフリンクス/米国)


●外国人のゴルフ解説者
 日本の解説者は、本当は適時、適切な評価が出来るのに意識的に避けているのか、それとも評価が出来るレベルに達していないのか分からない。しかし彼らが解説する様な内容のコトならゴルフのコトを少しは分かった人なら誰でも言える様に思える。この様なお粗末な解説者は、米国や欧州ならTV観衆から非難や批判を浴び、TV番組から追放されるだろう。

 日本の報道姿勢に問題がある。日本選手ばかりを追いかけないで、当該競技でトップに立って戦っている外国選手の素晴らしい戦いぶりや苦戦している外国選手の苦悩ぶりも同時に報道すべきである。この様な日本の片寄った拙い報道姿勢は、プロ・ゴルフ競技だけでなく、オリンピック競技などについても言える。

 「プロ野球はエンタテイメントである」と一刀両断に評価した有名な監督がいた。プロ・ゴルフもエンタテイメントである。くだらない、迫力もない、詰らない解説や日本選手オンリーの報道姿勢は、真剣勝負をしているゴルフ選手を手に汗を握って必死で、しかし楽しく見ている観衆の気持を著しく傷付ける。またエンタテイメントの観点からも「白ける解説」、「白ける報道」は絶対に避けるべきである。

●一つの提案
 紙面の制約があるため、以上の問題を具体的に解決する方法を一つだけ提案したい。

 筆者は、新日本製鐵勤務時代、米国NYに駐在した時、様々なプロ・ゴルフ競技を実際に見聞する一方、多くのTV生中継を見た。米国人のゴルフ解説者は、ダメなプレーには「歯に衣を着せない」厳しい評価を下す一方、素晴らしいプレーには最大限の称賛を、ユーモアーを交えて与える。聞いていて実に爽快で面白い。

 以上の経験から日本のTV局の海外ゴルフ競技中継に於いて、同じ競技を観戦している外国人の解説者の解説内容を日本人のそれと一緒に報道してはどうか。ゴルフ競技は、その進行が緩やかであるので、了解さえ得られれば、外国人の解説内容を簡単に同時中継が出来る。またお互いに解説内容を交換することも考えられる。

 これによって日本人の解説内容と外国人の解説内容をTV観衆は同時に知ることが出来る。そして同じ選手の同じプレーに同一又は異なった評価を知ることで、深みのある、楽しいTV番組になるだろう。また素晴らしい解説競争の場を生み出すだろう。

 この解説競争をTV番組で実施すると、分析力、解析力、予測力などを持たない解説者は、エンタテイメント力だけで勝負せねばならなくなる。しかしその力もない解説者は、聴衆から見放され、マスメディアの場から放逐されるだろう。その代わり、本物の解説者が現われ、プロ・ゴルフ報道を面白く、興味深く見せるという好ましい結果になる。また日本の拙い報道姿勢も一挙に変るだろう。更に日本の優れた解説者と米国の優れた解説者の意見交流の場が生まれるから、日本のゴルフ競技に貢献する一方、日本選手の育成や今後の活躍のために多くのヒントを解説者達から得ることになるだろう。

 筆者は、「日本の選手達よ、世界に羽ばたけ」と主張した。その主張は日本人の解説者にも言いたい。日本人の解説者は、海外のメジャー競技に出向き、解説者として報道参加しているが、日本に於ける解説姿勢と同じ様な姿勢で解説している。彼らも米国、英国など海外のゴルフ解説の現場で修業を積むべきである。

 なお現または元プロ選手が解説者としてTV中継に参加することがある。彼又は彼女は、選手の立場や見方に立って語るので極めて興味深い且つ楽しい報道になる。しかし何故か、日本の解説者は、同席する当該プロ選手に遠慮し、同種の解説をする。しかし異種、異論、反論の解説は、筆者の知る限り、皆無である。

 ゴルフ解説者は、言い換えれば「ゴルフ評論家」は、ゴルフ選手とは根本的に異なる立場のいる人間である。そして多くのプロ選手、多くのプレー、多くのゴルフ場、多くのゴルフ設計などを研究(分析、解析、評価)し、ある「考え方」や評価の「方法論」を確立させているはずである。だからこそ誰に遠慮することなく、堂々と異種、異論、反論の解説をしてよいはずである。そして観衆はそれを望んでいるのである。
つづく
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