「くじけないで」
(柴田トヨ著、飛鳥新社、2010年03月25日発行、初版第1版、109ページ、952円+税)
デニマルさん:9月号
今回紹介の本を地元の本屋で手にしたのは今年の3月下旬、立ち読みした読後感が心地よく温かく心に残り、即刻買い求めて家でもう一度読み直したと記憶している。その後、この本のことを忘れていたが、この7月にNHKニュース「おはよう日本」で紹介された。この話題は、何と言っても98歳の著者の処女詩集出版とその素晴しい詩文にある。90歳を過ぎてからの創作活動、毎回産経新聞の「朝の詩」に投稿する常連になったとのことである。この本が出版される以前に自費出版された詩集が注目され、その詩をシャンソン歌手の久保東亜子さんが曲をつけたことで、ラジオ深夜便にも出演されたと著者紹介されている。この本のもう一つの話題は、失礼ながら年齢を全く感じさせない若々しい詩文にある。「百聞は一見に如かず」ではなく「百文は一読に如かず」である。現在の重苦しい社会にあって、高齢者だけでなく多くの人に夢と希望のある未来を予感させる素晴しい詩集である。
トヨさんの詩集から(その1) ―― 強さと優しさ ――
著者は1911年(明治44年)6月生れで、今年98歳になる。明治、大正、昭和、平成と四世代を生き抜いてきた。20年前にご主人を亡くされてから、宇都宮市で一人暮しをしている。趣味の日本舞踊が腰を傷めて出来なくなり失意の状態にあった時、息子さんから詩を書くことを勧められた。92歳からの新たなチャレンジである。この詩「くじけないで」の中に、自分の不幸を嘆かないで自然の力と夢は全ての人に平等にあると力強く書いている。
トヨさんの詩集から(その2) ―― 女性らしさ ――
この詩集のどの文章を読んでも、活き活きとした躍動感の中に女性らしい細やかさを感じる。この感性はどこからきているのであろうか。著者はこの本の「私の軌跡」の中で、亡くなられご主人のことや息子さん、そのお嫁さんのことを書いている。それを詩集の「思い出Ⅱ」として綴り、一番好きな作品だという。普段の生活でも息子のお嫁さんやヘルパーさんに心配りし、「九七の今でも、おつくりをしている」とほのかな色気を感じさせる。
トヨさんの詩集から(その3) ―― ユーモア ――
著者の詩文から学ぶことが多々ある。昔、奉公していた時の苦労話や戦争当時の思い出を書いているが、暗さを感じさせない何かがある。現在の生活でもウィットとユーモアに溢れている。病院の先生との会話では、「おばあちゃんと呼ばないで」とか、ボケを確かめるなら「好きな歌人や今の首相をどう思うか」等々の質問をして欲しいと書いている。著者の心のゆとりがユーモアを生んでいるのであろうか、若さの秘訣も満載された詩集である。
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