SIG
先号   次号

「失敗プロジェクトは何故なくならないのか」

IT-SIGリスクマネジメントWG / NTTデータ先端技術(株) 鈴木 敦秀 [プロフィール]  :8月号

 私は、1977年の入社以来、約33年の年月を主にシステムエンジニア(SE)として過ごしてきました。今は親会社を退職し、子会社の世話になっていますが、引き続き親会社の品質保証部に席を置き、問題プロジェクト撲滅に関する仕事に携わっています。
 私は、約12年前から問題プロジェクトを渡り歩き、プロジェクトの立て直しに参加してきました。その経験を活かし、最近ではプロジェクトを第三者の立場でリスク審査する仕事についています。リスク審査は、受注前、プロジェクト立上げ時、開発の各工程の節目等それぞれのチェックポイントでリスク抽出を行う作業です。
 問題プロジェクトの経験や第三者リスク審査に長年携わってきた中で、何故IT業界では失敗プロジェクトがなくならないのか、なくならない原因は何か、何処に問題があるから失敗するのか、最近感じていることを大きく2つの観点から述べます。


 一つ目の問題は、IT業界ではシステムの要件や仕様が曖昧な状態で見積りをし、発注者に価格を提示していることです。受注後、具体的な要件定義や設計を進めていくと、当初想定していない仕様や作業が出てくる。その想定外の作業も受注者が費用負担し開発を進めていることが、IT業界全体に言える問題です。
 IT業界の仕事は、発注者の要求をシステムで実現するということです。発注者が求める形にならない夢をソフトウエアで構築していく作業と言っても良く、もともと何を作るかが曖昧な状態の中で、ハードウエア・ソフトウエアを使えばどんな事でも、どうにでも出来ると考えられていることです。
 常日頃から取り引きしている発注者と受注者であれば、顧客の特性や業務内容も把握可能であり、要件や仕様が曖昧な状態にならないことから、失敗するケースは少ないと言えます。
 問題となるのは、発注者と受注者が初めて取り引きするケースや受注者が経験したことのない業務をシステム化するケース等で、要件や仕様が固まらない段階で価格を決め、その後発注者の要求条件を詳細化していくといった進め方の場合です。
 もともと企業と企業が取り引きする場合、受注者よりも発注者の立場が強く(受注者側に世界に誇れる唯一特殊なものがあれば別ですが)、経験の浅いIT業界ではさらに発注者の立場が強い状態が続いており、曖昧な情報でも受注者が価格提示しないと受注できないわけで、受注後は発注者の要求を断れずに失敗プロジェクトとなっているわけです。

 この様な受注者が泣かされるビジネスの仕組みは、IT業界全体で改めて行く必要がありますが、現在の環境の中でプロジェクトマネジャー(PM)がやるべきことは当初想定した範囲での開発に努めることです。発注者から想定以上の要求がでれば、その都度、見積りを含めた計画の見直しを行い、発注者と交渉を行うことです。ここで大事なことは後で言うのではなく、その都度、当初の要求と違う、提案依頼書(RFP)では読み取れない事項であることをその都度提示し、交渉し、作業に見合う対価をいただくことだと考えます。
あと出しジャンケンは何処の世界でも認められないものです。

 二つ目の問題は、開発者の問題としてSE力、PM力の低下が見られることです。
要件定義書や設計書が作れないSE、または完成させないまま次工程に作業を進めてしまうSE等、SEがSEとしての仕事を十分出来ないでいることが問題です。さらに問題なのは、要件定義書や設計書に必要なことが書かれていないにもかかわらず、それを指摘しない(若しくは気付かない)レビュアやPMがいることです。
 SE力の強化、要件定義書や設計書が作れるSEの育成等は、PMだけで解決する問題ではなく、組織として、またIT業界全体として考えていく必要があります。が、少なくともPMは自らのプロジェクトで、やるべきことがちゃんと実施されているかどうかの状況を常に把握しておく必要があります。
 現場で大変なことが起こっていても、手抜き作業をしても、後でなんとかなると思って先に進めているプロジェクトが、後工程で問題がどんどん大きくなり失敗プロジェクトになっています。

 PMのやるべき仕事は数も多く、一つ一つが大変な作業ではありますが、もっとも大切なことはPMが現場に耳を傾け、現場の声を素直に聞き取る努力をすることだと考えます。その中で、経験の少ないPM等は、わからないことがあったり、不安になったりすることもあると思います。その時は素直に上司や第三者の専門家に協力を求めることが、プロジェクトを失敗させない原点ではないかと考えます。PM自身が無理をしないことが大切で、PMが無理をすれば現場の作業者が潰れてしまいプロジェクトは失敗していくのです。
 そこで大切なことは、上司や組織はその様なPMの声を真摯に受け止め、常にフォローできる仕組みを築き上げておくことです。また、PMの声が単なる甘えではなく、真に助けを求めている声であることを見誤ることがない様にすることだと考えます。

 以上、私なりに考えていることの一部を簡単にお話しましたが、現在はPMAJの会員として以上の様な問題を少しでも解決できるようリスクマネジメントWGに参加しています。

 IT-SIGのリスクマネジメントWGでは、2007年8月に「ITプロジェクト 実践リスクマネジメント・ガイドブック」を刊行しましたが、現場ではわかり難いことやPMが頭を悩ましたり疑問に感じたりすることが多いことから、「ITプロジェクト・リスクマネジメント〜疑問に答える〜」と題して、よりわかり易い読み物としてまとめる作業を行っています。
 現在、WGメンバは6人いますが、皆高齢であるため若い人の参加もお待ちしています。

  IT-SIG,内容にご意見ある方、参加申し込みされたい方は こちらまでメールください。歓迎します。

SIG推進部会は こちら
ITベンチマーキングSIGホームページは こちら
ページトップに戻る