リレー随想
先号  次号

お客様から学んだプロマネ論

富士通株式会社 小林 直樹: [プロフィール] :8月号

 私は富士通に入社以来20余年にわたりシステム開発に従事してきました。お客様から契約をいただいてシステム開発を行う、いわゆる「フィールドSE」であります。
 「フィールドSEはお客様に育ててもらうものだ。」と諸先輩方から教わり育ってきましたが、私自身はまさにお客様に育てられて今があるようにつくづく感じています。特にプロマネの立場で仕事をするようになってからのこの10年弱は、お客様からプロマネの基本動作を沢山教わったように思います。

 私が担当するお客様は防衛省様であり、プロマネとして多くのことを教わったのは幹部自衛官からです。
 なぜなら、幹部自衛官は数十人〜数千人の隊員をまとめる部隊長としての指揮官教育を徹底して習っており、その指揮官として必要となるスキルは、プロマネとして必要となるスキルとかなりの部分において重なる点があるからです。
 組織をまとめるリーダーシップ力や、困難な場面での適切な状況判断、ステークホルダーを説得するための論理的で分かりやすい思考過程や資料のまとめ方など、多くの点において共通点が見出されます。

 例えば、我々(プロマネ)はプロジェクトを進める上で、プロジェクトメンバーはもとよりステークホルダーとの「情報の共有」を図ることに注力します。
 しかしながら自衛隊では、「情報の共有」ではなく「認識の共有を図れ!」と言います。同じ情報を持っていてもその情報を相手側がどのように理解しているかは人それぞれ違うわけであり、その違いを理解した上で認識の差を埋めることに努めることが大切であるということです。
 確かに「情報の共有」と「認識の共有」のギャップは、通常のプロジェクト運営においても随所で見ることができます。
 普段の仕事の中で、「関係者にメールを送りました。」、「Webの掲示板に資料をアップしました。」、「会議でお客様に報告しました。」などの行動や発言はよく聞かれます。情報の共有はこれで図れているはずです。しかしながら暫くたつと「お客様にちゃんと伝えたのに・・。」と嘆いたり、部下に「何度言ったらわかるんだ!」と怒鳴りつけたりしてしまうことはよくあることです。これは認識の共有が十分に図られていないからです。
 自衛隊員が無線連絡で相手の話したことを繰り返し話すことによって「自分は貴方の言ったことを確実に理解した。」と伝えることは、「認識の共有」を図る基本動作であり、全ての仕事においてこのような行動が行われているのです。

 もう一つ例を挙げると、陸上自衛隊には「IDAサイクル」という考え方があります。「IDA」とは、「I:information」、「D:decision」、「A:action」の頭文字をとったものであり、指揮官が迅速な意思決定をするための理論であり行動方針です。
 プロジェクトに置き換えて簡単に説明すると、
 I:まずは「情報収集」を行い、プロジェクトの現状認識をする。
 D:その上で方針(処置対策)を検討し、どのようにプロジェクトを進めていくかの「決断」をする。
 A:決断をしたら速やかな「行動」に移る。
 というようなことであり、その繰り返しをテンポ良く行うことによって、プロジェクト運営を円滑に進めていくという考え方です。
 プロジェクトは不確実性があるため、段階的に詳細化しながらPDCAサイクルを回していくと言われますが、「プロマネの行動姿勢」としては、PDCAサイクルよりもIDAサイクルの方がしっくりくるように感じています。
 現実として、米軍にもIDAサイクルと同じような概念があり、米軍の概念はいち早くハーバード・ビジネス・レビューに取り上げられ、多くの企業のビジネスモデルとして応用され始めているようです。
 今の2つの例を要約すると、「常に情報収集を怠らず、適切なタイミングでプロジェクトの進むべき方向性について決断し、速やかに行動に移す。そのサイクルを回していく中でしっかりとメンバーとの認識が合っているかの確認も怠らない。」ということであり、まさにプロマネとしての基本動作そのものです。

 このようなことを日々の仕事を通してお客様から沢山教わってきました。プロマネとしての確固たる軸は、お客様に築いていただいたと思っています。
 これからもお客様との仕事を通して、プロマネとしての経験を積んでいければと考えています。
ページトップに戻る