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「私たちのP2M」とは何か、考えてみませんか (5)
−世界はどのように変わっているのかー

PMAJ理事 東京P2M研究会代表 渡辺 貢成 PMS:8月号

第1回:あなたはPMを誤解していませんか
第2回:世界はどのように変わっているのか(1)
第3回:世界はどのように変わっているのか(2)
第4回:世界はどのように変わっているのか(3)

第5回:P2Mはプログラムオーナー(システム発注者)のために創ったPM!

(1) 世界はどのように変わっているかを、何故書いてか
 最近の日本人はどうしてか内向きで覇気がないんだろう。目先の景気を気にしているうちに世界はどんどん変わっている。新聞に書かれていないが、韓国勢は日本企業の既存の市場をターゲットに勝利を収めている。今元気なプラント業も4000億円の大型案件は日本有利だが、1000億程度の案件は日本勢が敗退している。日本企業はぬるま湯に使っている場合ではありませんよね。

 P2Mはこのような事態を予測し、新しいPMを開発したのです。しかし、残念ながらIT業界は「アメリカ出羽の守」で米国産のソフトを、構想計画することなしに、何でも受け入れている。そのためか、導入の効果がよく見えないという特徴があります。導入者の言葉を借りるとITは複雑で見えないものを扱っているから仕方がないといっている。
しかし、この日本流のやり方は韓国企業が戦略的に行っている米国や日本企業のベストプラクティスを導入するやり方と全く違っており、導入の効果がよく見え、成果をだしています。それは効果が出るまで徹底して目標を達成する責任を求められているからです。サムスンは日本人が取得した技術やノウハウを、退職日本人を一定期間再雇用して日本人の暗黙知をナレッジとして蓄積してしまった。これは強い。これが重要なことを判っている経営者が少ないのが残念です。今日本には退職者の持つ暗黙知が会社に残されていないのです。

企業は自社の強み弱み、現在抱えているいろいろの問題は夫々が違います。ITシステムを導入してどのような効果を上げるのか、そのためには自己の組織の弱点をどのように変革させるべきかを考えるのが構想計画です。この構想計画で最も大切なことはアナログ時代の業務遂行方式から、デジタルの持つ可能性を徹底して研究し、それを活用することです。単にソリューションパッケージを入れて、具合に悪いところをカストマイズすることでは効果を上げることができないのです。日本企業の生産性の低さがその事実を示しています。
アナログ時代の生産性の向上は10から20%が限度です。しかし、デジタルは簡単に10倍の生産性を達成することができます。それをどの場所で活用するかが勝負です。業務改革にはトップからボトムまでのコンセンサスが必要です。業務を変えたくない抵抗勢力もいます。現にITシステムの導入に際し、最後に現場からの要求変更が相次いでITプロジェクトは常に困難に直面しています。結果として3K問題がなかなか解消しません。また、最近のITプロジェクトは短納期で、価格が安い特徴があります。構想計画を省いてまで急ぐほどの価値がある業務改革など世界中にありません。コンセンサスを得ながら正しく軌道に乗せることが大切です。私は「ITが見えないから難しいのではなく、見ようとしていないから投資効果が出ない」と考えています。

PMにおける業務責任領域 では、PMBOKをPMのベースとしている米国ではどうしているかわかりますか。 左図を見てください。プロジェクトマネジャーの資格であるPMPより、格の上のMBAが構想計画、投資計画を実施し、株主の了解の得られた後、投資案件としてのプロジェクトがPBMOKでPM管理が行われます。PMBOKの領域はシステムモデルです。構想計画はスキームモデルであることを理解してください。

米国ITのユーザーはITの持つデジタル化の効果をよく知っており、それを最大限に活用しています。デジタル化の良さを活用できていない日本はグローバル競争でジリ貧になっています。米国は新規の研究開発の協力者に日本を選ばなくなりました。IT化の不備や、戦略に弱いことをよく理解しているからです。筆者はこの現実を認識してもらうため、世界の現況を書きました。経済産業省も構想計画をしない実態を憂慮し、超上流の構想計画を実施することを示唆しています。2008年にはIT経営2008年が経営者協議会から報告されました。「業務の見える化」をしないでITの導入を図ると、業務改革が実施されなくなることを注意しています。

 しかし、韓国勢に負けたのも、日本企業の力不足ではなく、戦略不足なのです。激しい競争に勝つには、単純に「ものづくり=技術」ではなく、総合力で勝つことを心がける必要があります。かつて世界一であった日本人ができない内容ではないのです。ただ、「ぬるま湯」からの脱出が条件です。

(2)P2Mの登場
 P2Mは経営に価値を提供するPMです。構想計画で問題点を整理し、課題化して付加価値をつけていきます。
ここで少し退屈ですが、P2Mを創出した背景をお話しします。
1)P2Mを創出した背景
P2Mは1999年当時ENNA(エンジニアリング振興協会)が通産省から日本発の新しいPM創出を委託されました。
PMは元来米国国防総省(DOD)がこれまでPM体系のすべてをリードしてきました。プロジェクトに関しては①「プロダクトを構築するパート」、②「プロジェクトのQCDを確実に実施するパ−ト」に分離され、前者はシステムズエンジニアリングが構想計画から運用までを含むプロダクト開発を担当し、後者はQCDを実施するPMとしてシステム構築を担当しています。1980年代に入り米国IT業界のプロジェクトが盛んになるとプロジェクトの失敗事例が多くなり、米国では多くのPM経験者を集めてプロジェクトのQCDを取り扱うPM知識体系であるPMBOKを構築しました。PMBOKはベンダーのためのPMとして大いに活用されています。

通産省から委託された当時は、プラント建設、大型インフラ建設等でPMが活用されていましたが、彼らは米国で発展したPMBOK以前のPMを駆使し、プロジェクトを成功させてきました。これらはいずれもベンダーのためのPMでした。
新発足の新型PM開発委員会はグルーバル化の進展と中国の台頭という社会情勢の変化で、企業は次々と新しい商品・サービスの開発が求められることが予想され、従来になかった発注者(オーナー)のためのイノベーション型PMの必要性を察知し、新型PM開発に踏み切りました。言葉を変えると「プロダクト開発」あるいは「価値創出」のためのPMを目的として発足させました。

2) P2Mの特徴
プラント系プロジェクトでは発注者(オーナー)が構想計画を実施し、見積もり依頼資料を作成した後入札に入り、受注者がQCD型のPMを遂行してきた。日本でIT型プロジェクトが盛んになると発注者が構想計画を実施するという習慣を持たずに、ITベンダーにPMを依頼し、ITベンダーは顧客の要求を整理し、プロセス化してPMを遂行してきました。

1995年以降インターネットの発達で社会の変化のスピードがまし、商品のライフサイクルが短縮されたため、製品開発プロジェクトが盛んになりました。現代になると、投資計画を競争力のあるものにするため、イノベーティブな内容が要求されるようになりました。アナログ時代からデジタル時代への変化です。いま、デジタル化の利点を最大限に使わない企業はグローバル競争で遅れることを説明した。そして現在の日本的手法はグローバル社会に通用しなくなり、製造業においてすら、韓国勢に勝てない現実を認識してもらいました。

3)グローバル競争に勝つためのP2Mの特徴
What to のための(オーナーのための)PMです
How to のPMBOKと異なり、何をすることで競争力が出せるかを構想し、実施するPMです
スキームモデル(構想計画)、システムモデル(設計・システム構築)、
サービスモデル(運用)を含めたPMです
複雑な問題を解決するためのPM(ミッション・プロファイリング)
複雑な問題解決は全体をプログラムとし、多数ある課題をプロジェクト群としてとらえ、プロジェクト群をプログラムとして処理し、全体最適な解を達成します
経済社会の持つ不確実性を吸収するPM(アーキテクチャマネジメント)
P2Mはプログラムとプロジェクト群で構成されているが、プロジェクトはモジュラ化されたプロジェクトを採用し、社会情勢の変化に応じて、モジュラープロジェクトの一部を延期、中止等の操作をすることで対処します
価値創出に貢献する価値基準の創出(アセスメントマネジメント)
必要に応じ世界中の有能者を集めて活動する場を設計し、PMに貢献する(コミュニティーマネジメント)

 次回からP2Mはどのような手順で業務を進めるか話を進めます。
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