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「私たちのP2M」とは何か、考えてみませんか (4)
−世界はどのように変わっているのかー

PMAJ理事 東京P2M研究会代表 渡辺 貢成 PMS:7月号

皆さん、「私たちのP2M」とは何か、考えてみませんか(3)ではインターネット普及以前と以後で世界がどのように変わったか、その根源はアナログ戦略時代からデジタル戦略時代に変わったことです。デジタル化の本質を見誤ると、没落が待ち構えているお話しをしました。皆さん方は身の回りを見て、自分の仕事の生産性を考えてください。従来方式(アナログ型)では10%から20%が限度ですよね。デジタル型で10倍にまで生産性を高めることができましたか。
先月号では生産性を飛躍的に高めるDBD(デジタル・ビジネス・デザイン)の話をしました。
同じデジタル化でも今の業務をそのままデジタル化するやり方で生産性向上を図るやり方とデジタル技術の持つ特徴を100%活かし、経営をデザインし、生産性を飛躍的に向上させるやり方DBD方式)があるという内容です。

生産性を飛躍的向上させることはイノベーションです。イノベーションで最も重要なことはゼロからの出発で、構想計画を固めるところから出発します。ここはPMBOKの領域ではなく、P2Mの領域だということだけ、今覚えておいてください。
皆さん方も是非P2Mを勉強し、発想を切り替え、身の回りのビジネスを変えてみませんか。
1. 低成長ビジネスを効果的なデジタル化で、業界世界3位に飛躍させた事例(課題)
1.1 成功する前の会社の状況を説明します。あなただったら「この会社をどうやって飛躍させますか」、考えてください
この会社はメキシコのセメント製造・販売会社です。セメントは高度成長期にはインフラ整備に必要な材料ですが、現在は低成長産業に属します。セメント業は多くの課題を抱える過酷な産業なのです。
需要が予測できない
注文の変更・取り消すが日常茶飯事である
  ・現場の工事が遅れると納入日時の変更(変更が日に3度程度は当たり前)
セメント事業の複雑さ:ミキサー車のタンク内のコンクリートは90分で使いものにならなくなりますが、輸送途中に発注中止の指示がくる
セメントを必要とする現場とセメント製造工場との距離がネック
セメントそのものが高価なものではなく、製品の差別化が難しい(コモディティ化した事業)
ここで問題です。
1.2 IT産業所属のあなたなら何を考えるでしょうか
ベストプラクティスの調査
本プロジェクトはQCDの中のD(納期)の問題だ。PMBOKでいうタイムマネジメントで考えてみよう。これに関するソリューション・パッケージを探してみる。
ソリューション・パッケージがない場合
業務プロセスの調査とその改善:これで10%程度の改善があるかもしれません

このコーナーはP2Mの宣伝コーナーですから我田引水となります。
1.3 P2Mならどうする(課題への取り組み手順)
ゼロベースで考える:経営全般で問題点を捉える
「ありのまま姿」の問題点を捉える。このときにOWモデルを活用する。
OWモデルの詳細は後述しますが、モデルは経営力を8つの軸で捉え、軸ごとに問題点を探索する。(ここで経営力とは価値を創り出す能力を言います)
Ⅰ.顧客関係性構築力
Ⅱ.販売開発力
Ⅲ.マーケット開発力
Ⅳ.商品・サービス提供力
Ⅴ.研究開発力
Ⅵ.経営資源蓄積力
Ⅶ.業務プロセス活性化力
Ⅷ.組織の市場変化追従力
変化の速いグローバル社会では、競争力も一点主義ではなく、多元的な総合力で価値を生み出し、勝利を獲得しなければなりません。
OWモデルの優先順位を決める
  1) 顧客価値の創出
本ケースでは優先順位が高いのが、顧客関係性構築力です。顧客関係性構築力とは言い換えると、顧客が最も喜ぶ価値とは何かを考え、提案し、受け入れられて顧客と関係性を強めようというものです。ここでは客が求めているのは、どのような緊急な要求にも応じられ、できるだけ速やかに商品が届けられることである。顧客である建設会社は納期の確保、遊び時間の削減で建設コストの計画値維持ができる。これは明らかな顧客への価値の提供になる。
  注: OWモデルはⅠ〜Ⅳまでが顧客への価値の提供を意味する。Ⅴ〜Ⅷまでが価値創出の源泉である。
  2) 価値創出への源泉
上記の価値創出に寄与する価値の源泉はⅥ.経営資源の中の情報資源です。情報資源を活用したアイデアが求められます。アイデアが出たら次の価値の源泉はⅧ.組織の市場変化追従力です。アイデアに対し、組織が追従できないと成功できないからです。
現代は単独なアイデアだけでは成功できません。アイデアも複合的に考え、実行上の困難も解消するアイデアが求められています。
  3) P2Mは「自分たちが成功するためのミッションは何か」から出発する:ミッションプロファイリングという。
2. 低成長ビジネスを効果的なデジタル化で、業界世界3位に飛躍させた事例(解説)
2.1 会社名:セメックス:セメント製造・販売会社
  経緯: 1906年創設 メキシコ
1985年創始者の孫ロレンツオ・ザンプラノ(スタンフォード経営学修士)CEO
   当時は規制緩和等もありセメックスには経済的に厳しい環境にあった。
1987年CIOとしてヘラシオ・イニゲスを迎え、CEO/CIO二人三脚体勢をつくる
  ミッション: どうすれば、自社のコストを抑えたまま、顧客が常に抱える問題―とりわけ絶え間なく続く、予想不可能な受注の変化―の解決
    規制緩和下での外国企業の脅威との戦い
    ライバルとの差別化
    業界固有の不安定な経済からの、経営維持と発展
  戦  略: 「ありのままの姿」である過酷な状況の理解とその解消
    「あるべき姿」:過酷な事業体は他の業界にもある。これらのBP (ベスト・プラクティス)の活用で、問題解決ができれば、一挙に自社の優位性が確立されえる。
  方  法: 3つの組織のBPを着用する
    フェデックス社:需要予測できない顧客相手に、前例のない迅速性と信頼性で、世界中どこへでも低料金で荷物を配送する
    エクソン社:世界で最も進んだ石油輸送の追跡、計画、ルート変更のシステム開発。同社のタンカーは天候、政治、軍事的な不安の中で管理された運用管理システムを有している
    ヒューストン市の緊急事態通信システム:何百台という救急車、消防車の運用管理
  結  果: セメックスのデジタル化:ビットエンジン(成功の道具)通信衛星活用
    受発注システム:セメント納入は3時間から20分
    車両の運用効率改善で35%で運用
    運用経費削減(運転手、車両、燃料)
    顧客現場への納入品情報の正確な伝達
    顧客満足度100%

セメックス−顧客注文管理システム−

経営上の成果: 経営能力の向上で、弱小企業を次々と買収、傘下におさめて、
1999年世界3位のセメント会社に成長

今月のまとめ:
社会の経済環境の変化が早い中で経営するには戦略が成功要因として大きい。戦略を実現するためには、あらゆる経営的視点で考えた、構想計画が不可欠である。
デジタル化とは単に簡便なソリューションパッケージ(SP)を導入することではなく、経営の最も効果的なところに、デジタル化の最大の特徴を活かすことである。安易なBPの導入は、現状維持を正当化する場合も多い。
P2Mは「What to」のPMで、PMBOKは{How to}のPMであることを理解する。
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