投稿コーナー
先号   次号

「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜P2Mをグローバルに発信する力〜

井上 多恵子 [プロフィール] :8月号

 PMAJ協会の田中理事長をアシストする形で、7/19-21の3日間にわたり、学生数でフランス最大規模を誇るSKEMA Business SchoolでP2Mの講義を行った。同スクールのパリキャンパスは、パリから地下鉄で20分ほどのLa Villetteという下町のオフィスビルにある。今回の講義に参加した学生数は、ドクターコースの人も含め30名強。国籍は、フランス・ドイツ・インド・イラン・アブダビ・セネガル・イラン・中国・中南米他と多様で、まさにインターナショナル。英語が母国語の人は一人もおらず、お互いに表現やスペルを教え合ったりしながら共に学んでいた。残念ながら、日本人は一人もいなかった。
 初日と2日目の前半は、英語で書かれたP2Mのテキストに添って、事前ワークを踏まえて、3-4名のチームで担当部分をクラスメートに説明。Q&Aも含めて、各々45分のセッションだった。理解を深めるために、2012年のロンドンオリンピックを題材にミッションプロファイリングを作成した学生や、身近な例を用いてシステムマネジメントを解説した学生などがおり、教え方に工夫が見られた。それぞれの発表に対して、実務面からのコメントをすることが私の役目。その場で提供できるコメントは、勤務先の活動で社外に公開されている情報に限定されたが、できるだけ発表内容に関連性の高い実例をあげるよう心がけた結果、多少なりとも、テキストに命を吹き込むことはできたと思う。また、企業で研修業務をやる中で得たノウハウをもとに、学生の教え方についても、「全体像を示している」「前の章と関連づけて話している」などの良い点については、フィードバックを行った。時間の関係でコメントができなかったチームの学生から後で「発表を聞いてどう感じたか?」という質問もあったので、それなりに役立つ発言ができたと言えよう。
 2日目の午後は、田中理事長と私がそれぞれ考えたミッションについて、10数名のチームでプログラムに落とし込むミニワークショップを行った。田中理事長が提示したミッションは、「エコフレンドリーでエコスマートなビジネスを考えること」。私は、「2020年を考えた時に欧州にとって最大のチャレンジは何か?」のミッションオーナーになった。学生に与えられた時間はわずか2.5時間。その間に10数名の意見をまとめ、何に取り組むのかを決め、それについてのプロファイリング・バリュー・障害などを検討し、発表できる形に持っていかなければならない。その間、小さなテーブルを囲んでPCの小さい画面をのぞきこんで超接近して作業をするチームもいれば、テーブルの上に座る人も含め皆ゆったりと座り、お互いに適度な距離感を保って話し合いを行ったチームもいた。国民性の違いが出たのだろうか。「2020年を考えた時の欧州にとって最大のチャレンジ」として、彼らは「イノベーションにより、経済力を復活する」というテーマを選び、立派にまとめ上げてくれた。テキストに書かれた内容を一度自分の頭で考え、他の人の意見も聞きミッションプロファイリングをより深く理解するという点で、このワークショップをみなさんにもお薦めしたい。
 この講義で私が一番知りたかったのは、「P2Mという日本発の体系を学生がどう捉えたか?」ということだった。彼らが出したP2M主な良い点は下記の通り。
1. ファイナンスが入っている点が、他のPMの体系に無い良い点だ。
2. 答えが無い未知の環境に生きている自分たちにとって、最初から進むべき道が決まっていることは少ない。P2Mは、やり進めながら不確定な要素に対応しないといけない複雑な世界に上手く対応する考え方を提供してくれる。
 一方で、P2の課題として彼らが挙げた点は
1. 英文で書かれた研究論文が少ないこと。
2. P2Mを適用した実例が少ないこと。
 両方とも、もっともな点だ。P2Mを適用した実例は、国内向けジャーナルやシンポジウムなどで発表されている。P2Mの価値を高めるためには、これらの中から、参考になるものはグローバルに発信していくという姿勢が大事だ。P2Mのグローバル発信力を強化するためにも、プログラムを活用した実例のケースを持っている方と組んで、英語で書くことを考えたい。良い事例をお持ちの方がいれば、ぜひコンタクトしてほしい。
 今回の講義を通じて、グローバルなネットワークを構築することの重要性も、改めて感じた。田中理事長や彼のPMの世界における知人の幅広く、かつ強固なネットワーク、そしてそれらを維持・さらに強化するために彼らがいかにまめに、迅速に、フットワーク軽く行動しているのか。これを身近で見聞きすることができた点は、将来につながる大きな収穫だった。田中理事長や彼の知人が持っているバイタリティーは実にすごい。見習える点は、少しでも見習っていきたい。
ページトップに戻る