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「システム思考リスクマネジメント手法 (7)」

河合 一夫 [プロフィール] URL: こちら  Email: こちら :8月号

 前回までは,リスクシナリオとリスクメタ言語によるリスクの表現について述べた.今回は,リスクの評価について述べたい.通常は,発生確率と影響度の2軸上の平面にマップする.従来の方法は,脅威(マイナス)のリスクに重点をおいていたこともあり,好機(プラス)のリスクを同時に表現することが難しかった.しかし,今後は脅威(マイナス)と好機(プラス)を併せて評価を行うことが必要となる.これは,昨年改訂されたISO/IECガイド73(リスクマネジメント − 用語 − 規格における使用のための指針)でのリスク定義の変化において,その一面をみることができる.2002年版のリスク定義である“事象の発生確率と事象の結果の組み合わせ”から,“目的に対して不確さが与える影響” に変更された.これは,リスクの概念が変化していることを示しているとともに,プラス面に対する影響をより考慮すべきであることを示唆している.
 そこで,本稿ではリスクシナリオをマッピングする新たなツールを提案したいと思う.本連載で紹介している手法では,以下に説明するツールを用いてリスクの評価,対応,リスクマネジメントプロセスの評価を行う.このツールでは,リスクシナリオを発生確率(発生頻度)と影響度の2軸の平面にマップすることで行う.次図に示すように,発生確率と影響度を-1から1の間で表現する.好機は影響度が0〜1の間にマップされるリスクシナリオであり,脅威は影響度が-1〜0の間にマップされるリスクシナリオとなる.ここで影響度を-1〜1の間で表現しているが,プロジェクトに応じて値の範囲を変える.また,マイナスの発生確率は,リスクの発生のしにくさを表すことにする.従って,発生確率0.8は,-0.2と同じ意味を持った値ということになる.(注意しなければいけないのは,発生確率の0, 1, -1は,範囲外ということである)

(1) 第1象限のリスクは,好機のリスクを表す.
(2) 第2象限のリスクは,脅威のリスクを表す.
(3) 第3象限のリスクは,対応された脅威のリスクを表す.発生確率は,発生のしにくさを表している.何らかの対応がされたことを示している.
(4) 第4象限のリスクは,未対応もしくは対応を誤った好機のリスクを表す.脅威のリスクとは逆の意味を持つ.好機のリスクが発生しにくくなっていることを表している
 このマップを利用したリスク対応について,次図を使用して説明する.
(1) ①は,脅威のリスクに対して,発生確率と影響度を下げる対応を示している.
(2) ②は,好機のリスクに対して,発生確率と影響度を上げる対応を示している.
(3) ③は,脅威のリスクを好機のリスクに変える対応を示している.リスクの定義である“目的に対して不確さが与える影響”に照らして考えると,不確かさが目的に対してプラス面に出るような対応を実施するkとを示している.
(4) ④は,脅威のリスクに対する対応の結果,発生確率に変化があったことを示す.
(5) ⑤は,好機のリスクに対する対応の結果,発生確率に変化があったことを示す.
 このマップでリスクの変化を監視・モニタリングすることで,リスクに対する対応策の評価を兼ねることが可能となる.即ち,脅威のリスクや好機のリスクへの対応によりリスクが移動している状況を評価することで,リスクマネジメントプロセスの評価をすることができる.これは,リスクの見える化とともに,リスク対応の見える化にもつながる.次回は,具体的な事例を用いて本ツールの利用方法を説明したい.
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